グループではなく単独で爆発的に売れた史上最後のアイドル「あやや」こと松浦亜弥さんが、前回レビューした『スケバン刑事/コードネーム=麻宮サキ』(’06) よりもずっと早い、2002年という人気絶頂期に刑事ドラマ『亜弥のDNA』で主役を張ってたことをご存知でしょうか?
と言ってもそれはプライムタイムの連ドラじゃなく、テレビ東京系列の深夜バラエティー番組『アイドルをさがせ!』内の1コーナーで、各話10分にも満たないミニドラマシリーズ。
なんだけど、異常なほどの刑事ドラマ愛に満ちた内容で、かつ私好みのナンセンスなユーモアに溢れた作品でもあるから、このブログで取り上げないワケにはいきません。スケバン刑事はただの「前ふり」です。
よっぽどの天才でイケメンなクリエイターによる作品だと私は確信してるけど、ちょっとクセの強い作風だったりもするので、好みはきっと岐れる事でしょう。
だとしても、あやや本来の魅力、あの怪物的なアイドルパワーを再確認するにはうってつけのドラマ。なにせ、あやや以外は全員くまなく無名のアクター! そして見るからにチョー低予算! なのに輝いてる!
石原裕次郎さんが「太陽そのもの」と云われたのと同じように、あややの存在が皆を輝かせてる。まさにスーパースターで、アイドル中のアイドル! それが本来の松浦亜弥さんです。
主人公は、あさひが丘中学校に通う中学3年生の、松浦亜弥。ドラマや映画において、売出し中の新人タレントに芸名と同じ役名を与えるのは昭和からの伝統。(逆にデビュー作の役名を芸名にする人も多かった)
あややの「人気絶頂期」って書いたけど、正確には「これからブレイクしようとする時期」に出演が決まり、撮影期間中にみるみる売れっ子になって紅白出場まで果たし、こんなちっぽけなドラマに出てる場合じゃない状況の中、針の穴を通すようなスケジュールの隙間を縫って撮影された、苦心の作。それが『亜弥のDNA』。
全エピソードの演出と脚本を任されたK監督は、自主映画上がりでこれがプロデビュー作だったという、マイナーどころか素人に毛が生えたばかりの超ド新人。
もし、あややのブレイクがあと数日早かったら、K氏が監督を任されることは無かった筈で、このときに彼は一生分の運を使い果たし、以降は苦労の絶えない人生を送ってるみたいですw
第1話『足を交互に出して走れ!』は、山田署捜査一係のボンクラ刑事コンビ=田口(三遊亭亜郎)& 岩城(久保和明)と、米国大統領暗殺を企てる無賃乗車の常習犯=近藤真晴(ホリケン。)との、非常にデンジャラスな距離感によるガンアクションで幕を開けます。
で、あっさり刑事たちを蹴散らして逃げようとする近藤の前に立ちはだかったのが、スーパースターのオーラを放つ稀代の美少女!
どう見てもティーンエイジャーの少女が、なぜ怖い顔して通せんぼするのか理解できないまま、とりあえず逃げてみる近藤を、彼女は全力疾走で追って来るのでした。
「なんでオレは子供に追われてんだっ!?」
ティーンエイジャーの肺活量には到底勝てないと悟った近藤が、卑劣にも少女に銃口を向けます。
ところが少女は平然と銃のシリンダーを掴んで発砲機能を封じ、あややパンチ1発とあややキック1発で近藤をノックアウト!
「子供、子供ってうるさいんだよ!」
「誰なんだ、テメエは!?」
「あさひが丘中学3年A組、松浦亜弥」
「お前、スケバン刑事か?」
「何それ? 私、スケバンじゃないよ」
「スケバン刑事も知らねえ子供じゃねえか!」
と、そこにもう1人の美女が登場します。田口&岩城コンビの上司にあたる敏腕警部、その名は松浦さゆり(三嶋幸恵)。
そのとき「あやや!?」と叫んだのは、亜弥自身。動揺したときに発する彼女の口癖です。
「亜弥! 何やってんの!?」
すかさず亜弥から拳銃を取り上げた松浦警部は、スキを見て逃げようとする近藤のすぐ横に立ってる鉄柱を狙って発砲!
弾丸は鉄柱に当たって跳ね返り、近藤の足に命中して逃走を阻止しちゃうのでした。
「撃たなくたっていいじゃない!」
「私は鉄柱を狙ったのよ。事故だわ」
「あやや!? ダーティハリーも真っ青だよ!」
「ダーティハリー知ってて、なんでスケバン刑事知らねえんだよっ!?」
当時15歳の松浦亜弥さんは恐らくダーティハリーもスケバン刑事もご存知なかったでしょうが、4年後に何の因果かマッポの手先「麻宮サキ」となってスケバン刑事の映画に主演します。
「中学生がなんでこんな事してんの!」
「別にいいじゃん、役に立ってるでしょ?」
「バカ言わないの!」
と、そこに何の役にも立ってない田口&岩城のコンビが駆けつけ、亜弥が捜査に協力することになった理由を説明します。
それは数日前、2人がいつものごとく取り逃がしそうになってた犯人を、たまたま通りかかった亜弥が咄嗟のパンチ&キックで倒してしまい、それ以来、彼女を全面的に頼るようになったという止むに止まれぬ事情。
「なにが止むに止まれぬ事情よ! あんたたち、こんな子供に手柄もらって恥ずかしくないの?」
「いい加減にしてよ、お母さん!」
「えっ、お母さん!?」
たいへん驚く田口&岩城だけど、松浦という姓を聞いたときに警部の身内かも?と一瞬でも思わなかったんでしょうかw
第2話『情熱のキッス』では、定年退職するのをうっかり忘れて仕事を続けてる、捜査第一係長の藤堂警部(上原袈裟俊)が初登場!
そんな係長ゆえ、刑事部屋に女子中学生が混じってても全然気づかない。だから亜弥も堂々と捜査に参加できるという、とても理にかなった設定。
ご高齢ゆえ電話に出るのも時間がかかり、先に受話器を取った亜弥が銀行強盗発生の第一報を受けちゃいます。
「係長、現場に急行します!」
「有無!」
「なんで有無なんですかっ!?」
「あっ、間違えた!」
松浦警部=母親の心配なんかどこ吹く風で、またもや拳銃を所持する犯罪者を追って走る亜弥!
その強盗犯=田原俊晴(ホリケン。)は前回の犯人=近藤真晴とルックスがよく似てるけど、もちろん別人です。
そして亜弥は、田原が逃走中に1人の女とアイコンタクトを取った瞬間を見逃しませんでした。
「はっ、なぜ此処に!?」
「だって、カノジョが待ってるんだもん。絶対戻って来ると思った」
うまく「まいた」つもりが先を読まれ、観念せざるを得ない田原は、悔しまぎれの深〜い接吻をチュバチュッチュと、至近距離で天下のアイドルに見せつけるのでした。
第3話『亜弥がカツ丼を食べた』では、まったくの別人である近藤真晴と田原俊晴が犯行に使用したリボルバーが、まったく同じ型の改造拳銃であることが判明します。
ということは、他にも同じ改造銃を持った同じ顔の犯罪者が、もっといるかも知れない!
恐らく大規模な密造組織がバックに潜んでると睨んだ松浦警部は、逮捕した田原からその手掛かりを聞き出すべく、取調室に向かうのですが……
「いい加減に吐いたらどうなの!?」
「亜弥! 何やってんの!?」
「邪魔しないでよ、お母さん。もうちょっとで落とせるんだから」
「落とせる?」
さすがに目眩を起こした松浦警部は、女子中学生に凶悪犯の取調べを許可した藤堂係長に猛抗議するのですが……
「そうじゃ、思い出したぞ!」
「は?」
「あの子の眼じゃ。どこかで見た気がすると言ったろう?」
「新米の頃の、あんたの眼じゃよ。あの眼にそっくりじゃ」
「新米の頃の私?」
「触るとヤケドしそうな、情熱的な眼じゃ」
「…………」
放映当時、あややファンたちは『亜弥のDNA』というタイトルにSF的な深い意味が込められてるに違いない!ってネットで騒いでたらしいけど、実際はすこぶる単純に、犯罪捜査に懸ける母の情熱と才能を受け継いでるから亜弥は強いんだっていう、それだけの意味しか無いそうです。
今回も亜弥は、その持って生まれた凄腕捜査官スキルを存分に発揮!
まずは田口たちにカツ丼の出前を手配させ、昨夜から食事はおろか水も与えてない容疑者=田原に食わせるのかと思いきや、その眼の前で実に美味そうに、自分で平らげます。
「あ〜、美味しかった。お腹いっぱい!」
その上で田原の母親を呼び寄せ、手作り弁当を差し入れてもらうという心理作戦。’02年当時でも色んな意味でアウトだろうけど、それが出来ちゃうのが深夜番組(しかもテレ東)の強み。
もちろん田原はあっけなく落ちて、売人の身元を明かすのでした。
「あやや〜、これも美味しそうだぁ」
またもや手柄が転がり込んだ田口&岩城は大喜びだけど、さんざん亜弥の介入を拒んできた警部は立つ瀬がありません。
そもそも、亜弥はなぜ、一銭のトクにもならない危険な捜査に首を突っ込んで来るのか?
そして、こないだから亜弥たちの様子をこっそり覗き見してる、この女(田中美穂)はいったい何者なのか?
小賢しい(そして全くどうでもいい)数々の謎を引っ張りつつ、次回へと続きます。
なお、 zetima社から発売されたDVDには、映像特典として各エピソードごとにNG集がついており、本編とは違う松浦亜弥さんの15歳らしい笑顔が見られます。
本編でも第4話以降は表情豊かになるあややだけど、第1話〜第3話は「刑事」を意識し過ぎたのか、表情がやけに硬いんですよね。
最初の3話は全てクランクイン初日に撮影されてますから、スーパーアイドルと言えども当時はまだ新人で、さすがに緊張してたのかも知れません。
いや、というより、自主映画上がりでプロのスタッフたちと仕事するのはその日が初めてだったという、K監督こそがガッチガチに緊張してたに違いありません。それが主演女優にも伝染しちゃったという、絵に描いたような悪循環w
なので、あややの魅力が真に発揮されるのは、次回から。今回のところは大目に見て下さいm(_ _)m
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます