エマニュエル・トッドの思考地図
エマニュエル・トッド 著 大野舞 訳 筑摩書房
この本、完全日本語オリジナルとある。おそらく日本で最初に(日本でのみ?)出版する前提で書かれたものだろう。このコロナの時期にいかにもという気もしたが、トッド・ファンとしてはまず読んでみるということになった。読んでみると、そうキャッチ―なものではなく、むしろトッドはどうして今のような学者になったか、ものを書くひとになったか、ということを、かなりくどく語っている。
父はジャーナリスト、祖父はポール・ニザン、ユダヤ系であり、元共産党員、一応高学歴だが、しろいろあって数学が得意だったこともあり、統計学を使った社会学特に人口学を専門とするようになる。
そうやって具体的な事象、数字を見ていく中で、乳幼児死亡率がらソ連の崩壊を予測するという有名な指摘が出てくる。
ケンブリッジで学び研究したころから、フランスの哲学重視よりイギリスの経験主義に傾いていったようで、このあたりかなりぐたぐた書いているが、納得できるところは多い。
そういうところを見れば、例の2015年の「シャルリ・エブド」襲撃事件を受けて、フランス国内に起こった「表現の自由」を標榜したデモを「イスラム差別」とした分析もより理解できる。今のマカロン政権に対しても非常に辛い評価である。
この後トッドは国内でかなりいろいろ言われたようで、本書でもちょっと被害妄想的なところもある。それでも昨今のいろんな事象にも共通することだが、シンプルなポリティカル・コレクトネスが第一になってしまい、各地域の家族構造や収入、ジェンダーなどの要素をベースにした議論がしにくくなっているというのは納得できる。
その一方で、人が生まれてどういう家庭、学校、付き合いで育ってきたか、その過程でどういう趣味を身につけたかが、かなり大きな影響を与えるというブルデューの主張については、あまりにも見えている議論と、いやみを再三言っている。共通するところは多少あると思うのだが、何かあるのだろう。
コロナについては、これより1980年代のエイズの方が人々に与えた恐怖感は大きいという。コロナで死ぬのはかなり高年層だから、これが地域の生産力、人口に長く影響することはないが、エイズはなにより若年層が感染、死亡するわけで、そう言われると、今の欧米の多少ゆるい対応にはこういう背景があるのかなと考える。
エマニュエル・トッド 著 大野舞 訳 筑摩書房
この本、完全日本語オリジナルとある。おそらく日本で最初に(日本でのみ?)出版する前提で書かれたものだろう。このコロナの時期にいかにもという気もしたが、トッド・ファンとしてはまず読んでみるということになった。読んでみると、そうキャッチ―なものではなく、むしろトッドはどうして今のような学者になったか、ものを書くひとになったか、ということを、かなりくどく語っている。
父はジャーナリスト、祖父はポール・ニザン、ユダヤ系であり、元共産党員、一応高学歴だが、しろいろあって数学が得意だったこともあり、統計学を使った社会学特に人口学を専門とするようになる。
そうやって具体的な事象、数字を見ていく中で、乳幼児死亡率がらソ連の崩壊を予測するという有名な指摘が出てくる。
ケンブリッジで学び研究したころから、フランスの哲学重視よりイギリスの経験主義に傾いていったようで、このあたりかなりぐたぐた書いているが、納得できるところは多い。
そういうところを見れば、例の2015年の「シャルリ・エブド」襲撃事件を受けて、フランス国内に起こった「表現の自由」を標榜したデモを「イスラム差別」とした分析もより理解できる。今のマカロン政権に対しても非常に辛い評価である。
この後トッドは国内でかなりいろいろ言われたようで、本書でもちょっと被害妄想的なところもある。それでも昨今のいろんな事象にも共通することだが、シンプルなポリティカル・コレクトネスが第一になってしまい、各地域の家族構造や収入、ジェンダーなどの要素をベースにした議論がしにくくなっているというのは納得できる。
その一方で、人が生まれてどういう家庭、学校、付き合いで育ってきたか、その過程でどういう趣味を身につけたかが、かなり大きな影響を与えるというブルデューの主張については、あまりにも見えている議論と、いやみを再三言っている。共通するところは多少あると思うのだが、何かあるのだろう。
コロナについては、これより1980年代のエイズの方が人々に与えた恐怖感は大きいという。コロナで死ぬのはかなり高年層だから、これが地域の生産力、人口に長く影響することはないが、エイズはなにより若年層が感染、死亡するわけで、そう言われると、今の欧米の多少ゆるい対応にはこういう背景があるのかなと考える。