ジェフリー・アーチャー「時のみぞ知る」(Only Time Will Tell)上下 戸田裕之訳 新潮文庫
少し前、話を土台にした「遥かなる未踏峰」で楽しませてくれたアーチャーの最新作。これは登場する二つの家系の一つの名前を冠するクリフトン年代記というシリーズものの始まりということらしい。
第1次世界大戦後のイギリス西部ブリストルの労働者階級クリフトン家に生まれたハリーと、街の大企業オーナーであるバリントン家、その息子、娘たちを中心に、旧世代の血脈、因縁、階層など、アーチャー得意の困難、数奇な展開、それも始まったばかり。ワーグナーの「指輪」でいえば「ラインの黄金」あたりだろうか。
アーチャーの年代記ものといえば「ケインとアベル」、その続編「ロスノフスキ家の娘」が想起されるが、子供たちの生まれはこれらほど身分差、貧困、生きていけるかどうかの艱難に見舞われているわけではない。それでも、随所にちょっとおどろく展開、仕掛けがあってエンターテイメントとしてはさすがである。
いくつかの時期、場面で、複数の登場人物の視点で同じシーンが描かれており、これは初めてではないかもしれないが、面白いしかけである。
一人、ハリーの実質的指南役になる退役軍人が魅力たっぷり。
そして、あっと驚く展開の直後、あああれはここに通じていたんだと、もったいぶらないですぐわかるようになっているのも、この種の小説として親切である。
まだこれから先もあるし、ネタバレにもなるからこれくらいにしておこう。