2006-0315yms004
方違え紛れて泊まったあのかたは
怪しいままに帰られたのね 悠山人
○紫式部集、詠む。
○略注=いったいあれは誰だったのかしら。方違え(かたたがえ)泊まりが明けて、とぼけた朝の顔で、見分ける間もなく出て行かれたのは? 夜中に訳の分からないことを口走ったりしていらしたのに・・・。少し長い詞書を写すと、「方違えにわたりたる人の、なまおぼおぼしきことありて帰りにけるつとめて、朝顔をやるとて」。薄暗い中でも、朝顔を渡して送り出す作者。
¶方違へ=陰陽道で、凶(禍)方(まがかた)へ外出する時には、直接に
向かわずに、いったん吉(恵)方(えほう)の知人宅へ一泊してから、あ
らためて目的地へ行くこと。今でもこれを守っている人たちがいる。
¶なまおぼおぼし=なんとなくはっきりしない。
¶つとめて=早朝 early morning、翌朝 next morning の二義。
¶それかあらぬか=(夜中に怪しい振舞いをした)あの方なのかどう
か。
新潮版は「作者と姉のいる部屋へやって来て、(略)色めいたことを語り
かけた」と推定する。
¶あけぐれ(明け暗れ)=明けきらない薄暗さ。
¶そらおぼれ(溺れ)=「溺(ほ)る」は、現代と同じように、水に溺れる、
夢中になる、の二義。ここでは強意の接頭語「そら」が付いて、「そらと
ぼける」こと。この接頭語は現用。
□紫004:おぼつかな それかあらぬか あけぐれの
そらおぼれする あさがほのはな
□悠004:かたたがえ まぎれてとまった あのかたは
あやしいままに かえられたのね