☆第33話『刑事失格』(1977.11.15.OA/脚本=永原秀一/監督=山崎大助)
街中でサラリーマンが包丁で刺され、現金を強奪される事件が発生。その手口と、犯人は眼の下に傷痕がある30歳前後の男という目撃証言から、黒岩デカチョウ(渡 哲也)たちは以前似たような事件で逮捕され、3ヶ月前に出所した河村(片桐竜次)の犯行じゃないかと睨みますが、ベテランのマルさんこと丸山刑事(高品 格)が異を唱えます。
「私には河村がやったとはどうしても思えんのだがね」
根は純朴だった河村をマルさんは眼にかけ、身元保証人まで引き受けてるのでした。
「3ヶ月前に出所した時、あいつは今度こそ更正したい、そう私に誓ったんだ」
しかし被害者の証言、現場に残った指紋、そして演じてる俳優が片桐竜次であること等、全ての要素が河村を犯人だと示してる。
とにかく河村を見つけ出し、身柄を確保するよう黒岩は指示を出しますが、マルさんだけは「事件の背景(動機)が見えないから」と単独捜査を開始。そこには河村が無実であって欲しいというマルさんの、祈りにも似た想いがあったのですが……
その願いも虚しく、同じ手口による第2の被害者が出て、その証言から河村が犯人であることが確定されてしまう。片桐さんが演じるとそうなってしまうのです。
「マルさん! どんなつもりであいつがマトモになりたいと言ったか知りませんがね、現実の川村はこの通り、元の狂犬に戻っちゃってるんですよ!」
一番若手のジンこと神刑事(神田正輝)に説教されちゃう始末で、マルさんはみるみる自信を無くしていきます。
一般的な刑事ドラマだと、ベテラン刑事の勘はだいたい当たるもんだし、容疑者の善意を信じすぎて失敗するのは新米刑事の十八番だったりするんだけど、それを哀愁漂う「いぶし銀」のマルさんにやらせちゃうあたり、やっぱり『大都会 PART II 』には前作『闘いの日々』のシビアな作風=倉本聰イズムの名残を感じずにいられません。
さて、河村の容疑は確定されたものの、マルさんはその犯行動機を追究すべく単独捜査をやめません。
それで判ったのは、河村が出所した直後に知り合った飲み屋のホステス=茂子(片山由美子)に惚れ、勤めを辞めさせて結婚したこと。なのに茂子はすぐにオトコを作って逃げてしまったこと。
本当に一から出直すつもりだったのに裏切られた河村は、自暴自棄になって本来の片桐竜次に戻り、恐らく茂子を殺すつもりでいる。
「川村はね、あんたと一緒に、少しくらい経済的に苦しくても、マトモな家庭で、マトモな生活がしたい、そう考えてたんじゃないのかね?」
マルさんに責められても、茂子は涼しい顔で言ってのけます。
「少しくらい経済的に苦しくたって? そんならそうと最初から言ってくれりゃよかったのよ。そしたら一緒にならずに済んだんだから」
そう、茂子は河村にカネを稼ぐ甲斐性が無いと見るや即座に切り捨てたワケです。なんでこんな女に惚れるねん?って思うけど、そこは片桐竜次だから仕方ありません。なんだか河村が可哀想にも思えて来ます。
マルさんの読みが当たり、包丁を持った河村が茂子を殺しにやって来ます。マルさんは茂子を守りつつ、河村を説得……というより懇願するのでした。
「昨日まで、私はお前をシロと信じてきた。それなのに、デカとしてこんな恥ずかしい思いをした事はない。これ以上、罪を重ねんでくれ。頼む!」
「身元引受人だからって、でかいツラすんな老いぼれ!」
マルさんは拳銃を抜き、歩み寄る河村の額に銃口を押しつけます。
「お前を説得出来ないくらいなら、私は刑事失格なんだ!」
「上等じゃねえか、撃てよ。撃つなら撃てよ!」
もちろんマルさんに河村を殺せるワケもなく、威嚇射撃するのが精一杯。それで茂子を守ることは出来たものの、河村は取り逃がしてしまうのでした。
いよいよ自信を無くしたマルさんは、刑事部屋にある私物をまとめ始め、徳吉(松田優作)らを慌てさせます。そんなマルさんを署の屋上に連れ出した黒岩は、二人きりで対話します。
「すみません、河村はどうかしてるんです。思い詰めてカーッとなって、自分を見失っているんです」
「自分を見失ってるのはマルさん、あんたですよ」
「…………」
「マルさん、気持ちはよく解ります。しかし、単独捜査は禁じてます。個人的な感情での捜査は、絶対にやめて下さい」
「……すみません。若いつもりでも、やはり歳には勝てません。もうこの辺りが……」
「なにを言ってるんですか。先輩のマルさんあっての我々なんです、自信を取り戻して下さい。頼みますよ」
現在ならカウンセリングを勧めなきゃいけないところだけど、もちろん黒岩デカチョウがそんな回りくどい対処をするワケありません。
自信を無くした部下には、あえて最前線に飛び込ませ、修羅場を乗り越えさせる。それが黒岩軍団(そして後の大門軍団)の流儀であり、そのスリルが癖になっちゃった団長の趣味なんですw
まず黒岩は、捜査課の事務員=幸子(美田麻紗子)に茂子の衣服を着させ、河村が現れそうな場所を歩かせるという、もう1つの趣味であるオトリ捜査(もちろん違法)を断行。
その現場にマルさんを連れ出し、現れた川村とサシで対決させた黒岩は、そのスリルを楽しみながら高みの見物するのでした。
もう刑事を辞める気満々だった筈なのに、アドレナリンが沸いてきたマルさんは河村を公園の噴水に放り込むと、自分もずぶ濡れになりながら叫びます。
「クロさん、こいつは! こいつだけは私に任せて下さい!」
夢中で河村をフルボッコにするマルさんの生き生きした姿を見て、駆けつけた徳吉もニヤリ。
「マルさん、まだまだ若いですなぁ」
かくして、河村の腕に手錠が嵌められます。どんなに洒落たアクセサリーよりも手錠が似合う男、片桐竜次。
びしょ濡れになったマルさんにジンがハンカチを渡しますが、マルさんは自分じゃなく河村の顔を拭いてやります。
そんなマルさんの想いが、河村の胸に全く響いてないワケでも無さそうだけど、ムショを出たらまた同じようなことを繰り返すんだろうと思います。理由は、片桐竜次だからです。
ストーリー自体はどうって事ないありがちなもんだけど、主役をマルさんに据えたことにより哀愁が加味され、印象に残るエピソードとなりました。やっぱり高品格さんの芝居には唯一無二の味があります。
ワルはあくまでワルであり、警察はやたら失態を繰り返し、平気で女子事務員をオトリに使い、最後はスカッと暴力解決。石原軍団らしさ満載のエピソードとも言えます。
茂子に扮した片山由美子さんは当時27歳。子役から活躍され、『ジャイアントロボ』や『プレイガール』等にレギュラー出演、『女囚701号/さそり』など映画出演も多数。
刑事ドラマは『特別機動捜査隊』(計4回)、『太陽にほえろ!』(第90話) のほか『俺たちの勲章』『新宿警察』『特捜最前線』等にもゲスト出演。'80年代前半に結婚され、それを機に一線を退かれた模様です。
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