「ツール・ド・フランス 黄金時代」 北中康文 著 枻文庫
著者が写真家として追いかけていた1986年から1991年のツール・ド・フランス、そのレース模様の写真と文章、基本的なデータを連ねたコンパクトな本。これを黄金時代ということに、まったく異存はない。そういう人は多いと思う。
私も興味を持ち始めたのが同じ1986年であり、NHKの衛星放送でほぼ毎日かなりの時間をさいて放送してくれたから、深夜録画しておいて、仕事から帰り寝る前に夢中で見たものである。
選手について、チームについて、戦略、戦術、駆け引き、取引など、解説を聞いて、何年も見てそれを検証してみないと面白さはわからないのだが、それをのんびり出来たのはありがたかった。
1986年はちょうどチャンピオンがイノー(仏)からレモン(米)にかわるときであり、それからロッシュ(アイルランド)、デルガド(スペイン)、レモンが復活し二連覇、そしてインデュライン(スペイン)の五連覇が始まるのが1991年であった。またその中で、以前チャンピオンになったフィニョン(仏)もキー・プレーヤーであった。
かなり詳細に見て、インデュラインの強さは途方もなく、個人タイムトライアル、山岳の登り、まったくオールラウンドであり、それはデルガドのアシストをしていたときに早くも予想していたことであった。こういう楽しみもあったのだが、その後中継がフジTVに移り時間も短くなって、全体を見ての面白さは味わえなくなった。もっとも、有料スポーツチャンネルで見たとしても、おそらくその後六連覇したランス・アームストロングでは、このレースしか出ないこともあって、鉄人がやっているという面白さはなかっただろう。
この本に望むらくは、もう少し生臭い話を記録しておいて欲しかったということだが、それでも黄金時代がこうしてまとまっているのは便利である。
難所ラルプ・エデュエズなどのアルプス、トゥルマーレ峠などのピレネー、ひまわりが咲くフランスの平野、こういう写真は何度見てもじーんとしてくる。この美しさと、おそらくもっとも過酷なスポーツで、その勝者はもっとも賞賛に値するアスリート、その対照がいいのだ。