メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

アガサ・クリスティー 「そして誰もいなくなった」

2018-03-08 16:47:01 | 本と雑誌
そして誰もいなくなった (And Then There Were None)
アガサ・クリスティー 青木久惠 訳 ハヤカワ文庫(2010)
 
原作は1939年、ミステリの古典としてあまりにも名高い作品だが、読むのは初めてである。推理小説を読み始めた十代のころ、どうも新しい少しひねったものを多く手に取ったようで、このところいくつか読んでいるようなものには近づかなかった。年齢を加えた者の暇つぶしとして、まだこういうものが多くあるのはいいことである。もっとも名探偵ポアロシリーズはTVドラマでいくつか見ている。
 
ストーリーは、陸地からそんなに離れていない小さい島、謎の個人の所有で、あるときあたかも無作為にピックアップされたような十人がパーティメンバ―として集められる。
そして冒頭、それそれの罪を告発する録音が流され、十人の兵隊の人形とそれらが一人ずついなくなっていく古い童謡が添えられている。
まさかまさかと思っているうちに、そのとおりはこばれていき、そして誰もいなくなる。
最後まで、次は次はと思いながら、かわされ続けていくからうまくできているミステリと言えるだろう。
最後にたねあかしはあるが、その前まで読んでいてぴたりとあてるのは無理なしかけであった。

その後いろんなものを読んでいる者からすると、この十人それぞれの性格の掘り下げが十分でないから、どうしてそういう行動に?というところで不満は残る。
 
とはいえ、この文庫の最後で赤川次郎が解説しているように、夢中になって一晩で読み切る作品としては、このような全体の長さ、登場人物それぞれの描写が、適当なのだろう。このまま映画にしても、うまくはまるように思える。私は読むのがきわめて遅い方だから、ちょっとちがう感じを持つのかもしれない。
 
ところでここで思い出したのが昨年読んだP.D.ジェイムズ「皮膚の下の頭蓋骨」で、これも舞台が小島に限定されているのだが、作者の頭には当然本作があっただろう。もっともここでは、コーデリアという探偵がおり、人間関係も複雑かつ濃密で、かなり後の時代のものという感じはあり、私にはこちらの方が読み甲斐があった。
 
また最近評判になった「ミレニアム」(スティーグ・ラーソン)も、島を孤立した舞台として使ったという点では、似た発想があるかもしれない。
 
ともかくクリスティーの作品はたくさんあるから、これからもときどき読んでみようと思っている。


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