『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  840

2016-08-06 10:45:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 父アンキセスはおもむろに口を開いた。
 『我が息子アヱネアスよ、よくぞ、俺の話を聞く気に立ってくれた。父としてお前に心から礼を言う、ありがとう。お前の出生について、これまでに話したことはない。これからも話すということはない。しかしだ、俺がお前の父であることは、まぎれもなく俺である。しかし、母のことは、誰にも話さないし、息子のお前にも言えない。俺の妻の子ではない、今、言ったことについては、今後もこの父をせめて聞こうとしてくれるな。俺の青春の過ちと心得ていてもらいたい。それは口では言えない、さる崇高な人であるとお前に伝えておく。これについては、今後いかなることとがあっても聞かない、訊ねないと俺と約束してくれ。また、ユールスにもその人の血がお前を通じて流れている。話の始めにこのような話をした。それにはそのような大切なわけであるからだ。さきに述べた約束はしてくれるな』
 『それは、このアヱネアス、しかと約束する』
 『ありがとう。礼を言う。今日まで、これを胸に抱いて持ってきた、重かった』
 これだけ言って、しばし、沈黙の時が流れる。父アンキセスは肩の荷を下ろしたらしい。酒杯を持った手を伸ばした。
 『この話はこれで終わった。酒を注いでくれ』
 アンキセスは酒で唇をしめらせた。
 『我が家系に脈々と流れる西方の地、へスペリアの地の血について話したい』
 アンキセスはアヱネアスの目をじい~っと覗き見た。アンキセスは口を開き語り始める。
 『トロイ城市の発祥は、今をさかのぼること、2000年前の昔のことである。-----』と語り始めて、城市トロイの歴史を話し、その歴史の中で俺がいかなる役務を担ってきたかについて話した。
 彼は、時代が連なり、継いでつながれていく家系の心と血、時代が連なり、引き継がれていく、絆としての出生の地の心血について語った。
 アンキセスの語り口はとつとつとしてはいるが、時にはパッションあふれる口調となり、話の韻律には、序があり、破の口調があり、急の説得感情によって、アヱネアスの志向感情を同調させようとしている意図が感じられた。
 彼の話はうまく組み立てられている、話の起承転結がしっかりしていた。
 トロイ城市発祥の集落ダルダノイがトロイ城市となるまでの経緯、統治してきた歴代の領主、王、そして歴史を築き上げた輝かしい業績、幾多の戦役、その都度、壊滅する城市、復興構築する城市について、彼は語った。
 話の第一段は終わった。
 父アンキセスは、老骨にムチをうっての語りである。彼の話は、息子アヱネアスに語って聞かせるべき過去を言いつくしていた。