メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

痴人の愛 (谷崎潤一郎)

2009-04-09 10:52:38 | 本と雑誌
「痴人の愛」(谷崎潤一郎、1924年)
作品の存在は若いころから知っており、映画化されたことも知ってはいるが、読むのは初めて。
   
三十歳近い一流会社の技術系会社員が、カフェで気に入った十代の娘に、身だしなみ、教養を与えようと、一緒に住まわせ、結婚するが、次第に奔放で発展家の彼女が手に負えなくなる。それでも、最後はその女としての魅力に負け、虜になり、崇拝屈服する。
これだけ有名な話であれば、大筋は想像通りである。しかし、関東大震災翌年にしてはその影響がなさそうな東京で、設定はその前なのかもしれないが、風俗描写もうまく、また男と女の本質を描きつくす腕はやはり抜群、そして新聞連載ということもあるとはいえ、読みやすいのも驚きである。
  
そしてこれは後年の「細雪」を読んだときにも感じたのだが、この時代の男と女の話であるにもかかわらず、どこかこの男が「近代」を、「西洋」をどう見て、それをどうしようとし、その結果をうけてどう生きていく、という風に、最初から最後まで読める。「細雪」では二女の視点がそれにあたる。
  
ここで、「観念」「文学」にはじまり、「本能」に耽溺し、そして終盤の描写では「美学」になる。「美学」のあたりを読んでいると、これはこのままあの「陰翳礼讃」になだれ込んでいきそうな雰囲気だ。
 
「陰翳礼讃」は読んでいるこちらも、わかっていながらひたすら純粋な「日本」へと傾斜していって、危ないと思ったものである。しかし谷崎は終戦をまたいで完成させた「細雪」で平然とそこを踏み越える、その一連の道筋が、今回少し理解できた。

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