メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

人間の絆(モーム)

2008-11-15 17:20:29 | 本と雑誌

「人間の絆」(Of Human Bondage) (上中下 行方昭夫訳、岩波文庫)
サマセット・モーム(1874-1965)が習作ともいうべきものを経て1915年に出版した、自伝的をもいわれる小説で、他の作品よりきわめて長く、文庫本で3冊である。
 
読者の興味をそらさない文章は他のものと共通だから、退屈するということはないけれど、こんなに長く書く必要があっただろうか。
特に、主人公が大人になりひとまず落ち着くまでに現れる何人かの女性について、うまくいかなくて別れたほうが、あきらめたほうがいいと読者は思うようにかかれているのだけれど、これでもかこれでもかと、主人公の迷いと執心が続いていく。
 
そしてその対象となる女性たちがそんなに魅力的ではない。これは描写の問題というよりは、イメージできるかどうかの問題である。
 
ファム・ファタル(運命の女)というものは、こういうビルドゥングス・ロマン(教養小説)で、ドイツのものでももっと違ったタイプではないだろうか。
もっとも、イギリス人は現実的なのか、そういう夢見るようなことは現実的には起こりえないという前提があるのかもしれない。
 
それにしても男女の事情を描いて、イギリスの男性作家は、ディケンズにしても、このモームにしても(「お菓子とビール」など)、特に男性にとって幻滅するような効果をもたらすのは、何かあるのだろう。
 
それはモームも認識していたのだろうか。彼の有名な「世界の十大小説」は読んでないが、その中で彼はジェイン・オースティンの「高慢と偏見」を高く評価しているようだ。もちろんオースティンも夢見る恋愛物語でなく、最後は現実も見据えた賢明さを重視している。それでも彼女の書く物語は、なぜか読んでいて随所に微笑みが出てくるのは、単に女性だからというわけではないだろう。


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