「幼稚園の頃からでしたっけ?」
「そう、凄いよね〜」
幼稚園の時に見たコンサートで智くんに憧れて事務所に入った
というその少年は二十歳になっていた。
「幼稚園からずっと憧れ続ける知念少年が凄いのか
ずっと憧れの存在でい続ける大野さんの方が凄いのか
どっちが凄いのかもはや分かりませんけどね」
「ふふっ。ホントだよね〜」
楽屋でニノと二人。
そう言って二人で笑いあった。
その少年はずっと智くんに憧れていると言い続けていたので
自分たちの間でも有名だった。
最初に見たのは確か忍者ハットリくんという映画での楽屋映像。
誰が好き?という問いかけにまだ小学校低学年だった彼が
ぴょんぴょん飛び跳ねながら嵐の大野くんとはっきり答えていた。
そしてその後も事あるごとに色々な場面で憧れていると言っているのを
目にしたり耳にしていた。
「でもさ、にのも似たようなもんじゃない?」
「え? 俺?」
そう言うとにのは意外そうな顔をした。
「だって中学の時からずっとあの人のこと憧れていたんでしょ?」
「……まぁ。中学の時はね。でも今は違うよ」
にのは今は違うと言ったけど
表情や言葉に時々出てくるんだよね〜。
もしかしたら本人は気づいていないかもしれないけど。
「ふふっ、でもそんなこと言ったら翔さんもでしょ?」
「え? 俺ぇ? 俺は さ…」
そんな事を思っていたらにのが意味深に笑いながら
思いがけないことを言ってきた。
「俺は、何ですか?」
「俺は……憧れているというよりかは尊敬って感じかな?」
「尊敬 ね」
にのがそう問い詰めてくるので仕方なく答えると
にのはそう言ってまた意味深に笑った。
「あの人ってさ、変な魔力を持ってるんですよね」
「魔力?」
にのは少し考えるような顔をしたかと思ったら
意外なことを言ってきた。
「そう。惹きつけて、心を奪って、虜にする」
「ふふっ、確かにね〜」
確かにそんな状態になった人を何人も見てきた。
「本人は全然愛想も良くないし決して面倒見がいいって
わけでもないんですけどね」
「ふふっホントにね」
そう言ってまた二人で笑った。
「まぁ、魔王ですしね」
「ふふっ、だね」
「あの人、好感度も全然気にしないし」
そう。
いくらだって好感度なんて上げられるのに智くんは決してそうしない。
自分を落としてでも相手を立てる人。
「まぁ、あのクズキャラも知念くんの為でもありますけど
それよりも俺らのためにっていう感じでもありますしね」
「……確かに」
「結構考えてないようで考えてますからね。あの人」
「うん、そうなんだよね」
智くんは考えなしでああいう事はしない。
自分の中でどう振る舞えばいいか空気を読んで行動する人。
そしてそれが例え自分を落とすことになろうとも気にしない。
本当にまわりをよく見てる。
そして自分たちメンバーの事も常に考えている。
「だから俺も翔ちゃんもそうだけどさ、みんな大野さんにやられちゃってるのかもね」
「ふふっ。だね」
そう言ってまた二人で笑った。
家に帰ると智くんがソファにちょこんと座ってテレビを見ていた。
疲れているのか黙ったままボーっと付いているだけのテレビを眺めている。
その姿を見つめた。
「本番で発揮できなくてかわいそうだったね」
「ああ、知念くん?」
「うん」
しばらくテレビを眺めていたかと思ったら
そう小さく呟いてまたテレビをぼーっと眺めた。
“もしかして落ち込んでる?”
「でも最後勝てたんだし良かったじゃん」
「ん、そだね」
智くんは意外とこういうところ気にする人だよね。
「メールしたげれば?」
「そだね」
「ふふっ。そう言ってしないくせに」
「んふふっ」
智くんはばれたかというふうに無邪気な顔でえへへっと笑った。
本当にこの人は。
絶対喜ぶってわかってるのにしないんだよね。
本当に面倒見も良くないしマメでもない。
でもどうしようもなく惹かれて、心奪われて、虜になってしまうんだよね。
「どうしたらいいんだろうね?」
無邪気に笑っているその可愛らしい顔を見つめながらそう呟くと
智くんは何が?って顔をして見つめる。
もうずっと智くんの魔力にかかったままでいる。
十何年も一緒にいるのにずっと
惹かれて、心を奪われて、虜になったまま。
「智くん、好きだよ」
このままずっととけそうもない。
そう思いながらゆっくり顔を近づけていってちゅっとその唇にキスをした。