「四百字のデッサン」 野見山暁治 著 (河出文庫)
洋画家の野見山暁治(1920- ) の絵はいろいろな機会に少しは見ていたし、特に好きというのではなかったけれども、レベルの高い人だと思っていた。そしてこの年代だから「日曜美術館」などで、コメントを求められることも多かったと記憶している。
しかしこの本のような優れたエッセイを書き、賞までもらっていたとは知らなかった。
観察と表現はいずれも卓抜だが、それは他の文章家のものとはずいぶん違う。画家だからというと乱暴な見方だけれど。
人間に対する観察は、文学的というよりは、冷徹なデッサンなのだろうか。いろんな人が出てくるが、こちらも名前を知っている人たちも多いけれど、容赦ない。この人の眼差しが冷たいとか暖かいというのではなく、おそらく画家として誠実なのだろう。
そして、表現の進んでいくところ、普通だとどこか対象となる人に気遣いをみせるのだが、ついにそれはない。でも書かれた人が野見山を憎むこともないだろう。
たとえば森有正、小川国夫。パリにおける森有正についてなんとなくこういう噂はきいていたが。
そして小川国夫については、こんなことを書いて、それが小川の作品集の月報に載せられているのだから、面白い扱われ方である。
もちろん自身の、特に子供時代、青年時代についても容赦ないが、自虐的ではない。結果として不思議なバランスである。