モーツアルト:歌劇「後宮からの誘拐」(K.384)
ザルツブルク音楽祭2013
指揮:ハンス・グラフ、演出:アドリアン・アルターラー
トビアス・モレッティ(セリム・パシャ、台詞)、デジレー・ランカトーレ(コンスタンツェ)、ハビエル・カマレナ(ベルモンテ)、レベッカ・ネルセン(ブロントヒェン)、トーマス・エーベンシュタイン(ペドリルロ)、クルト・リドル(オスミン)
カメラータ・ザルツブルク、ザルツブルク・バッハ合唱団
2013年8月26日 ザルツブルク空港 2014年4月 NHK BS Pre
これは舞台(場所)と技術に関する実験である。番組の冒頭のメイキング映像で説明されていたように、ザルツブルグ音楽祭の一つとしてここの空港格納庫を使うという、なんともびっくりさせるもの。観客もここにいる。といってもオーケストラ、歌手など通常の舞台ようにお互い近くにいるわけでなく、離れたところで、この大きなすスペースとおかれたいくつかの飛行機を使いながら、最終的な作品は映像としてまとめられたものとなる。といってもこれはライブ放送である。したがって、現場の観客はむしろ舞台の脇役のように映っている。
指揮者はモニターを見ながら、またおそらく歌手の声を聴きながらタイミングを合わせるのだが、通信の多少の遅れもあるだろうから、苦労はあるはず。といっても、「紅白歌合戦」でもオケは別の部屋でやっていたりするので、技術的にははじめてではないだろう。
歌手はインカムをつけて歌う。したがって、劇場の壁と天井に比べれば何もないオープンスペースで歌うようなもので、しかもマイクを意識するから、声を力いっぱい張り上げるようなことはしにくいだろう。事実最初の数分はあまり調子が出ないようだったが、そのあとは慣れてきて、また聴く方も違和感がなくなってきた。
そしてオリエンタルの後宮という設定は、現代のファッション業界に変えられているが、上記のような仕掛けからするとビジュアルとしてもいいし、人間関係としても想像力をかきたてる。
コンスタンツエは本来はディアナ・ダムラウだったのが突然降板になりランカトーレは急遽の出演だったようだが、なんとか無難にこなしていた。もっともこの役、そしてこういう設定では今をときめくダムラウよりは良かったかもしれない。もちろんダムラウの歌自体は聴きたいけれど。
全体としては、こういう仕掛けに注意がいくあまり、作品としての印象は薄くなってしまったかもしれない。それでもこういう試みはこれからのオペラとしては、資金集めの手段も含め、可能性を感じさせるし、性急な判断はしない方がよい。
ところでヘリコプターは、ひょっとしてとサプライズ的な使い方を予想させたが、まあそれは無理だろうか。