メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

ブーレーズのマーラー第8

2007-11-18 22:08:17 | 音楽一般
マーラー「交響曲第8番」
ピエール・ブーレーズ指揮 ベルリン国立歌劇場管弦楽団、合唱団
(DG 2007年録音)
 
こう言ってはマーラーにもブーレーズにも失礼だが、想像したより素晴らしい。
マーラーの他の交響曲のように、夢想から苦悩があり、闘争があり、そして音楽はねじれ、高揚し、最後解決に向かうか諦念の静寂に落ち着く、などどいうものはここにはない。「ファウスト」の一部を下敷きにしたところはあるけれど、全体として神の賛歌、天国の賛歌であって、音楽の宇宙的とでもいうべきスケールの大きさ、美しさを味わうべきものだ。
 
だから、深い感動が残るというわけではないし、特に長い第二部は退屈になるところもある。それでもこの曲を一回目は歌詞対訳を見ながら聴き、二回目は音だけを聴いてみると、いい気持ちになってくる。おそらく作曲者の意図もそのあたりから遠くないのではないか。
 
ブーレーズはこれでマーラーの交響曲とそれに準ずるもの全てを録音したことになる。長生きしたからといえばそれまでだが、1970年にこの作曲家の「嘆きの歌」を録音したときから、いずれ5、6、7、9番あたりを録音してくれないかとは思っていたものの、なかなかかなわなかった。ところがその後録音しだしたら、この指揮者に似合いそうもないメルヘン的なものまで、結局全部そろってしまったというわけである。
 
この第8は、ブーレーズの耳のよさ、オーケストラ、合唱全体のバランスを整える能力が本当によくいきた演奏で、その結果気持ちのいい音楽になるのはマーラーの力だろう。
例えば第2部の冒頭は、場面も音楽も「パルシファル」を想像させ、本当に美しい。
 
こういう晩年の夢見る大曲というとシューベルト最後の交響曲を思い浮かべる。ただマーラーはこの後あのなんとも深遠な第9を書いたのに比べ、シューベルトという人のすごいのは、あの一曲で全て表現しつくした感があることだろうか。
 
オーケストラがシカゴ、クリーブランド、ウイーンなどこれまでのものと違い、バレンボイムの手兵シュターツカペレ・ベルリンというのは驚いたが、この大人数、金もかかる録音には、プロデュース上の事情もあるのだろう。コンサート直後のスタジオ録音とのことである。
 
因みに買って聴いたCDは輸入盤で、歌詞の対訳はショルティ指揮シカゴ(1972年録音)のLPについているものを取り出した。録音はなんとウイーン・ゾフィエンザールで行われた。
この曲、全曲聴いたのはこの2つだけである。第2部の演奏時間はほぼ同じであるが、第一部はショルティの27分に対しブーレーズの方が3分短い。
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