【埃土雑記】
4 李 蘭淑(36歳 大学講師)
夜中の十二時を過ぎました。明日は、といっても、もう今日は、になってしまいましたが、これまたオプションのギョレメが早出なので、簡単にさっきの踊りのこと、書いておきます。
夜七時半、一台のバスへ乗り込んだのは、黄色組11人、赤色組22人でした。小高い丘の上のホテルを出て、昼間とは全く違った顔を見せる夜の町並みを十五分ほど走ると、会場です。駐車場は、照明灯がないので定かではないものの、どうやら満杯の気配。
中は、中央広場から何条か放射状に、岩を繰り抜いた客席になっています。先ほど夕食を終えたばかりなので、テーブルの食べ物はそのままに、ワイン・グラスへ口をつけました。専属バンドが民族音楽を、絶え間なく演奏しています。欧米系、子ども連れ、日本人・・・二百人弱はいるでしょうか、狭い地下壕に喧騒が支配しています。
一流のコンサート会場で、アナウンスが一切流れないで進行するように、ここでもとつぜん、民族衣装の男性ダンサーたちが入場して、民族舞踊が始まりました。それからは、見飽きることのない衣装と踊りのオン・パレード。観客の反応のよさに、生バンドも盛り上がります。そしていよいよ、お目当てのソロ・ベリー・ダンス。
これはまさに芸術でした。同性の私でさえ、ほれぼれするほどの容貌・肢体・身のこなし。それまでざわめいていた客席も、彼女の一挙手一投足に完全に魅了され、空間が文字通り独壇場になりました。アレクサ(と私は名をつけた)のパフォーマンスを眺めているうちに、かつて若きアレクサンドロスも遠征の先々で、こうした側女たちにいっときの心の平安を得たのだろうか、と思い馳せたことです。かなり長い時間、タイム・トリップしていたようでしたが、気がつくとアレクサは、次々と客を手引きして円陣を作らせ、踊らせ、一体感を演出していました。幸いに最前部に座っていた私も、踊りの円に溶け込んだこと、もちろんです。
アレクサとの逢会は、私にとって大切な旅の思い出になりそうです。
=編集部注=李さんは、某国立大学で韓国語を教えています。今回は親友と二人での参加。
ET37