yama room

山コンビ大好き。

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きらり

山 短編8 後 (シェアハウス)

2014-07-08 16:55:14 | 短編




そこは


智くんと二人だけのシェアハウス








「なんで言ってくれなかったのぉ?
最近付き合い悪いし、デートも飲み会もすぐ帰っちゃうし
変だと思ってたんだよね~」

「……」


なぜか実家を出た事を知った彼女が
今日はしつこく聞いてくる。
まぁ、当たり前っちゃ当たり前か。








「でも、その家、私も行ってみたい。
お父さんもお母さんもいないならゆっくりできるし
なんなら泊まってもいいしね」

「……」


そう言ってご機嫌な彼女はフフッと笑う。
男としては普通は喜ぶべきところなんだろうな。
イヤ、以前の自分だったら確実に喜んでたろうな。


でも


今は


彼女には申し訳ないけど


全然嬉しくない。


あの家は智くんと二人だけの大切な家で
他の誰にも邪魔されたくない。
それがたとえ彼女であったとしても。


そんな風に思ってしまう自分はちょっと変なのかな。










最初


このシェアハウス生活の話があった時
こんなに長く続くなんて夢にも思っていなかった。
だから、彼女にも、友達にも誰にも話さなかった。


でも、智くんと出会って
二人でのシェアハウス生活が始まって
何となく暮らし始めたら何だか妙に居心地がよくて
このシェアハウス生活を楽しんでいる自分がいる。


だけど


この空間が


自分達以外の他の誰かが入ってきたら
何だか壊れてしまいそうな
そんな気がして誰にも言わなかった。










家に来たがっている彼女に
一人暮らしではなくシェアハウスで相手があること。
そしてその相手には特別な事情があり
今はそっとしておいてあげたいことを
簡単に説明し家に来ることは遠慮して欲しいとお願いした。


でも実家暮らしでない、ということに妙に
テンションが上がってしまった彼女には
全く通じなかったらしい。


「遊びに来ちゃった。ね、入ってもいいでしょ?」


インターホンがなり玄関に出ると
そこには彼女が立っていた。


家に行きたいと頼んでも全然連れてってくれないと
痺れを切らした彼女がどこをどう調べたのか
突撃訪問してきた。


「あ、俺、自分の部屋にいますから、どうぞごゆっくり」


リビングにいた智くんはすぐに状況を察したらしく
そう言ってニッコリと笑うと自分の部屋にいった。


「ほらぁ、いいって」


彼女は興奮しながらそう言って家の中に入ってくる。
そして、うわぁ、吹き抜けで素敵な家だねなんて言っている。
そんな彼女をただ冷めた目で見ているだけの自分がいた。


それからも彼女は何度も突撃訪問をしてきた。
この家は自分ひとりの家ではないから止めてほしいと
何度も頼んでも彼女にはどうにも通じないらしい。


色々食事の材料を買ってきて料理を始めたり
イチャイチャしてきたり。
その度に智くんは気を遣って外に出たり
遠慮して自分の部屋に閉じこもったりしていた。













「何度も言ってるけど、もう家には来ないで欲しい」

「何で?」

「家に来てくれたり食事を作ってくれようとしてくれる気持ちは嬉しい」

「だったら何で?」


彼女は納得がいかないって顔をする。


「何度も説明しているけど俺一人の家だったらいいけど
相手もあることだからやめて欲しんだ」

「でも、智くん全然気にしてなかったじゃない?
いつもごゆっくりって言って笑ってくれてたよ?」

「それはそうだけど」

「だったらいいじゃない?」

「その智くんに凄く気を遣わせてしまっているのがわからない?」

「でも、それはお互い様なんじゃない?」

「……」


彼女には何を言っても通じないらしい。
多分、お互い実家暮らしだったから
自由にできるこの状況が嬉しくてたまらないのだろう。
それはわからなくもない。





でも


波がひくように


潮がひくように


彼女に対して気持ちが冷めていくのを感じた。












「智くん、ごめんね。嫌な思いさせてしまって」

「……?」

「もう彼女とは別れたから。もうこういうことはないから」

「そうなの? 別に俺はよかったのに。
元はといえばここは翔くんの家なんだし」

「二人の家でしょ。それに俺が嫌だったの。
もっと早く決断してればよかった。本当にごめんね」

「そうなんだ」


智くんは、そうなんだと
そう言ってそれっきり何も言わなかった。


そう


多分


自分自身が嫌なのだ。
だからここに住むと決めた時も
彼女にも親しい友人にも決して誰にも言わなかったし
知られないようにしていた。













そして


彼女と別れてから


智くんは


また一緒のベッドに


入ってくるようになった。




ベッドの中に一緒に潜り込んできて目が合うと
えへへっと可愛らしい顔で笑う。
この顔がまたかわいいんだよね。


何だか


ここしばらく智くんが遠慮していてこなかったから
一人で寝てて寂しかった。
最初は自分以外の人と一緒に
ましてや男の人と寝るなんてとても考えられなかったはずなのに
いつの間にか一緒に寝るのが当たり前になっていた。


だから智くんがベッドに入ってこないと
ポッカリと穴があいたみたいに寂しくて
物足りなく感じていた自分がいた。


最初は蹴ったりしないようにと緊張していたせいか
身体がカチコチになって痛かったはずなのに。


本当に慣れというものは


恐ろしい。


身体が自然に慣れて


そして


智くんのすぅすぅという寝息に


身も心も安心し


自分自身の眠りを誘う。



これって一体何だろうね?












「来月姉ちゃん帰ってくるんだ」

「そうなの?」


一緒にベッドに入ると智くんが思いだしたみたいにそう言った。


「うん、何か日本に転勤願い出してたみたいで
それが通ったみたい」

「そうなんだ」


そう言えば父がそんなような事を言っていた気がする。


「で、姉ちゃんには実家で一緒に暮らさないかって
言われているんだけど…」

「……うん」

「もう少しここに住んでていい?
姉ちゃんには同じ都内だから簡単に会えるし。
それに家族水入らずのところ邪魔したくないんだよね」

「いいにきまってるじゃん」

「ありがと」


そう言うと智くんは嬉しそうに笑った。


「それにおやじに感謝されてるんだよ
これで恩返しができるって。
自分じゃ何もしてねーのにな」

「ふふっでも俺も翔くんのお父さんに感謝してる」

「……?」


そう言って智くんは、んふふって笑った。













今日も智くんは


ベッドに


一緒に入ってくる。


その顔を見つめるとえへへっと可愛らしい顔で笑う。


そして朝、目覚めると智くんが隣にいる。


おはようというとおはようって言って可愛らしい顔で笑う。



ね、何だかすごく幸せなんだけど。




「……」

「……?」

「キスしていいですか?」

「ふふっいいですよ」


冗談で言ったら智くんが布団から顔だけだけ出した状態で
いいですよって可愛らしい顔で答える。


「ええぇ? マジで?」

「んふふっマジですよ」


信じられなくてそう聞くと智くんは綺麗な顔で
そう言って笑った。


ね、何だろうね?


朝目覚めて隣に智くんがいることが幸せで


ずっとこんな日が続けばいいなって思って


そしてその綺麗な顔を見ていたら


キスしたくなった。


思わずキスしていいですかって聞いたら


思いがけない智くんからの返事。









突然降ってわいたシェアハウスの話に
こんな風になるなんて思わなかった。
智くんの顔を見ると智くんはなあに?って
不思議そうな顔を浮かべている。


上半身を起こし上から智くんの顔を見つめる。
智くんもまっすぐな視線で見つめてくる。
その綺麗な顔
最初見た時から綺麗な人だと思っていた。


長い睫毛
小さな形の良い唇
その顔をじっと見つめた。


智くんはあまりにも見つめすぎたせいか
少し目を伏せた。
その目を伏せた顔がまた儚くてとても綺麗だ。


そしてそのままゆっくりゆっくりと顔を近づけていって
その唇にそっと唇を一瞬だけ重ねた。
そして上からまた智くんを見つめる。
智くんが頬をうっすらと赤く染め
まっすぐな視線で見つめてくる。











「好きだよ」


そう


この目の前にいる人が


好きだ。


「ふふっ俺もだよ」


智くんはそう言って、んふふっと笑う。


「何でだろうね?」


「ふふっわかんない」


男の人なのにね?


でも最初に会った時から特別な存在だった。


「ね、今度一緒にお墓参りに行こう?」


「うん」


そう言うと智くんはちょっと意外そうな顔をして


そして、うんと言って嬉しそうに笑った。


これから先の事はわからない。


でももう少し


この二人だけのシェアハウス生活を


楽しみたい。


ああ、智くんの言ってた父に感謝って


この意味だったのかな?


だとしたら自分の方が父に


凄く凄く感謝しなくちゃいけないな。



そんな事を思いながらもう一度角度を変えて
顔を近づけていくと唇を重ね合わせる。
そしてそのまま深いキスをした。