ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『太陽にほえろ!』#165

2019-05-23 12:00:13 | 刑事ドラマ'70年代







 
☆第165話『回転木馬の女』

(1975.9.12.OA/脚本=畑 嶺明&小川 英/監督=児玉 進)

以後、殿下(小野寺 昭)のエピソードを数多く手掛けられる脚本家=畑嶺明さんの初登板作で、かなりの異色作でもあります。

羽田空港で密輸宝石の取引があるという密告電話が入り、空港ロビーを張り込む藤堂チーム。

海外から2億円相当の宝石を持ち込み、暴力団・竜神会の組員と接触した実業家=中原(藤巻 潤)を逮捕するんだけど、この中原が空手五段で強いのなんの!

なにしろ七曲署屈指の猛者であるゴリさん(竜 雷太)とテキサス(勝野 洋)が束になっても蹴散らされちゃう屈強さで、空港ロビーを舞台にした立ち回りはかなり見応えあります。

しかし、今回の主役は殿下です。なぜ、殿下が絡まない冒頭シーンで、容疑者=中原の強さをやたら強調する必要があったのか? その疑問の答えは、クライマックスで明かされます。

中原には清楚な美人妻=菊江(金沢 碧)がいて、取引に失敗した竜神会が彼女を狙って来る可能性がある為、彼女をガードすべく張り込む殿下。

そして案の定、殿下の目前で菊江が拉致されてしまう。ここまでの描写も、ホラー風味だったりスリラー仕立てだったりで異色なんだけど、この後の展開がまた異色。

結局、竜神会は彼女を監視してただけで、別に悪い事してないんですよね。何でもかんでも暴力団のせいにしちゃいけませんw

わずかな手掛かりを元に、菊江の行方を必死に捜索した殿下は、なんと岩手県の農村で、夫とは違う男(永井譲滋)と穏やかに暮らす彼女を発見するのでした。

そう、この誘拐は菊江の狂言だった。夫の密輸取引を警察に密告したのも彼女。全ては、夫から逃れて一から人生をやり直す為に、彼女が仕組んだこと。

しかし、なぜ、そうまでして? 中原は空手五段だけど、別にDV夫だったワケじゃない。それどころか、がむしゃらにお金を稼ぎ、密輸にまで手を染めたのも、全て彼女を幸せにしたい一心からだった。

「でも、違うんです。あの人にとって、私は人形でしかないの。ただの着せ替え人形に過ぎなかった……私、お金なんて欲しくなかったの」

私などには理解しようがない、実に複雑な女心ですが、とにかく彼女は、誘拐されて殺されたと思い込ませる事で、夫を傷つけずに姿を消したかったワケです。

とりあえず、事件は解決しました。警察がやるべき事はもう無いんだけど、殿下は菊江の行く末が気になって仕方がない。もし真実を知ったら、中原は妻を殺してしまうかも知れません。

そうなる前に、第三者である自分から話してみようと考えた殿下が、保釈された中原の家を訪ねてみたら驚いた! なんと、菊江がなに食わぬ顔で家に戻ってたのです。

なんだか、アメリカ映画の話題作『ゴーン・ガール』を彷彿させる展開ですが、菊江は決して、あの映画みたいな悪女じゃありません。彼女は、もしかしたら殺されちゃうかも知れない事も覚悟の上で、夫に真実を打ち明ける為に戻って来たのでした。

間に立とうとする殿下ですが、彼女はきっぱりと断ります。

「いいんです。あなたから話せば、どうなると言うんですか?」

「…………」

確かに、誰の口から聞こうが事実は変わりません。もはや、殿下に出来ることは何もない。そもそも、赤の他人の夫婦問題です。

案の定、帰宅した中原は菊江の話を聞いて逆上し、暴れます。なにしろ空手五段、殺意は無くても弾みで死なせちゃうかも知れない。

どうしても放っておけない殿下は、家に飛び込みます。

「誰だお前は!?」

「奥さんと一緒だったのは……僕です!」

「なんだと?」

中原は、殿下とは初対面。疑う余地もなく、殿下を表に連れ出した中原は、警告します。

「帰れ……帰らないと、俺はあんたを殺してしまうかも知れない」

だから冒頭で、中原の圧倒的な強さを見せておく必要があったワケですね。あのゴリさんとテキサスが二人掛かりでも、互角に闘った男です。はっきり言って、殿下なんか一捻りですw

それでも逃げずに、中原の怒りを一手に引き受ける殿下。当然ながら、抵抗する間もなくズタボロにやられちゃう。

なぜ、殿下はそうまでして、菊江を守りたいのか? 刑事としての任務は、とっくに終わってるのに……

答えは二択。1、殿下はマカロニ以上に惚れっぽい。2、殿下は真正のマゾである。……私は2番に1票ですw

思わず止めに入る菊江に、中原が再び手を上げた時、血まみれの殿下が叫びます。

「よせ……奥さんを殴るな……殴るなあーっ!!」

鬼気迫る殿下の形相に、中原もついに根負けするのでした。

「負けたよ、あんたには。……菊江を、幸せにしてやってくれ」

犯罪を描くドラマなのに、悪い奴が1人も出てこない。そういう意味でも異色作ですよね。菊江と駆け落ちした男も純朴で、こんな騒ぎになってる事は一切知らないんです。

本作も恒例「殿下いじめ」シリーズの1本と言えますが、殿下自ら、すすんでイジメられてる点でも異色と言えましょう。

最終的に中原が折れて、菊江はめでたく、純朴な彼と一緒に人生の再スタートを切りました。一方、ボコボコにされた殿下には、何も残らない。

やっぱり、殿下は真正のマゾなんです。そう解釈すればハッピーエンドですw まぁ、一番の被害者は中原さんですけど。

女は怖い。ほんと怖い。それが結論ですね。

菊江を演じた金沢碧さんは、当時22歳。日テレ青春シリーズの常連で、同年スタートの『俺たちの旅』(中村雅俊さんの恋人=ヨーコ役)で注目されたのは、前回の水沢有美さんと同じ。『太陽~』は翌年放映の第230話『ピアノソナタ』と、PART2の第1話『悪魔のような女』にもゲスト主演されてます。

中原役の藤巻潤さんは、長寿アクションドラマの先輩番組『ザ・ガードマン』でレギュラーを務めた俳優さんで、実際に極真空手の有段者。全身からほとばしるオーラにはホンマモンの迫力があり、今回の役はまさにハマリ役でした。
 
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『太陽にほえろ!』#164

2019-05-23 00:00:09 | 刑事ドラマ'70年代









 
☆第164話『バラの好きな君へ』

(1975.9.5.OA/脚本=鴨井達比古/監督=竹林 進)

銀行強盗グループの主犯=安田(横光克彦)が逃走の果てにスナックに籠城、その店でピアノを弾く純子(水沢有美)を人質にとります。

純子は、最近モテモテなテキサス(勝野 洋)の、一番新しいガールフレンド。なぜか今回の事件に発端から関わってる彼女に、テキサス以外の刑事たちは疑惑を抱きます。そう、実は純子は安田の恋人だった!

恒例の「好きになった彼女が犯罪者だった」シリーズの一編で、ちょっと強引な展開や陳腐な描写も目立つ、決して良く出来てるとは言い難いエピソードです。

けれど、本作が描こうとしてるのは事件でも謎解きでもなく、登場からちょうど丸1年経った新人刑事=テキサスの成長ぶりなんですね。もうホント、事件なんかどーでもいいんですw

ボス(石原裕次郎)はあえて、純子が強盗の共犯者であるか否かの判断を、よりによってテキサスに委ねちゃう。本来なら、その判断力が最も鈍る立場にいるテキサスに!

いよいよ純子を盾にし、逃走を謀る安田。その前に立ちはだかったテキサスは、銃口を安田にではなく、純子に向けます。

「撃て。そしたら俺はその女を撃つ。お前は素人、俺は刑事だ。お前、1発で俺を殺すことは出来んだろう。だが俺の弾は、必ず女に命中する。それで良ければ撃て」

土壇場まで純子の無実を信じてたテキサスが、いくつかの状況証拠から冷静に推理を組み立て、彼女が安田と愛し合ってる=共犯者だと確信したワケです。

私情を抑え、あくまで刑事として行動し、みごと事件を解決させたテキサスを、仲間の刑事たちが称えます。

みんな何も言わず、一人一人テキサスの肩を叩いて、アイコンタクトだけで想いを伝えて去っていく。そんな描写にいちいち時間を割くのが『太陽にほえろ!』なんですよねw

で、視聴者は胸騒ぎを覚えるワケです。マカロニ(萩原健一)もジーパン(松田優作)もちょうど丸1年、すっかり成長したところで殉職しました。これはいわゆる「死亡フラグ」みたいなもんです。新人刑事は「死」に向かって成長していくワケで、思えば恐ろしく残酷な番組ですよねw

尚、この時期から、当時の七曲署の制式拳銃だった「MGCハイパト」にバリエーションが加わります。ゴリさん(竜 雷太)専用のM15マスターピース風カスタムと、殿下(小野寺 昭)専用のM19コンバットマグナム風カスタム。いずれも銃身を2.5インチ位に切り詰めたオリジナルモデルで、後に『大追跡』等のドラマにも流用される事になります。

ゲストの水沢有美さんは当時24歳。日テレ青春シリーズの常連女優さんで、特に『俺たちの旅』における「いろは食堂」の看板娘=奈美役は人気を博しました。青春シリーズの兄弟番組とも言える『太陽にほえろ!』にも、PART2に至るまで計9回ゲスト出演されており、本エピソードがその第1弾。

歌手としても精力的に活動、ふるや杏さんとのユニット「乙女座」として、また西郷輝彦さんや谷村新司さん、そして小野寺昭さん(!)とのデュエット曲などもリリースされてます。

犯人役の横光克彦さん(当時のクレジットは横光勝彦)は後に更正され、ライバル番組『特捜最前線』の紅林刑事役、そして国会議員にまで出世なさいました。
 
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