メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

魔笛(映画)

2008-08-10 22:17:35 | 映画
「魔笛」(The Magic Flute 、2006年、英、139分)
監督:ケネス・ブラナー、脚本:ケネス・ブラナー、スティーヴン・フライ、音楽:モーツアルト
音楽監督・指揮:ジェームズ・コンロン、ヨーロッパ室内管弦楽団
ジョゼフ・カイザー(タミーノ)、エイミー・カーソン(パミーナ)、ルネ・パーペ、リューボフ・ペトロヴァ(夜の女王)、ベンジャミン・ジェイ・デヴィス(パパゲーノ)、シルヴィア・モイ(パパゲーナ)、ベン・アトレイ(弁者)、トム・ランドル(モノスタトス)
 
ケネス・ブラナー、今回はシェイクスピアでなくモーツアルト。
オペラの映像化では、舞台の記録でないもの、つまりより映像として自由なものを組み合わせたものはこれまでなくはない。例えば、ジャン・ピエール・ポネルのいくつか(カラヤンとやった「マダム・バタフライ」とか)。
 
それでもこれは、もっと自由な映像で、舞台は第1次世界大戦の多分西部戦線の塹壕地帯。タミーノは兵隊の一人である。
魔笛の争いを超えて平和を、というテーマと合致はするのだが、細部のつじつまを合わせようとはしていない。音楽の進行としては、ほぼオペラのオリジナル通り進め、その場面場面で、あまり前後にこだわらず、監督がこれに付加したい映像を付けていく、という風に見える。だから、途中からは割り切ってみることができて、手法としては、まずまず、成功しているといえるだろう。
こうして、映画手法で、自由に映像を編集し、アップも多いと、モーツアルトの音楽は飽きることなく、続けて聴いていくことが出来る。
これは発見だった。
 
言語は英語、しかしこの形態だと違和感はまったくない。
 
とはいえ、配役のバランスはいまひとつで疑問もある。
タミーノの風貌はいいが、パパゲーノはタミーノとあまり違わない。そしてザラストロと弁者も風貌が似ていて、特にザラストロは若すぎないか。
パミーナはもうちょっと若くて初々しくあって欲しかった。
 
こうしてみると、この話、後半、タミーノとパミーナの試練というのはあんまり大した試練にならない。これは皮肉である。
それに比べると、パパゲーノの試練の方が、近代人の困惑みたいで、そこから抜け出ることへの共感は強いかもしれない。
 
ところで、最初に夜の女王の娘パミーナが誘拐されてザラストロのところに幽閉され、それをタミーノが頼まれて助けにいくが、実はザラストロこそ有徳の主で、夜の女王こそが悪者、というのではあまりにも簡単すぎる、ということは、これまでもよく指摘されている。
 
そして、実は、ザラストロと夜の女王は結婚していたことがあり、ということはパミーナはザラストロの娘である、という解釈がこれまであって、この映画でもそれを示唆する場面がいくつかある。しかしブラナーはそれに結論は出していない。
他に性的な象徴はあまりなくて、3人の侍女がやたら好色なことくらいか。
 
映画としては、そこまでやると何がなんだかわからなくなって、娯楽映画のカテゴリからはみ出てしまうからだろうか。

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