青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第104回)

2011-10-07 11:05:39 | その他の植物

東洋のレタス“麦菜”の謎 Ⅱ⑤


広東河源2011.9.29-30


前記の、シェンツェンの食堂の料理長のアドバイス、「栽培している油麦菜(の花)を見たければ、河源市に行けばいい」に従って、今、その河源市(センツエンからバスで3時間)に来ています。ホテルの向いに日本料理店があり、そこのスタッフたち(日本語を喋れるのは一人もいない)およびホテルのフロントに訊ねてみました。

まず、わざわざこの町に「油麦菜」の花の撮影のために来た、という事を、呆れられてしまったです(そりゃそうでしょう、何もここだけで油麦菜を栽培しているなんてことは無いはずですから)。

スタッフの方々が言うには「うちの店では生菜(レタス)を使っているけれど、油麦菜も苦麦菜もとても美味しい! ともに昔から食べていた様に思う、苦麦菜はどこにでも生えている、油麦菜もどこかで見られるはずだけれど、今は花の季節ではない」。

■香港のJTB代理店(日本人スタッフを通じて)、及び日本料理店(日本語を喋れるスタッフはいない)の従業員。「油麦菜は普通に食べている、昔から食べてはいるが、確かに近年急速に人気だ出てきたようだ、苦麦菜は食べない(きっぱりと断言)」。

■センツエンや香港など、大都会の人々にとっては、レタスがブランド品、苦麦菜? そんなの食べるわけないでしょう!ということなのでしょうか。

それに比べ、陽春にしろ梧州にしろ河源にしろ、中国南部の地方中心都市では、苦麦菜の人気は、意外に高いのです。

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9月29日

タクシー代600円を奮発、ホテルのフロントで(今は油麦菜の花は見られないと思うが、との注訳付きで)教えて貰った郊外の農場に行ってきました。畑作業中の人々に“油麦菜の花を写したいのですが”と中国語で書いたメモを見せると、“油麦菜の花は無い”という返事が返ってきます。それで引き下がるわけには行きません。「緑田蔬菜生産基地」という所を教えられたのでそこを訪ねてみました。

事務所の方々は大変親切で、「日本から、油麦菜の花を写しに来ました、苦麦菜の花は、これまで何か所かで写したのですが、油麦菜はスーパーや市場には沢山出ているのに、生きた実物には出会えません、センツエンのレストランで、“河源市に行けば見ることが出来る”と教えて貰ったので、昨日この町にやって来ました、花の撮影は無理でも、せめて畑に植えられている油麦菜を見ておきたいのです、どこに植えられているか、教えて頂けないでしょうか?」と訊ねたところ、丁重に次のように答えて頂きました。

香港やセンゼンの市場に出ている油麦菜や生菜の多くは、北京や上海をはじめとした、中国各地から搬送されてきたものである(膨大な消費量に特定の生産地域では対応できない)。この辺りは、油麦菜の生産は余り盛んではない。主要生産地は、雲南省の昆明である。花はこの時期には咲いていない。冬から春にかけてだが、見るのは非常に困難。今はごく小さな、芽生えたばかりの葉しか見ることが出来ないだろうが、それでも良ければ、近くの農場に車で案内してあげる。

という事で、連れて行って貰ったのが、上の写真の畑。バナナとパパイアで囲まれた畑一面に、油麦菜と生菜(レタス)が植えられています。この町の付近を北回帰線が横断していて、すなわち亜熱帯と熱帯の境界地域です。バナナとパパイアとレタス。何だかピンと来ない組み合わせ。

もう一つ別の畑にも行ってみました。こちらは、油麦菜、生菜に、苦麦菜も栽培されています。(梧州など他の地域と同様)苦麦菜だけが、塔が立った株が、畑のあちこちに見られます。おおむね一か所に固まって生えているので、“残っている”というのではなく“残されている”のでしょう。種子の採取が目的なのでしょうか? 油麦菜は、塔の立った個体は一つもなく、刈り取った後が見られるだけ。花が残っていると、なにか具合の悪いことがあるのかも知れません(タンポポ亜科の種は自家受粉のはずなので、交雑する心配はないと思うのですが)。





(写真上と下左)左が油麦菜、右が生菜。背景はパパイアとバナナ。(下右)油麦菜。市場に出荷されるのはもう少し先?



(写真左)油麦菜だそうです。花が咲く前に刈り取ってしまうのでしょう。(写真右)苦麦菜の塔立ち個体。右半は「甜麦菜」。



油麦菜の若い株と、苦麦菜の塔立ち株。



苦麦菜。右写真は「甜麦菜」と呼ばれる品種。



(下から)苦麦菜、油麦菜、生菜(レタス)
 

生菜、油麦菜、苦麦菜



(左写真、下から)苦麦菜、油麦菜、生菜 (右写真、左から)生菜、油麦菜、苦麦菜



花が咲いているのは、もちろん苦麦菜だけ。

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●油麦菜も苦麦菜も、最近になって品種改良され、一般に広まった、というのは僕の思い込みで、案外古くから知られていたようです。

●とはいっても、苦麦菜の場合、広い地域において「食用」として市民権を得たのは、ごく最近のことだと思います。油麦菜も以前から「食用」として利用されてはいたのでしょうが、急速に人気が高まったのは、比較的最近のことのようです。

●(苦麦菜はともかく)油麦菜が(ほとんど全くと言って良いほど)日本に紹介されていないのはなぜでしょうか?

●苦麦菜がアキノノゲシ由来であることは、ほぼ間違いないでしょう。油麦菜の由来は分からずじまい。単純にレタスの一品種と考えれば良いのか、もっと複雑な問題があるのか。油麦菜はアキノノゲシとは直接の関係はなさそうなのですが、全く無関係とも言い切れない。何らかの程度で、「レタス×苦麦菜」由来と考えるのが、座りが良さそうです。ただし今のところ実証する術はありません。

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以上、河源の畑での検証は、一応想定内の結果だったのですが、予想外の事実が一つ、むしろそちらのほうが、今回の収穫だったようにも思えます。

タクシー下りて、目を疑ったのです。農園周囲の路傍の一面に、アキノノゲシが生えている! 別に驚くことではないのかも知れません。梧州をはじめ、これまで訪れた広西~広東西部の苦麦菜栽培地の周辺では、見慣れた光景です。しかし、これまで目にしてきたのは“アキノノゲシそのもの”というよりも、明らかに“苦麦菜”の逸出由来と想定される個体です。それに対し、ここで見られる個体は、どれも紛いなきアキノノゲシそのものなのです。

どう解釈すれば良いのでしょうか? 一応、次の様な答えを考えてみました。

広西~広東西部一帯では、苦麦菜栽培化の歴史が古いため、在来自生するアキノノゲシと、品種改良が成された逸出苦麦菜が交雑、苦麦菜の性質に収斂し、苦麦菜に近いタイプの帰化雑草として存在している。一方、苦麦菜栽培の歴史が新しい広東東部一帯では、在来アキノノゲシと逸出苦麦菜との間に遺伝子交流がまだ進んでいず、そのままの形で在来アキノノゲシが残っている。

正反対の考え方も可能かも知れません。広東東部一帯では、より古くから苦麦菜の栽培化が成されていたことから、逸出し雑草化した集団は、永い時間の経過と共に、本来の野生アキノノゲシの性質に戻った。











この辺りの路傍で見られるのは、明らかに野生アキノノゲシそのものと思われる印象の個体です。










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最後に、
レタスとは?
アキノノゲシとは?
について考えておきましょう。

レタスと、世界中に帰化繁栄しているアレチヂシャ(トゲヂシャ、学名種名はレタスとは別)の関係については、ネットでの検索ではほとんど触れられていません(せいぜい「似た花が咲く」程度の記述)が、まともな図鑑類などでは、後者は前者の原種である可能性が強い由、記述されています。しかし、アレチヂシャは“野生種”とは言い難い分布の様相(帰化雑草状)を示していることから、アレチジシャそのものを「原種」と言いきって良いのかは、疑問です。

したがって、各地で見られるアレチヂシャからレタスが作出された、というよりも、原種が育種改良されレタスとなる過程で、逸出帰化雑草化し、原種の性質に戻ったのが今見られるアレチヂシャ、とするのが妥当なのではないかと思われます。原種とアレチジシャは形質が相同でも、今に至る時間レベルでの相違があり、全く同一とは言えない、と考えます。

アキノノゲシも似た問題を抱えていると思います。

以前の図鑑類などの記述では、日本の在来分布種となっていたのですが、最近の(ネット)記述を見るに「史前帰化種」とされているようです。むろんその可能性は大いに高いのでしょうが、そうでない(というか、そう簡単には括れない)可能性もあります。どの様な根拠で「自然帰化植物」とされているかについては、ほかの多くの人里に生える“雑草的広域分布植物”共々、「人里的環境(極相状態ではない環境)に生えているから、よって二次的な分布」ということなのでしょう。しかし、原的環境自体が、二次的に出現した人里的環境に類似していたため、人里的環境に収斂された形で今に至った、という形も否定できない。人里的環境に収斂され拡散繁栄する「遺存的植物」と考えることも出来るのです。「史前帰化種」との結論を下すのは、そう簡単ではないと思います。

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河源を離れる前日の夜、ホテルの食堂で「苦麦菜」「油麦菜」がメニューにあるか?とたずねたら、もちろん!と答えが返ってきました。ともに炒め物。いずれも一皿(一人ではとても食べ切れません、3~4人分)15元(180円ほど)。スープにも、卵などに加え、茹でた「苦麦菜」「油麦菜」がセットで入っています。

油麦菜は品種の「香麦菜」だそうです。苦麦菜のほうはいわゆる「甜麦菜」でしょうか。味はほとんど区別が付きません。それと分かって慎重に吟味すれば、油麦菜のほうは、何となく独特の“香り”がします。苦麦菜のほうも、うっすらと野生の風味(青臭み)が感じられるような気がします。いずれも、レタス同様のしゃきしゃき味とトロ味があり、大変に美味しいのです。こんなに美味しい野菜が、どうして日本に紹介されないのか、今更ながら不思議に思えます。




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[現時点での結論]

苦麦菜(甜麦菜) Lactuca indica var.?

アキノノゲシLactuca indicaの一栽培品種

アキノノゲシは、アジア各地に広く分布(どの地域の集団が在来分布なのかについての検証は成されていない)。多くの地域で家畜の飼料として具されるほか、(主に薬膳料理として)中国南部の一部地域では古くから食用とされてきた。近年、品種改良が進むに伴って人気が高まりつつあり、中国南部を中心に、ポピュラーな野菜となっている。

葉に強い苦みをもつことから一般受けし難い半面、その苦味が人気の要因ともなっているようである(苦味の少ない甜麦菜などもある)。原則として生食はせず、主に炒めて食べることが多いようである(炒めると苦味は消える、茹でて食べることも?)。

葉の色は艶消し状。深い切れ込みのあるものが主体だが、全縁で幅広いものも多い。頭花は比較的大きく(径2~2.5cm)、舌状花は淡い卵黄色でほとんど白色に近いが、雄蕊が鮮やかな黄色のため、離れて見ると頭花全体が黄色のように感じる。種子は、左右に幅広い翼を持った楕円形で、濃黒褐色。

栽培地では、生葉の収穫後、塔の立った株を残し、そこから種子を採取して畑に撒く。栽培地(広東・広西など?)の周辺には、野生化した逸出株を多く見かける。



油麦菜(香麦菜、甜油麦菜、春菜?) Lactuca sativa var.?

レタスLactuca sativaの一品種?

学名上は、コスレタスやロメインレタスの名で呼ばれるL.sativa var. longifoliaとされたり、ステムレタス(茎ヂシャ)L.sativa var. angustanaの葉食品種(カキヂシャ≒莴笋)とされたりするが、それらと相同であるか否かについては未検証。

レタス(チシャ)またはその原種と目されるアレチヂシャ(トゲヂシャ)L. serriolaから、中国で独自に改良された野菜である可能性も。さらに苦麦菜(あるいはアキノノゲシ)との間の何らかの関わり(遺伝的交流?)も考えられなくはない。それらを含めた発祥の由来についても未検証。

中国では古くから各地で食用として利用されてきたが、近年急速に人気が高まり、アブラナ科の青菜類と並ぶ、メジャーな野菜となっている。通常生食はしないが、苦味はほとんど無く生食も充分に可。茹でて食べたり、炒めて食べたりすることが多い。薫りのある香麦菜をはじめ、様々な品種がある。

茎は中実で太く(食用の「莴笋」とする)、葉は通常全縁、色はレタスに似て明黄緑色の艶がある。頭花については未検証だが、レタスと同じとすれば、麦菜(アキノノゲシ)より明らかに小型で、舌状花は黄色味をより強く帯びる。種子(購入品による検証)は、前後に細長く、左右に顕著な翼は持たない。ただし、種子の色は淡色のレタスと異なり、苦麦菜やアキノノゲシ同様に濃い黒褐色を呈する。

栽培地では、塔の立った株は見られず、葉の収穫後に刈り取ってしまうものと思われる。市販の種子を毎年撒種するのであろう。


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