「ブッシュ」(W. 、2008年米、130分)
監督:オリヴァー・ストーン
ジョシュ・ブローリン(ブッシュ)、、エリザベス・バンクス(ローラ・ブッシュ)、ジェームズ・クロムウェル(父ブッシュ)、エレン・バーンステイン(バーバラ・ブッシュ)、リチャード・ドレイファス(チェイニー副大統領)、スコット・グレン(ラムズフェルド国防長官)、ダンディ・ニュートン(ライス補佐官)、ジェフリー・ライト(パウエル国務長官)、トビー・ジョーンズ(ローブ補佐官)
オリヴァー・ストーンはJFK(1991)、ニクソン(1995)を作っている。この二つは見ていないが、どうもこの二人が大統領としてどうだったかという評価の映画みたいで、見ないでいうのもいけないのだが、見る気がしない。先の「フロストXニクソン」(2008、監督:ロン・ハワード)はそうでもなかったからこれは見て、面白かった。
時期的に見ればオリヴァー・ストーンがこれに刺激されたわけでもないだろうが、今回はそうではなくて、なんとブッシュの任期内の公開目指して製作された、「第43代米国大統領ブッシュ」とはどんな「人間」か、という興味で作られた映画である。
よく言われるように、父ブッシュから出来そこないといわれ続け、事実やることなすこと失敗、我慢も出来ず、どうしようもなかった息子が、なぜか弾みで政界にでてしまい、大統領になってしまう。その過程と、9.11後のイラク政策の誤算と破綻、この中で、この精神的に弱い男と、それをとりまくホワイト・ハウスの人たちの政治プロセスが、描かれる。
もちろん、この時期の政界についてであるから、批評と皮肉はあるのだが、ブッシュ本人は悪意がある人間とも、また失敗を他人のせいにする人間とも描かれてはいない。側近については、元軍人であり戦争経験もあるパウエルがテロ対策と戦争の違いを説くのに対し、徴兵を逃れているラムズフェルドがいい加減な強硬意見を続け、同じく戦争経験のないチェイニーが副大統領としては珍しく、場を取り仕切る。
ブッシュには、その間も父ブッシュのトラウマが残り、時に顔を出す。
必見という映画ではないにしろ、こういう人たちが率いている恐ろしい世界、そしてそれを生み出しているアメリカという社会、見て損はない。
ただ、ハルバースタム「ベスト・アンド・ブライテスト」で描かれるケネディ政権、そしてニクソン、レーガン、クリントンなどなど、よく見ればみな高潔で有能な人たちばかりではない。それでもなんとか出来ているというのが国家というのは、不思議で、皮肉なものである。
「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」(2007、監督:マイク・ニコルズ)にも通じるものがある。
英、仏、最近のイタリアだって、おかしな話は多い。
オリヴァー・ストーンにしては、ブッシュに感情移入しているとして、内外の評判は必ずしもよくないようだが、それは度量不足というものだろう。大統領は映画で評価されるものでもない。
ストーンは最近の週刊文春(5月21日号)で町山智浩のインタヴューに答えている。
ストーンとブッシュは同じ1946年生まれでイェール大に行っている(ブッシュはコネ入学とか)。ついでにビル・クリントンも同年生まれ。
父と息子というテーマに、それが実の親子でなくても、興味があるようだ。
ブッシュは退任前に、この映画を見ただろうと言っている。12月1日ABCTVのインタヴューで、「あなたは歴史においてどのように評価されると思いますか?」と問われ、「歴史になる頃には死んでいるよ」と答えたが、それはこの映画の最後のセリフだからということだ。
ブッシュにとって、一番の幸運はその結婚、夫人ローラだろう。最後までその仲のよい光景は見受けられたが、この映画でもそう描かれている。
俳優は風貌が似た人を集めていいて、ジョシュ・ブローリンは本人より二枚目、そのほかそこそこ実績のある人を集めているけれど、パウエル、ライスあたりはもう少し存在感のある演技が欲しかった。ストーンはリチャード・ドレイファスのチェイニーを自慢しているが、それはもうものがちがうという感じである。
ドレイファスは1947年生まれ、あの「アメリカン・グラフィティ」の作家志望生がいまやこういう歳。そういえば少し若いけれど同じ映画で奥手のお坊ちゃんを演じていたのは「フロストXニクソン」のロン・ハワードである。
原題は「W. 」、ブッシュのフルネームはGeorge Walker Bush 、父はGeorge Herbert Walker Bush だから、これはWalkerのWからきているとは思うのだが、なぜG. ではないのか、それはわからない。