「キリマンジャロの雪」(The snows of the Killimanjaro 、1952米、114分)
監督:ヘンリー・キング、脚本:ケイシー・ロビンソン
グレゴリー・ペック、エヴァ・ガードナー、スーザン・ヘイワード、ヒルデガルド・ネフ、レオ・G・キャロル
原作者アーネスト・ヘミングウェイ(1899-1961)はこのときまだ存命だった。それでこの映画化が許可されたのは不思議である。あまり気にしない人だったのだろうか。
始まりは有名なキリマンジャロ山頂近くにある豹の屍の一節で、脚の傷がもとで壊疽になり横たわっているハリー(グレゴリー・ペック)が登場するから、やはり死が支配している世界かと思うと、これは有名な小説家ヘミングウェイの世界を全編にちりばめた、それも欲張りすぎた脚本であり、三人の女性との話も、ハリウッド映画で普通の痴話喧嘩のようなものが多い。
別に原作に忠実でなくてもいいのだが、それにしてもこの時代のおめでたいハリウッド映画の欠点がみなぎった映画で、今から見るということばかりでもないだろう。
結末は、原作で夫と妻双方にとって別?とも取れる書き方ではあるのだが、映画でこうも単純になってしまうと唖然とする。映画館に来て2時間見てもらうとこうでなければ、だから予定調和的ハッピーエンドというのだろうか。それなら冒頭のあの始まりかたは何だ、ということになる。
グレゴリー・ペックは見栄えがするけれど、どうも作家の虚無感が漂ってこない。脚本では小説を書きたいというよりは小説家になりたいという設定になっていて、だからこれでいいというと皮肉だろうか。若く見えるのは、ヘミングウェイの年齢を考えると不思議ではないのだが。
そこへ行くと、三人の女優は悪くない。サファリ同行の妻役スーザン・ヘイワードとその前に愛したシンシア(エヴァ・ガードナー)、パリでハリーが見間違えたというだけあり、見た感じも似せている。ただこうしてみると、やはりエヴァ・ガードナーの魅力が一つ抜けている。
伯爵夫人のヒルデガルト・ネフはドイツ系のようだが、なかなか華がある人だ。
パリの街中風景、あきらかにハリウッドのセットだろう。当時は自信満々だったのかもしれないが、今こうしてみると、表だけという薄っぺらさが一目でわかる。
WOWOWグレゴリー・ペック特集の一環。こういう機会でもないと、見ることはなかったか。