プッチーニ 歌劇「トゥーランドット」
指揮:アンドリス・ネルソンス、演出:フランコ・ゼッフィレッリ
マリア・グレギーナ(トゥーランドット)、マルチェロ・ジョルダーニ(カラフ)、マリーナ・ボプラフスカヤ(リュー)、サミュエル・レイミー(ティムール)、チャールズ・アンソニー(皇帝)
2009年11月7日 メトロポリタン歌劇場
トゥーランドットを映像で見るのは久しぶり。それも、前に見たのがおそらく今でも手元にあるレーザー・ディスクで、同じメトロポリタン、ゼッフィレッリの演出で、写真を見ると今回と衣装も同じようだ。こっちはレヴァインの指揮、カラフはドミンゴである。
さて、もうこの劇場で手の内に入っているものだろうから、破綻もなく楽しめる。ただこの話はかなり荒唐無稽な話で、ドラマとして成立するのはリューのカラフへの愛、それ故の自害くらい、トゥーランドットは幕間のインタビューで歌っているマリア・グレギーナが言っている通り嫌われ役だし、、カラフもどうして姫に惚れたのか、唐突でしかない。
そうなると、古代中国の絢爛壮麗を舞台で実現し、プッチーニのオーケストレーションを練達のオケで聴かせるしかない。舞台は大きく、その中心で少数の主要人物だから、これは件のサイードの音楽論集で書かれているように、どこか近現代の状況に置きかえてやった方がこの筋立てはインパクトあるものになるだろう。今の中国とか、どこか専制主義の国とか、、、
ただそれはこうして今のビデオ技術で見ることができれば、現場で見るより不満は少ないともいえる。
もっとも、プッチーニの作品は「蝶々夫人」にしても、「ボエーム」の一部にしても、見ていてどうもという場面があって、一度見ていればあとはCDで音だけ聴いていても十分、むしろその方が違和感がない、音楽がよくできているから、ということもいえる。
指揮のネルソンスはラトヴィア出身、トランペット奏者だったそうで、かなり若い人である。この作品でオーケストラはレヴァインに慣れていることもあるのだろうが、気持ちよく聴けた。
トゥーランドットのマリア・グレギーナは終盤に姫が動揺してくるところはいいのだが、その前はもっと冷たくてスピントがある声だとキャラクターにあってくるだろう。
カラフとリューはいいけれど、ティムールのレイミーはやはり声と雰囲気が別格の感がある。
さて面白いのは老皇帝のチャールズ・アンソニーへのインタビュー。1929年生まれだからこのとき80歳、1954年にメト・デビューの後、全シーズン皆勤、2923回出演、67作品111役だそうで、こういう人がいるんだということにまず驚く。
そしてかのマリアン・アンダーソンが「仮面舞踏会」でメトにデビューしたとき召使役で共演、フランコ・コレッリとレオンティン・プライスの同時デビューにも共演、出演50周年(2004年?)には舞台でパヴァロッティ他に祝ってもらったそうだ。 レジェンド!
パヴァロッティは2006年のトリノ冬季五輪開会式でまさにこのトゥーランドットの「誰も寝てはならぬ」を歌ってそんなに立たないうち、先に亡くなってしまった。ついでにいうと、このときパヴァロッティがこれを歌ったのをきいて、ひょっとして荒川静香に運が向いてきたと思ったら、そのとおりになってしまった。
なお、チャールズ・アンソニーは芸名で本名はなんとカルーソーだそうだ。オーディションで、やはりカルーソーはまずいよと、合格すると思っていたメトの総裁から言われ、この名前を使うようになったとか。