「記憶の中の幸田一族 青木玉対談集」 青木玉 (講談社文庫)
1997年11月に「祖父のこと 母のこと」として小沢書店から刊行されたもの。それぞれの対談が何時のものか記載がないのは残念だが、著者の母、幸田文の死(1990年)からしばらく経った後の数年間ということだろう。
幸田文の文章が好きなものとしては、露伴が文にそして玉にどう接していたか、ほとんど何をどう叩き込んだかではあるのだが、それが具体的なエピソードとして語られていて、面白い。
ただ、もうこのころには、各対談者にとって幸田文という人は飛びぬけた存在だったようで、その文章、身についたものなど、褒めちぎっているけれども、私から見ると彼女の文章では、一般にいわれるうまさより、何か手探りで、書きながら姿が現れてくる、それを見ながらまた苦闘する、そういう自分と周囲とのあいだの抵抗感が魅力であった。それが文体というものであり、文章を書くことは生きることそのものだということを、よく示していたと言える。
本の冒頭にある一族の系図を見て驚く。知ってはいたけれど、露伴の二人の妹 延と幸は、日本のピアニスト、ヴァイオリニストの草分けでドイツ・オーストリーに留学、東京音楽学校の教授、兄の露伴は当初出来そこないの存在だったらしい。
そして露伴の死後に書き始めてあそこまでなった娘の文、その娘がこの玉、そしてそのまた娘奈緒もドイツ留学記「ハリネズミの道」を書いている。
実は露伴、文、奈緒の本は読んだことがあったが、玉の本は初めてだ。
そして、随所に入っている写真は貴重で、いろんな意味で興味深い。