☆第1話『そのしあわせ待った!』
(1980.10.7.OA/高際和雄&勝新太郎/監督=勝新太郎)
最近CS等で何度となく放映され、再評価を集めて「ようやく時代が勝新太郎に追いついた」なんて云われてるけど、時代(視聴者の感性)はむしろ大きく退化しており、単に本放映当時は子供だった視聴者が大人になり、このドラマの楽しみ方を理解出来るようになっただけ、じゃないかと私は思ってます。
私自身がそうでした。本放映当時はそもそも夜9時以降のテレビ観賞を禁止されており、再放送された記憶もなく、初めてちゃんと観たのはほんの10年前のことでした。
その時も、既製の刑事ドラマの概念を打ち破り、徹底的にリアルな演技を追究する勝新さんの心意気はよく理解出来たものの、刑事ドラマとして面白いかどうか問われれば、答えはノーだと思ってました。
それが先日、日本映画専門チャンネルで再び特集放映された『警視―K』の第1話をあらためて観てみると、やっぱこれ面白いかも?ってw、思えるようになって来ました。私もようやく勝新さんに……いやいや、追いつくことなんて誰にも出来やしません。
ストーリー自体はやっぱり、それほど面白くはありません。そもそもよく解んないしw 台本はあって無いようなもんで、ほとんど全編アドリブで芝居するもんだから、その場の勢いで真犯人が予定と違う人になったりするような世界ですw
リアリティーを追究したと言っても、話の内容はちっともリアルじゃない。そもそも所轄署のヒラ刑事たちと一緒に捜査してる「警視」の立場がよく分かんないし、犯人逮捕時には鎖が5メートルある「投げ手錠」を使いますからねw
勤務中に部下たちと花札やってるし(たぶん賭けてますw)、取調室では相手に酒を呑ませて喋らせようとするしw、軽く絡んで来ただけのチンピラども(たぶん未成年)を容赦なくフルボッコにするしw
つまり、現実の警察はどうのこうのみたいな事と、勝新さんが求めるリアリティーとは次元が全く違うワケです。
勝新さんが求めたのは、人間そのもののリアリティーなんですね。現実世界の人間は従来のTVドラマみたいに理路整然と喋らないし、いつでも段取り良くは動けない。ましてや聖人君子でもないワケです。
本当にリアルな人間を描くために勝新さんは、台本を無視して現場のノリで台詞を言い、辻褄なんかは二の次、三の次にし、殴るシーンでは本当に殴るし、飲酒シーンでは本物の酒を呑んだ。前述の取調べシーンでは、情報屋を演じる川谷拓三さんが本気でグデングデンに酔っ払ってて、何を言ってるのやらサッパリ判りませんw
結果、台詞が聞き取れない!ストーリーが全然解らない!といったクレームが局に殺到し、視聴率も最低ラインまで落ち込むんだけど、勝新さんはいっさい方針を変えなかったし、日テレ側もそれを容認した。あの時代は、ただのサラリーマンじゃない、ちゃんとした志を持つクリエイターたちが番組を創ってたんです。
だけど、勝新さんがあまりに妥協を許さず、撮影に膨大な時間をかけ、納得がいくまで何度も撮り直したりする内に、製作が放映日に間に合わなくなっちゃったw で、やむなく半年の予定が1クールで打ち切られちゃう。
この翌年に勝プロは倒産しちゃうんだけど、たぶん『警視―K』 製作で大幅に予算オーバーしたことも原因になった筈。勝さんは根っからのクリエイターであり、経営者には向いてなかったw
そんな裏事情を知ってしまったことも、私が10年前より『警視―K』を楽しめるようになった、大きな要因の1つだろうとは思います。
でも、それだけじゃなくて、フィクションの裏側にあるもの、創り手や演じ手たちの想いに対する興味や共感が、歳を重ねるにつれ強くなって来たことも影響してると思います。
若い頃にはそこまで感じ取れなかったのが、歳を取って敏感になっちゃった。歳を取ったことイコール、その作品を創った人達の年齢に近くなってるワケですから。
そういう深い部分以外でも、例えば勝新さんが初回ゲストの石橋蓮司さんを尋問するシリアスなシーン。
石橋さんがアドリブで「いや、彼はああいう人ですから」みたいにテキトーな返しをすると、すかさず勝新さんから「ああいう人って、どういう人なのか説明して」とツッコまれ、一瞬笑いそうになっちゃう瞬間とかw、あらためて観るとメチャクチャ面白い。
第2話では、勝新さんが双眼鏡を覗きながら歩いて電柱にぶつかるという、ビートたけしさんばりの小ボケも見せてくれるし、愛娘が男とデートしてるのを捜査中に見かけて「そこの若いカップル、離れなさい!」ってパトカーのスピーカーで呼び掛けたりw 勝新さんのお茶目な面も随所で見られるんですね。
その愛娘を演じてるのが、勝新さんの実子=奥村真粧美さん。最終回では別れた妻役で中村玉緒さんも登場されます。
勝さん演じる賀津(ガッツ)警視は『リーサル・ウェポン』ばりにキャンピングカーで生活してて、娘と二人暮らしなんだけど、これがまた妙にセクシャルな雰囲気で、当たり前のようにキスしたりする異常な親子w
そんな感じで何もかもが規格外の『警視―K』は、昭和の時代だからこそ成立した刑事ドラマであって、「やっと時代が追いついた」なんて言うのは見当違いも甚だしい。昭和をナメるなっ!(乳首)
これほど昭和の魅力が詰まったドラマは他に無いかも知れません。未見の方は是非、一度観てみて下さい。映像もスタイリッシュだし、きっと新鮮な驚きが待ってます。
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