「スカイ・クロラ The Sky Crawlers 」(2008年、121分)
監督:押井守、原作:森博嗣、脚本:伊藤ちひろ、音楽:川井憲次、主題歌:絢香、音響監督:若林和弘、作画監督:西尾鉄也
声:菊地凛子、加瀬亮、谷原章介、栗山千明
絢香の「今夜も星に抱かれて・・・」(Sing to the Sky 所収) とともにクレジットが流れるなか、誰も立ち上がるどころか身じろぎもしない。少し鳥肌が立ってくるのを感じてしまったが、見ることがあまりないアニメでこんなことになるとは、思ってもみなかった。
平和が続き、ショーとして存在する戦争、空中戦、そのパイロットたちは大企業の遺伝子ビジネスで生まれた老いることのない少年少女、殺されるか自殺するか、死はそれしかない。
少し生き延びて司令官になっている女性スイトと新任のパイロットのユウイチの間を中心に、さて人はどう生きていき、死んでいくのか。
終盤まで観ると、主人公はスイトである。
脚本、絵の構成、動き、音響、音楽、全ての品質がきわめて高く、そしてストーリー進行が急ぎすぎず、緩まず、すべてが素晴らしい。
そして一瞬に決めてしまう結論も見事。生きることについての押井のメッセージは、ためらいがなく、気持ちいい。
暗い絵と、空の野原の明るい風景、静止画と動画の微妙なかかわりから生まれる見るものを引き込む集中感、多くを見てないけれども、これだけのアニメはおそらくなかっただろう。
月曜日にNHKで特集番組があり、その中で押井が語っていたように、また昨年あるパネルディスカッションで語っていたように、彼は動画の中の静止画をきわめて効果的に使う。その微妙なバランスが見るものに動画のみでは生じない注意、観る力を喚起する、と確信しているのだ。
だからセル画とCGの組み合わせもまったく違和感がない。
そしてアニメではゼロベースで作らなければならない音は、ルーカスフィルムのSKYWALKER SOUND が担当している。一つ一つは監督の指示によるものであるがこれも見事。例えばNHKの番組でも触れられていた、スイトがワイングラスを置くときの音。ワインが残っているときと、飲み干したときであきらかに音がちがうし、クライマックスにつながる場面ではまたもう一つ効果が加わっている。
ところで、時期を考えれば独立だろうが、押井守はカズオ・イシグロ「わたしを離さないで」を読んでいただろうか。