『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  844 

2016-08-11 10:39:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 口を閉じたアンキセスとアヱネアスは、互いを受け入れ、寛容と決意の目を合わせた。
 『父上。あなたの言われるところをよく理解しました。私の想いは、興した事業のことがあります。麦の収穫は終えましたが、秋の収穫のことがあります。また、諸事対処の資金のこともあります。いずれ、クレタについての見極めもつきます。決断は、いつでもできるようにと状態を整えています。全て手落ちなく進めています。決断のときにそなえて、情報の収集にも配慮しています。私は、これだけの一族を統べているのです。『はい!決断しました』『はい!船出します』と言って、軽々とことを決めて、この地を離れるわけにはいかないのです。解りますね!』
 アヱネアスは、父アンキセスを瞬きもせず、真剣な目つきで話を継いでいく。
 『私としての仕事、業務の進め方があるのです。その時が来れば話もします。今ここであなたと話したことはとても重大な事案なのです。今日ここで話し合ったことは父上も誰にも話さないでいただきたい。私も秘中の秘として、胸に抱いてます。時が到って公にしなければいけない時が来れば、一族の全ての者に私から伝えます。我らが戦火の中を身を危険にさらし、命を賭して、手を取り合って行動してきた者たちです。絶対におろそかにしてはならないのです。彼らには最大限の心配りをして当然なのです。我々が建国する、その想いを実行する、そのことに思いつくままのわがままは許されない。父上も十分に心していただきたい。父上!建国は我々一族が胸に抱いている望みです。おろそかにしてはならないのです。立つ以上は、いかなることがあっても、進むべく信不退なのです。父上も充分に心してもらいたい!解っていただけますね!』
 アヱネアスは、心中に抱いている想いを父アンキセスを諭すような口調でありながら、力強く話を締めくくり伝えた。
 『そうだわな!人の上に立つ者の心せねばならないことだ。アヱネアスよ、お前の言ったことがよく解った。俺も充分に心する、安心していてくれていい!お前と俺とは、心はひとつであり、同体である。心得た。心して諸事に対処する、約束する』
 二人の話し合いは終わった。アンキセスは双肩に乗っていた荷を下ろす、くつろぐ風情である。
 アヱネアスは、酒壺を手にとる、父が手にしている酒杯に酒をなみなみと注いだ。アンキセスは、酒杯を仰ぎあげ、杯の酒を一気に飲み干した。
 アンキセスが酒杯をアヱネアスに手渡す、
 『おう、アヱネアス!飲んでいい!』
 アンキセスは、アヱネアスが手にしている酒杯に酒を注ぐ、二人の間に言葉はいらない、アヱネアスは、杯をもちあげ、父と目を合わせる、杯を口に運ぶ、アヱネアスもこれを一気に飲み干した。
 ここに二人が胸に抱いていた懸念が霧消し、希望となる、新しい二人の旅たちであった。