2023年3月6日、NHKのBSプレミアムとBS 4Kで放映されたスペシャルドラマです。
かつて駅伝のスター選手だった中学校の体育教師=拓哉(生田斗真)が肺ガンを患って余命宣告を受けてしまい、妻=咲良(多部未華子)との子供を遺すか遺さないかの決断を迫られるという、とてもシビアなストーリー。
難病を、ただ視聴者を泣かせる為の「道具」として扱ったドラマや映画は大嫌いだけど、この作品はそうじゃない。だからこそ泣きました。
夫は1日でも長く生きるために(遠からず死ぬと分かってても)苦しいガン治療を受けるべきか、そして妻は自分の夢を犠牲にしてでも献身すべきなのか、っていう夫婦それぞれの問題がまたシビアで考えさせられるけど、今回はそれがメインじゃない。
あまりに手垢が付き過ぎてる難病ネタを、2023年の今あえて取り上げたのは、間違いなく「少子化問題」に対するメッセージなんだろうと思います。
体育教師の拓哉は、学校で子づくりについての授業をしたとき、少子高齢化や温暖化問題が深刻すぎる「これからの世界に生まれてくる子供が可哀想」だから子は要らない、欲しいなんて言うのは「親のエゴじゃないですか?」と生徒に言われ、返す言葉が出ませんでした。
で、そのあと、いきなり肺ガンの宣告を受け、完治はまずあり得ないと知って大いに動揺した拓哉は、体外受精してでも子供をつくりたいと言う咲良に、思わず「それはエゴなんじゃないの?」って言い返しちゃう。「泣いてるのはオレの為じゃなくて、夫がガンになった自分が可哀想なだけだろ?」って。
これを言われたら、パートナーは何も言えなくなりますよね。実際、誰だって本音を突き詰めれば「情けは人の為ならず」ですから。
ところが、そのあと主治医の中村先生(山中 崇)から「あなたにとって一番大切なものは何ですか?」と問われた拓哉は、考えに考えた末、残された時間を「普通に過ごしたい」って答えに辿り着く。
だから治療を受けて寿命を少しでも延ばし、咲良との子供をつくる。もしガンにならなければ、普通に自分はそうした筈だから。そうしたいと心から思ってるから。
拓哉の決断を喜びつつも「子供にとって正しいことなのかどうか分からない」って迷う咲良に、中村先生がまたいいこと言うワケです。
「分かる人なんているんでしょうか? 子供のために子供をつくった人に、ぼくは逢ったことがありません」
山中崇さん、オイシイですなあ!w 患者を突き放すクールな医療マシーンに見えて、実はかなり情の深いブラック・ジャックのソフトバージョン。
斗真くんも多部ちゃんもいつも通りに素晴らしかったけど、今回は山中さんに持ってかれた感じ。主役が2人とも揺るぎないからこそ、バイプレーヤーも遠慮なく力が発揮できる。少ない出番でほんとオイシイですw
そんなワケで、この作品が我々に伝えようとしてるのは、ガンの怖さや死別の悲しさじゃなく、ましてや「もっとチョメチョメして子供を作んなはれ!」っていうプロパガンダでもない。
ラストシーン、拓哉が最後の授業で生徒たちに語ったことが全てです。生きるって何なのか?っていう永遠のテーマに、真正面から向き合わざるを得なかった彼が出した、とりあえずの結論。
「まずは、心臓が動くこと。身体が動くこと。心が、動くこと。走りたい、ビール飲みたい、いま好きな人に会いたい、抱きしめたい。そんな風に、何かをしたいって心が動く欲望……エゴが、生きるって事なんじゃないかな」
つまりワガママをぶつけ合える人と出逢えたら、それが何よりラッキー。咲良と出逢えた拓哉はとても「幸運なひと」ってワケです。
そんな彼の最後のワガママが、咲良に子を産んでもらうことだった。たとえ無責任と言われようが、心から我が子に「会いたい」と思ったから。
「今より温暖化して、少子化が進んだ未来を、どうか目一杯ワガママに生きて、素晴らしい世界にして下さい」
それが本作のメッセージ。結婚や子づくりをゴリ押しするつもりは無いけれど、もし、誰かに気を遣って躊躇してるなら、そんな遠慮はいっさい要らないから、自分のエゴを是非とも優先しなさいって、そういう事なんだろうと思います。
けっこう大胆なメッセージですよね。そうか、何でも自分のやりたいようにやりゃいいんだ!って、都合良く解釈してバカなことするバカが世の中には無数にいると思うけど、そういうバカはNHK(それもBSプレミアム)の番組なんか観ないだろうっていう自信でしょうか。
そんな博打を打たなきゃいけないくらい、今の若い世代が萎縮しちゃってるというか、あまりに夢も希望も抱けなくなってる、この現状こそをまず何とかせんと少子化問題なんか解決するワケ無いやろ!っていう、怒りのマグマさえ感じます。
少子化と温暖化だけじゃない。戦争、ウイルス、そして白痴化。マジで人類の破滅は近いって、子供を持たない私はとっくに諦めてるけど、未来を信じる人はなお一層、強くならなきゃいけません。
実に骨太なメッセージを孕む素晴らしいドラマでした。多部ちゃん、斗真くん、山中さん、そして西田尚美さん、宮崎美子さん、相島一之さん、加藤諒くんetc…と、キャストも一流揃いで言うことナシです。
調べたら、今のところ再放送の予定はないそうです。NHKプラスでもヒットせず。もう少し待ってみます。貴重な情報ありがとうございました!
いずれ必ず総合テレビでも放映するでしょうから、それまでお楽しみですね。多部未華子さんがピアノを弾く姿が見られますよ!
多部未華子、良いですね。再放送を待ちます!