メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

プリンセス トヨトミ

2011-06-08 17:23:58 | 映画
「プリンセス トヨトミ (2011、119分)」
監督:鈴木雅之、原作:万城目学、脚本:相沢友子
堤真一、綾瀬はるか、岡田将生、沢木ルカ、森永悠希、笹野高史、和久井映見、中井貴一
 
万城目学の奇想天外な原作、それも前二作それぞれ映画、TVドラマになった「鴨川ホルモー」、「鹿男あおによし」は(二つとも原作は読んでいないが)、変な生き物、人間と話をする鹿という幻想的な世界を背景にしていたが、これはあくまで人間社会の、大坂夏の陣からの伝承に関する仮定と虚構をもとにしていて、映画にするとしても、むしろこれは難しいのでは、と思っていた。
 
それはともかく、このディテイルが面白いかなりな長編をよくまとめたとは思う。最後のあたりも話の順番、起こることと人の入れ替わりなどあるものの、父から子へ連綿と伝える、他の地域の人には絶対にわからないそのしくみ、そこに焦点をあてて、脚本は作られている。
 
そうなると、ここに中井貴一を配したこと、それに見事こたえたこと、これがこの映画のポイントで、作品全体としてはまずまず成功したといえるだろう。
会計検査院の3人、事前に配役を知った時には、綾瀬はるかはいいけれど、「鹿男あおによし」でもよかったが、ここは、ゲンズブール・旭のタイプではないだろう、万城目作品とのかかわりでも思い浮かべると「鴨川ホルモー」で従来とは外見からしてまったくちがった役を好演していた栗山千明で観たい、と思っていた。
ところがなんと、ゲンズブール・旭は設定が男に変えられていて、岡田将生が演じている。男に変えてしまうなら悪い配役ではないし、若いけれども「告白」でのあの演技といいうまいけれども、どうも役の比重が軽くなっていて、逆に綾瀬はるかの鳥居(原作では男)の出番が多い。 
 
ゲンズブール、もちろんセルジュ・ゲンズブール、ジェーン・バーキン、シャルロット・ゲンズブールに対して読者が持つイメージを利用した原作者の命名、これがあまり効かない。
それと、堤真一が演ずる副長がなぜか毎日よく食べるアイスモナカ、これがアイスキャンデーだったりソフトクリームだったりしていて、このあたりがディテイルとして弱い。
 
あと、こういう映画としては、ロケ、セット、CGが安っぽいのが気になる。カメラももう少し工夫と味がほしかった。

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明日に架ける橋

2011-06-07 19:03:56 | 音楽一般
サイモンとガーファンクルの「明日に架ける橋」である。
 
ポール・サイモンという人は20世紀後半のクリエイターとしてすごい人だけれども、例えばバート・バカラック、キャロル・キングの曲などに比べ、複数の歌手によるカバーがそんなにないように思って来た。数字からはそのとおりなのだろうが、具体的に誰が歌ったポール・サイモンの曲というのが思い浮かばなかった、というわけである。
もっとも私がアメリカ国内の状況を必ずしもよく把握できないから、かもしれない。
 
そういうところに、たまたま必要と興味があってアレサ・フランクリンのCDを聴き、関連して調べていたら、彼女の「明日に架ける橋」に行きあたった。
1971年3月、サンフランシスコのフィルモア・ウェストというところでのライブである。この曲が発表されたのは1970年、同名のアルバムの第1曲だから、翌年ということになる。大ヒットしたから不思議ではない。
このアルバムはすぐに日本でも発売され、私はこの30cmLPレコードをすぐに買った記憶がある。それは今も手元にあって時々聴く。
アルバムの全11曲、くずがない、どれも語られるに足る曲と演奏(「コンドルは飛んでいく」と「バイ・バイ・ラブ」は自作でないが)である。独断では、これに匹敵するのはキャロル・キングの「つづれ織り(タペストリー)」くらいだろう。しかし後者の各曲にはカバーが極めて多い。
 
アレサ・フランクリンの歌唱にもどると、これは私があなたを支えてあげるという趣旨が、歌い手の語りかけというレベルを超えて、それをもっと多くの人たちの関係に広めよう、という激しいものである。ソウル、ゴスペルというジャンルからすればそうなるのは不思議でない。
 
この曲は、その後南アフリカの教会で歌われるようになり、多くの人々はこれはもともとゴスペルだと認識していたという。アパルトヘイトの時代には、特にインパクトが強かったかもしれない。 
 
そういえば、逆に米国で別の意味でクローズアップされたことがある。2001年の9.11の後しばらく、「明日に架ける橋」の放送が自粛された。歌詞の後半にある Sail on silver girl というフレーズが、貿易センタービルを直撃した銀色の旅客機にsail on「出航せよ」、と連想させるということらしい。 
 
それでポール・サイモンが苦しんだということは、これに関連したしたNHKの番組でも描かれていた。
ひどい話といえばひどい話だけれども、よく聴くとこの Sail on silver girl のバックにつけられたサウンドは、曲中一番素晴らしい部分であって、だからそういわれるのか、皮肉といえば皮肉である。 
 
そういういろんな物語がついてきた「明日に架ける橋」

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