『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  30

2012-04-16 08:15:59 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『我々が使命の遂行について大切なことは目指す土地に全員がひとりも欠けずに行き着くことにある。このために十二分に配慮をして目的地を目指す。私の思いでは、明日の航海は目的地に行くことのできる天候状態であろうと予想している。今、考えている航海にはミコノス以南のことは含まれてはいない。まず、ミコノスとデロスに無事に到達することのみを考えてのことであると言っておく。キクラデスの多島の海域は我々が敵とみなしているギリシアの海域である。考えられることは10年という長かった戦いのあとであるが故に、ギリシアの政治事情も変わっていると考えている。また、この多島の海域は海賊の跳梁している海域でもある。いっときの油断も許されない海域であることを忘れないでもらいたい。ここまでで聞きたいことがあったら聞いてくれていい』
 パリヌルスは、ここで言葉を切った。沈黙のときが流れる。
 『明日は航海が可能な天候であることは間違いない。船団構成は今日のままで行く。一挙に2昼1夜の航走を続けて、ミコノスの向かうのは無理があり、これは取り止める、いいな。明日の航走は、キオス島の西にある無人の小島を目指す。その小島においては明後日の天候のこと、ミコノスを目指す船団編成をくみあげる。判ってもらえると思うが、あくまでも安全航海に配慮して航海を続ける。いいか、判ったな。明日は私の指示どうりに航走してもらう。相談はその後のことについてである』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  29

2012-04-13 07:41:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは言葉を切って一同の顔を見回した。俺の考えが統領、軍団長、その他の者たちに伝わっているだろうかと思いながら話を続けた。
 『我々は我々を取り巻くギリシアやその他の諸国の動静、近況等について今のところ知っていない状態です。また、我々は建国の使命を双肩に担って、6隻の船に乗って新しい天地を目指している。これらの者たちが1名も欠けることなくクレタに着くことが我々民族の大事でであるのです。軍団長、ここに至って、今一度、この航海の航路、それに伴う船団の編成をして目的の途に就こうではありませんか。そして、出きる範囲で諸国の動静を探ろうではありませんか』
 『おっ、パリヌルス、よく言ってくれた、君の言うとおりだ。我々は危険極まりない海洋を南下している。いつ、どのような危険に遭遇するかも知れない。それで腹案は出来ているのか。それが出来ているのであれば聞こう。イリオネス、どうだ』
 『まだ、オキテスには計っていませんが。検討する案は出来ています。この場で検討、決定していただければ、即、実行と言うことになります』
 イリオネスはパリヌルスを見つめて口を開いた。
 『パリヌルス、判った。お前の考えていることを言ってくれ』
 場には気のゆるみがない、夜は深くなってゆく。
 パリヌルスは真剣な面持ちで話し始めた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  28

2012-04-12 09:01:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスが身をかがめていた。
 『おっ、イリオネス、何なんだ』
 『船長たちが集まっています。相談事があります。おいでいただきたいのですが、事は極めて大切なことです』
 『おっ、よし、判った』
 二人は船長たちが囲む焚き火の箇所へと向かった。
 『あっ、統領、どうぞ』
 彼らは席を開いた。
 『諸君、ご苦労。相談事だそうだな。俺も少々気になっていることがある。イリオネス、始めよう』
 一同はアエネアスの顔を見つめた。
 『パリヌルス、始めてくれ。君の考えからだ』
 『判りました。初日の航海は全てをオキテスに任せて無事にこのレムノスに着きました。全く彼の采配の適確なところによります。天候も味方してくれた結果でした』
 彼は話をひと区切りした。
 『私が気にかけているのは次のことです。聞いていただけますか。まずひとつは、明日から航走しようとしている、エーゲ海のど真ん中の海洋は我々が知っている海洋であって、知り尽くした海洋ではないと言うことです。広い海洋の天候の変化を含めてですが。ふたつめは我々が目指しているミコノス島はキクラデスの多島海域にあるのですが、ギリシアの鼻の先の島です。戦いが終わってから半年の月日が経っています。長かった半年でもあれば、たったの半年かの短い半年でもあります。今のギリシア人たちが何を考えているか、我々を見て何を考えるか、全く不明です。そのようなところへ我々が船団を組んで入って行く、危険極まりない行動に見えるのではないかと考えられるのです』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第五章  クレタ島  27

2012-04-11 07:44:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、夜空の星を眺めながら思い出していた。
 このレムノス島は、トロイ戦役の後半に援軍として来てくれたアマゾン女族の島である。アキレスの強刃に抗することが敵わず命を絶たれた女族の長ペンテシレアの率いるアマゾン女賊の母なる島であった。彼は目を閉じ族長ペンテシレアの美しさとその勇猛さを思い浮かべ、彼女たちの冥福を祈った。
 そんな彼の頭を、ふうっと横切って通る懸念があった。それはいったい何なのだ、彼は思案した。
 『俺たちの建国の途につく心意気はすこぶる高まっていた。何か忘れていることがあるのではないか』
 彼は自問自答した。
 『この長途の航海に無理を承知で挑んでいる。どこかに避けきれない無理をしているのでは、夜間の航海、天候の変化、荒れる海、海の藻屑、民族の自滅』
 思考が悪いほうへと向かった。
 『それとも待ち構える未知なる危険との遭遇、民族の運命が俺の愚かな決断によって潰え去る。それは許されない。熱くなってのぼせ頭で考え、意志の赴くままの決断、落ち度があるのではなかろうか』
 彼の思考が停まった。
 『変更は今をおいてない。今なら間に合う』
 そのときである、耳を打つ声がどこかでしている。
 『統領、統領』
 『誰かが俺を呼んでいる』
 彼は耳の打つ声のする方向に向いた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第五章  クレタ島  26

2012-04-10 07:07:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、話を続けた。
 『いま、オキテスが言ったように途中に立ち寄る島がない、大洋のど真ん中をただひたすらに南下して行く着く先がミコノス島だ。いま、俺の言えることは順調に航海を続けることが出来ての話だ。軍団長はどのように思われますか。時間をかけてもいいから、できるだけ危険を避けてクレタ島に向けて航海を続けたい。そのように考えています。私がここに至るまでに考えたことは、、、、』
 言葉を切って一同を見回した。
 『軍団長、いま、船に乗っている者たち全員がひとりも欠けることなくクレタ島に行き着くこと、その方策に時間をかけて検討してはどうかと考えています』
 イリオネスが腕を組んで、じいっと考え込む姿がそこにあった。
 『パリヌルス、お前、そのように考えているのか。その考えは大切なことだ。建国、船出、そのことで熱くなってのぼせ頭から、その考えが抜け落ちていたと思う。一時も早くミコノス島に行きたい。その思いで頭が一杯であったように思う。今なら間に合う、もう一度このことについて慎重に考えてみよう。俺は統領を呼んでくる』
 イリオネスは立ち上がり、アエネアスの寝所へと向かった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  25

2012-04-09 08:22:26 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスたちは、船長たちを集め、イリオネス軍団長を囲んで、明日のミコノス島へ向けての航海について話し合っていた。オキテスが口を開いた。
 『明日からの航海は、エーゲ海のど真ん中を南下する。このレムノスの浜から、真っ直ぐ南を目指して進む。ミコノスまでは島がない、といっても途中には小さな島を左手遠くに見るだけだ。大洋のど真ん中を進むのだ。俺が一番に気にかけているのは天候のことだ。まず、海が荒れてくれないことだ、と言っても大洋を進むうえでほしいのは北よりの順風だ。これがないと手漕ぎで広い大洋を進まなければならない。また、向かい風、これも厄介だ、力いっぱい船を漕いでも漕いでも船を押し戻そうとする風だ。相手は自然だ、力で抗することのできない相手だ、祈るよりほかに手はない。俺は力いっぱい悩みに悩んでいる。皆も力いっぱい祈ってくれ。俺たちが行くのに順風の吹いてくれることをだ。頼むぞ』
 続いてパリヌルスが言った。
 『諸君、今日は大変にご苦労であった。レムノスのこの湾の浜に無事に着けたことがとてもうれしい、この上なく喜んでいる。それはオキテスの采配の賜物である。一同、オキテスに拍手をおくってくれ』
 拍手が起きた。
 オキテスは、『いや、いや』と照れた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  24

2012-04-06 09:15:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 各船の係留、停泊作業は、戸惑うことなく終えた。
 パリヌルスとオキテスの二人は、アエネアスとイリオネスに事の次第と各船の係留を終えたことを伝えた。
 浜では、航海途上に迎えた第一夜の心づくしの夕めしの準備がしっかり出来ていた。パリヌルスは係留作業を行った者たちの労をねぎらい各焚き火の場へと散らせた。
 アエネアスは全員に向けて航海初日の労をねぎらった。イリオネスは明日からの航海について説明したあと、一同に苦労に耐えて乗り切ってくれるよう、励ましと要請の言葉で締めた。
 アエネアスは『乾杯』令し、全員、ささやかであったが一杯の酒で喉をうるおした。食事が終わった頃を見計らってパリヌルスは各船の副長を集めて、潮時の不確かさを説明したあと3人づつ二班に分けて船の見張りを指示した。また、焚き火の箇所では、終夜、火を絶やすことなく焚き火番もおいた。
 アエネアスは、今日の役を終えて、航海第一夜をユールスを手許において過ごすことにした。二人は冴えた秋の夜空を見上げた。北天の大小の荷車(大熊座、小熊座)南天の三ツ星を眺め、親と子の会話を交わした。時は過ぎていく、父のたくましい腕の中のユールスは心いい寝息をたてていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TORY           第5章  クレタ島  23

2012-04-05 07:01:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスとオキテスの二人は、浜と波打ち際の状態を松明をかかげながら丹念に調べた。二人の懸念は今の潮時であった。今が満潮時なのか、干潮時なのか、そして、各船の係留についてであった。
 『おっ、オキテス、潮時がはっきりしないな。お前どう思う。各船、綱の準備があるだろうな。船は、綱、4本で係留といこう。五番船と六番船は、できる限り浜へひきつけて係留しよう。それから、見張りを立てるようにしよう。それでどうだ』
 『君の言うとおりの手配でいいと思う。碇の入れる場所は波によって船尾がぶれないように船尾で入れるようにしよう』
 『よしっ、いいだろう。めし前に終えてしまおう』
 二人は、船長、副長を集めて指示を下した。
 『皆、いいな。以上のようなわけだ。各船40人くらいづつ引き連れてことを終えてくれ、めしはそれを終えてからだ。アンテウス、セレストス、リュウクス、君ら三人は俺と一緒に行くのだ。連中を集めてくれ。オキテス、俺は五番と六番船をやってくる。一番から四番船までのことは君に頼む』
 一同は一斉に行動に移った。
 レムノス島は山の多い島である。また、島の不思議はヨーロッパで唯一の砂漠のある島である。浜のあちこちには大石がゴロゴロしていた。
 『お~い、オロンテス、言ったとおり、そういうわけだ。その措置をしてくる、三人は連れて行く。それから、舟艇は使うぞ』
 『判りました。よろしく頼みます』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TRPY           第5章  クレタ島  22

2012-04-04 07:00:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 五番船のオロンテスは、曳航している舟艇を使って浜を目指した。彼は軍船の状態を見ながら、浜に100メートル以内までに接近していた。
 浜に着いたオロンテスは、舟艇の者たちに指示を出した。
 『おうっ、まずは、副長のセレストスに伝言だ。船を4分の1スタジオン(約50メートル)くらいまで浜に接近させろといってくれ。それから、君たちにしてもらいたいことは、五番船、六番船の者たちを上陸させてもらいたい。それともうひとつ、副長のセレストスに言って、夕めしと明朝の朝めしの食材を浜へ運ぶように行ってくれ、いいな。頼むぞ』
 『判りました』
 短い返事を返して、彼らはオロンテスの指示した作業に向けて浜を後にした。

 彼らの上陸した浜は、人跡のない荒れた浜であった。海の広がりの続く湾内のはるか遠くに四、五点の灯りの見える程度の静寂の浜であった。
 上陸した彼らが最初にした作業は、そこいら周辺に散在している木の枝や木片の類を集めたことであった。またたく間に充分量が集まった。各所に焚き火が燃えた。浜は明るく賑わいを見せた。
 焚き火の炎は彼らの心を安堵へと導いていく。この風景の中のアエネアスとイリオネスは、彼らの安堵こそ安心であった。二人は焚き火を囲んでいる者たちのところを巡り今日の労苦をねぎらった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  21

2012-04-03 09:31:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは漕ぎかたを停止させた。船は惰性でまえへと進む、白砂の浜に後20メートル辺りまで来た。彼の触覚にまだ反応がない、船はとろとろと前へと進む、人の歩速の2分の1ぐらいの船速で前へと漂い進む。波に漂っている感覚であった。宵の闇が濃くなってくる、海底の接地模索に気が急いた。
 そんなとき、船首の衝角が海底に触れた感覚が来た。待ちに待った感覚である。船のただよいが停まった。
 彼は大声をあげた。
 『アミクス、来いっ!』
 彼はアミクスの身体に用意していた綱の一端を結んだ。
 『アミクス、舳先から海へ入れ、俺の考えている海の深さは、お前の腰あたりのはずだ。浜に向かって歩いてみてくれ、綱は俺がしっかり持っている安心して行け』
 船首から浜までは10メートル余りの距離である。アミクスは返事をして海へと入っていった。海底に足がとどいた、両足で立った。アミクスの不安は吹っ飛んだ。オキテスの言うとおりであった。海面は腰のあたりであった。
 『アミクス、浜に向かって歩いてみてくれ』
 アミクスはそろりそろりと海底を探りながら足をを運んだ。一歩運ぶごとに浅くなっていく、10数歩、歩んで波打ち際に立った。
 その姿を認めたオキテスは、数メートル離れて左斜め後ろにいる三番船の船長に大声で船上の者たちの下船の要領を伝えた。
 三番船から『了解!』の返事を受けた。彼は自船の者たちに下船を指示した。
 四番船には三番船から、下船の要領が伝えられた。
 一番船にはアミクスを走らせた。