きのう、5月14日、複数のメディアが、国家安全保障上のリスクをもたらす企業の通信機器の使用を米国企業に禁止する大統領令に、トランプ大統領が今週署名する見通しと報じた。これは、中国の通信機器大手、ファーウェイ(HUAWEI、華為技術)との取引禁止をねらったものとみられる。
すでに、この半年間、トランプ政権は、親米の各国政府に、軍事的セキュリティを理由に、政府用達からファーウェイ製品の排除を要請している。
それだけでなく、米国政府の要請で、昨年の12月にファーウェイの副社長がカナダで逮捕された。米国に身柄を引き渡すか否かの裁判が、カナダでまだ続いている。
ファーウェイの製品が、国家安全保障上のリスクをもたらすかどうかは、別段、確証があるわけではない。要は、通信機器の技術が、米国の企業より、中国のファーウェイが高くなっただけである。これに対し、トランプ政権が、軍事的危機をあおって、世界市場からファーウェイを追い出そうとするものである。
5月2日のBBC放送は、英国政府の国家安全保障会議の協議内容が漏れたことで、メイ首相が国防相を更迭した、と報じた。漏れた内容は、英国政府がファーウェイ製品を使うという決定であった。トランプ政権に従わないという、すごく まっとうな結論である。
日本政府だけでなく、日本のメディアが、トランプ政権が言うことを支持した報道をしているには、がっかりする。トランプ政権の「黄色人種たたき」に日本のメディアが無批判に追随しているように見えるからである。
藤原帰一だけが、きょう5月15日の朝日新聞夕刊の「時事小言」に、トランプの外交政策に疑問を投げかけている。
中国のファーウェイが具体的に何かをしたわけではない。IT技術が軍事的技術になりうるという根拠のない米国民の恐怖心を利用して、米国政府はファーウェイをたたいている。そして、そのターゲットはファーウェイから中国政府そのものに拡大している。いずれ、中国系米国人排除に行くかもしれない。
トランプの補佐官ジョン・ボルトンや下院議長ポール・ライアンは、中国たたきを先導しているが、彼らは札付きの極右で、レイシストである。
私はIBMに勤めていたから知っているが、米国のIT技術研究開発には、アングロサクソン系はもはや関わっていない。理由は簡単で、IT技術研究開発は地味で根気と集中力が必要とされる仕事で、アングロサクソン系の人間はやりたがらないからだ。15年前、私のいたIBMの研究所では、白人(会社ではユーロピアンという)の応募がゼロになった。米国のIT産業をささえているのは、アジア系(中国人、インド人、ユダヤ人、イラク人、イラン人、エジプト人)、黒人(会社ではアフリカンという)、ヒスパニック(中南米出身者)である。そして、少々のユーロピアン(イタリア人、ポーランド人)がいる。
だから、中国の会社が、IT技術で世界一位になったって、何も不思議でないし、別に困ることでもない。
中国政府が情報技術を使って何か悪さをするかのようなことを、米国政府が言っているが、現実に情報技術を使って個人情報を取得し、分析しているのは米国政府である。高度のIT技術が防諜に必要になるのは、政府が国民の行動と思想を管理しようとしたときだけである。
私がIBMにいたとき、米国政府は民間のコンピュータに高度の暗号を載せることを禁じていた。高度の暗号を使用するときには、その暗号解読キーを米国政府に届けなければならなかった。すなわち、昔は、米国政府だけが、暗号メールを解読し、盗聴できた。
しかし、今、政府が求めていることは、怪しげな人物の盗聴だけでなく、国民の全個人情報を取得し、データベース化し、行動と思想を分析し、管理しようとしている。選挙の投票行動や性癖や友人関係などの個人情報をとろうというのである。
米国政府による全米国民のメールやインタネット・アクセスの監視が、オバマ政権時に発覚した。あばいたのは、ウィキリークスのスノーデンである。米国政府はその非を認めず、スノーデンを国際手配にしただけで、トランプ政権になっても続いている。
高度の情報処理技術が求められるのは、政府による全国民の監視のときである。これは、別にファーウェイが得意とする高性能のハードウェア技術ではない。
したがって、ファーウェイをたたく理由が私にはわからない。私には、中国人が IT 技術研究開発の主力になったことからくる、白人層の反動、レイシズムに見える。日本人がこのヘイトスピーチに加担するのは、理解しがたい。
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