daum.net(出典)
長く続く苦しみの中、私はようやく一歩の道を見つけた。
もし、この道を行けば、私はここから抜け出せるんだろうか。
業火に焼かれるような。
冷水で身体の芯から冷えるような、この地獄と呼べる所から私は抜け出せるんだろうか。
自然に顔の筋肉がゆるんだ。
微笑みのようなものが私の口元に浮かぶ。
目には希望が宿ってきた。
私は一歩を踏み出した。
信じて行こう。
今、見つけたこの道を、もう1度信じてみよう。
私に当たる、風も徐々に和らぎ、熱さも寒さも感じなくなった。
何年も感じたことがない心地いい春の日の風が私の髪をそっと撫でた。
「いいのよ、それで」
私の中で誰かが呟いた。
いいのよ、そのまま歩いて。
私の足はさらに軽くなり、道をどんどん自信を持って歩き出した。
そこへ、向こうから人が来るのが見えた。
私はその人の顔を喜んで見ようとした。
そしてまた心が凍り付く感覚を思い出した。
その人は苦し気な表情を浮かべていた。
この間までの私が浮かべていた、それとよく似ていた。
その人はしっかりと身体を寒さから守るように、両手で身体を抱きしめていた。
震えている。
私の足が一瞬、止まりそうになった。
(あなた…)
声が出そうになったが、その声がその人のうめき声を聞いた途端、喉の奥へ引いてしまった。
それは数年前の私の姿だ。
地獄へ自ら赴いたときの私の姿とまるで一緒だった。
私は気づく。
ああ、この人はこれから地獄へ行くのだな。
私が昨日までいたあの場所へ。
その人はうめき声を漏らしながら、誰かの名を呟いているようだった。
憎い、憎いと低い声が言っていた。
私の足は軽いまま、まるで羽でも生えて導かれるまま、まっすくに進んでいた。
すれ違った。
数歩行った所で私は、思わず振り返った。
今なら、今ならその人をまだ止めてあげることができる。でもそれ以上歩いて行ってしまったら、もうこちらへは帰れない。
何故かそんな気がした。
すれ違った人の背中は炎が渦を巻くように少しずつ大きくなっていっていた。
すれ違うだけの人。
私にはそれしか言えない。
あの人は、これから、憎しみの中でしばらくこの世の業で苦しむのだろう。
それはあの人が自ら導いた結果なのだ。
かつての私がそうであったように。
すれ違うだけの人だった。
みんなそして、天国と地獄を行きかう。
地獄へ行く人をどうぞ、早くこちらへお帰りなさいと祈りながら。