「エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン」(EL BLIII: COOKING IN PROGRESS、2011年独、113分)
監督:ゲレオン・ヴェツェル
シネスイッチ銀座
スペイン・カタルーニャ地方の海岸にあるレストラン「エル・ブリ」は、世界で最も予約を取ることが難しいレストランといわれているらしい。名前は覚えていなかったが、スペインに世界でも1位にランクされるレストランがある、ということだけは頭の片隅に入っていた。
店を開くのは6月から11月の半年、開いていない半年はひたすら食材と料理の研究と新しいレシピの創作に費やされる。
この映画は記録映画だが、説明用のスーパーやナレーションは一切入らない。前半はその新作料理を生み出すまでトップのフェラン・アドリアと幹部数人のかなり激しいやり取りばかりとなる。料理人が見れば別だろうが、私などは途中からついていけなくなり、少し眠くなった。
しかし後半は、最後の詰めと大勢がきわめ細かく有機的に動く、フォーメーションとオペレーションで目を見張らされる。日本人でないのにここまで組織だってできるのかな、と思ったが、すぐに思いかえした。そうこれはまるでバルセロナのサッカーだ。
料理はかなり特殊で、水、氷、液体窒素を良く使う。食材も様々で、一品の量は少ないが、3~4時間で30種類ほどを出すという。懐石料理みたいで、細かいところは明らかに日本の影響を受けている。
2011年からしばらく休業すると発表されたらしい。考えればこの形態を延々と続けられるものではないのかもしれない。
ところでここのパティシエであるアルベルト・アドリア(フェランの弟)が11月に日本に来ていたようだ。12月22日にNHK BSプレミアム「エル・ムンド」で特集された「COOK IT RAW」、これは世界の15人のシェフによる料理人サミットのようなものらしく彼はその一人。今年は日本で11月に開催することになり、場所は石川県を選んで、数日前に皆が来県、いくつかの里山や海で実地に食材を選び、また地元の工芸学校などの生徒や創作家が、陶磁器、紙、布などで一人一人にそのイメージをもとにした器を作って提供、おそらく金沢で、地元の人、世界の料理評論家などに料理を供した。日本や北欧、ブラジルなど様々なシェフの料理によるコースは、全体としてエル・ブリのスタイルに影響を受けているように見える。
おそらく今のトップレベルの料理は、ガストロノミー(美食)というより五感全体で味わうアートのようになってきているのかもしれない。
もう一つ、上記の催しは地域振興、地域の世界向けアピールに、いい示唆を与えるものだといえる。