『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUJITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  77

2012-06-20 06:44:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは慎重に話を続けた。
 『父にも俺の想いを伝えた。『神託だ』『神託だ』と言って、神官の言うことを信じすぎては事を誤る。『神託』それは、あくまでも気にかけるべきことの判断の指針であって、それ以上の何ものでもないと言っておいた。俺はその『神託』を自分の耳で聞きたい。そのようなわけでデユロスに立ち寄ることを決めたのだ。判ってくれたか』
 『判りました』
 二人はうなづいた。
 『一国を興す、それは大事である。そこにある水を手にとって呑むこととは大いなる差がある、比べることが出来ない。一挙手一投足が慎重であって間違ってはならないことなのである。その認識が強ければ強いほど慎重でなければならない。ただ、燃える想いが熱いとは言っておられないのだ。熱い想いで足元が不如意になる』
 『判りました、統領。統領の考えが充分にわかりました』
 アエネアスが建国にかける強い思いをつぶさに感じた。
 『軍団長、『前へ』歩を進めましょう』
 『お前の言うとおりだ。『前へ』一歩だ』
 彼らは、デユロスにおける段取り、果たすべき役務と責任を強く認識した。
 民族が根を下ろす世界の地の一点に到達するのに、このあと六年の歳月がかかることが、彼らにはまだ見えてはいなかった。