ヴェルディ:歌劇「仮面舞踏会」
指揮:ファビオ・ルイージ、演出:デイヴィッド・アルデン
マルセロ・アルヴァレス(グスタヴ)、ディミトリ―・ホヴォロストフスキー(レナート)、ソンドラ・ヴァノフスキー(アメ―リア)、ステファニー・ブライス(ウルリカ)、キャスリーン・キム(オスカル)
2012年12月8日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場 2014年5月WOWOW
全体に完成度が高く、また楽しめた。
ヴェルディのなかでは音楽的に聴きごたえがあり、いま手元にもアバドのレコード、カラヤンの晩年のCDがある。
うかつなことに今回初めて知ったのだが、これが作られたとき、スウェーデン国王グスタヴの暗殺という実際にあった事件を題材にしていたため、政情不安のイタリアで問題になり、初演場所もかわり、その条件として設定がボストン総督となった。
背景とは別に、これまでボストンの話と思っており、アバド盤ではそのとおり、ところがこれまたうかつなことにカラヤン盤では後に使われるようになったスウェーデン版ということに気づいていなかった。
今回はスウェーデン版、しかし国王グスタヴの腹心はレナートでこれはボストン版と同じ名前。
さてこのオペラは同じ中期の傑作「トロヴァトーレ」と同様、男女それぞれ二人の歌手がポイントであるけれど、ここでは素晴らしい出来になっている。
アルヴァレス(グスタヴ)とヴァノフスキー(アメ―リア)は直情的ではあるけれど、音楽に沿ってきれいに歌いこなしていてそれが訴える力となっているし、ホヴォロストフスキーは今一番の人気だしこれはトロヴァトーレのルナと同様もうけ役だが、この親友から悪役への変化も自然、なめらか。
そして第一幕だけの女占い師ウルリカのブライス、この巨体から出てくる美声だが凄味のある歌唱、今回あらためてこの人の力を認識した。
キムのオスカルも演出にうまくフィット。この役はカラヤン盤のスミ・ジョーなど東洋系の人が多いようだ。
演出は現代の衣装、壁の動き、壁にかかった絵や写真にうまく意味を持たせ、壁紙のトーンも含めた動きが秀逸であり、また人物の動きも音楽とマッチしている。集団のあつかいもすっきりしていて、ここの合唱のうまさを味わうのに邪魔になってない。
指揮のファビオ・ルイージにとって、この曲はしっくりきているようだ。オーケストラ演奏会が多い指揮者にとってもやりがいのある曲だと思う。先のカラヤン、アバド、そして確かショルティもよくやったのではないか。
何度か書いているように、ヴェルディでの私の好みは中期の「椿姫」、「トロヴァトーレ」あたりだが、これに「仮面舞踏会」を加えてもいい。
やはり中期の「リゴレット」も、もっと女に焦点があたっていれば、さらに好きになったかもしれない。またこれはリゴレットからの妄想だが、「仮面舞踏会」の最後、その仮面舞踏会にアメ―リアが男装で出てきて、あやまった相手にグスタヴの代わりに殺されてしまうというストーリーも、ドラマとしてはありかもしれない。