マサキもまた智の事を心配していた。
マサキは、智が元々人間ではないと薄々感じていた。
最初に海岸で智を見かけた時
智は足の痛みで動けなくてうずくまっていた。
どうしたのだろうと声をかけると顔をこちらに向ける。
その瞬間を今でも鮮明に覚えている。
振り向いたその顔はとても美しくそして神秘的で
一瞬、海の精が舞い降りたのかと思った。
だから何も話さない智に対して
どこから来たのかと問い詰める事もしなかったし
何者なのかと深く追求もしなかった。
そして自分の住む小屋へと連れて帰ると
智はその華奢な身体で、痛い足を引きずりながらも
一生懸命庭の仕事を手伝ってくれる。
そのひたむきで健気な姿を見てると
マサキにとっては智が人間でないなど
最早どうでもよい事のように思えた。
妻に先立たれ一人になってしまったマサキにとって
智は本当の子供のような
そして孫のような存在だった。
話すことができなくても、智と一緒に食事をするだけで
いつもの食事が何倍にも美味しく感じられる。
智と一緒に仕事をすると一日があっという間に過ぎる。
それまでの味気ない毎日がキラキラと
光輝いたような日々になった。
智と一緒に庭の仕事をすると
智は今までの自分にはないセンスで庭を彩る。
それを見るといつもその美しさに感心し、ため息が出た。
智の造った庭の一角はマサキの造ったそれとは
またひと味も二味も違っていて芸術的だった。
そしてその庭を見て国王や王妃が見事だと褒めてくれた。
その事が自分の事のように嬉しかった。
そしてたまに一緒に町に出てると、智が目を輝かせながら
街の風景を見、そして楽しそうに花の苗や種を選ぶ。
その智の姿を見るのが好きだった。
そして
翔と智が、仲良くベンチに二人座って
話している姿を見るのが好きだった。
青白い顔をしていた翔が
少しずつ元来の明るさを取り戻し
元気になっていく姿を見るのが嬉しかった。
その智が
今はいない。
マサキは、あの美しく、優しく、そして働き者の智が
話すことも出来ず、そして痛い足を引きずりながら
どこかで苦労し生きているのかと思うと
胸が張り裂けるような思いだった。
だからどんなに小さく、不確かな情報であっても
智に似た人がいると聞けば、どこまでも探しに行った。
そしてたとえ自分の命と引換になろうとも
智のためになるならば
何とかしたかった。
智は今日も夜明け前に起き船に乗る。
あれから潤は何もなかったようなふりをして
いつもどおり優しくしてくれている。
智はその優しさがなんだか余計に辛かった。
魚を釣り上げ港に戻る中、船から広い海を眺める。
自分が生まれ育った場所。
なぜ自分はこんな思いをしながらも
海に戻らないのだろう。
潤の優しさに甘えつけこんでいるだけ
のような気がして心が痛んだ。
いっそのこと
そう思った瞬間。
潤が肩をぐいと引っ張り船の内側へと智の身体を戻した。
「何してんだよ、落ちるだろ」
潤が怒っている。
びっくりして潤の顔を見つめる。
もしかして海に投げ出そうと思ったのだろうか。
潤は真剣な顔をしている。
智がフルフルと首を振る。
「何だ、そんな顔して海に身体を乗り出してるから
心配になっちまっただろ」
潤はぶっきらぼうにそう言うと
その怒った声とは裏腹にホッと安心した表情を見せた。
宙ぶらりんな自分。
この先どうしたらいいのかわからない。
智はどこまでも続く青く深い海を見つめた。
その姿を潤はじっと見つめる。
「もしかして自分のこと厄介者とか
思ってかもしれねえけどさ」
「……?」
突然潤がそう言って話しかけてくる。
智は潤を見つめた。
「智は華奢な身体の割に結構腕の力は強いから
かなり重宝してんだぜ」
潤は智の心の中を見透かしたようにそう言うと
優しく微笑んだ。
その優しさに智はまた胸が痛んだ。
潤との日々は穏やかで静かだった。
漁業の仕事は朝も早く力仕事で大変だったが
智は毎日夢中で働いた。
海は時に急に天候を変え荒れ狂う時もあった。
船が大きく揺れ転覆しそうになり生死をさまような時もあったが
潤が大丈夫だといつも冷静に対処してくれていたので
そんな時でも智は怖いと思うこともなかった。
そして潤は時々智を切なそうな目で見つめた。
智の頬に手で優しく包み込む。
そしてそのまま何か言いたげな顔をして
見つめたまま、ふっと微笑みその手を離す。
智は何も言うことができず、そしてどうすることもできず
ただ潤を見つめ立ち尽くすだけだった。
智と潤はいつものように魚を釣り上げ港に戻る。
まだ辺は薄暗い。
いつもと変わらぬ風景。
でも、なんだか様子がいつもと違うような気がした。
「……智」
「……」
そう思った瞬間。
久々に聴く懐かしい声。
「……智」
「……」
翔が震える声で自分の名を呼んだ。
智は驚きで立ち尽くす。
「……」
「……」
「智、帰ろう」
「……」
しばらくお互い無言のまま見つめ合う。
そして翔が帰ろう、と遠慮がちに智に言った。
その言葉に智がしばらく呆然としていたが
ふるふると首を振る。
「……ダメ なのか?」
その言葉に智が小さく頷くと翔は絶望的な顔で
智を見つめた。
そんなの当たり前だ。
人魚だって気づかれたのに
戻れるはずはない。
それに潤にもお世話になっている。
戻れるはずなんてなかった。
智が帰れない、と首を振ると
翔が絶句したまま呆然と立ち尽くす。
長いこと二人はお互い立ち尽くしたまま動かなかった。
「帰ったら?」
そのやりとりをずっと静かに見ていた潤が智を
まっすぐ見ながらそう言った。
「だって本当はずっと帰りたかったんでしょ?」
「……」
その言葉に智はぎゅっと拳に力を込め俯いた。
「いつもこの人のこと思い出して涙流してたんでしょ?」
「……」
潤がそのまま智に話し続ける。
翔が、信じられないという顔で智を見た。
「ほんとは俺、ずるいんだ」
「……」
潤がそう言うと智はゆっくり顔を上げ、潤の顔を見つめる。
「智がこのままずっとここにいればいいなって思ってた」
「……」
「だから誰にも見つからないように
ほとんど智をひと目に晒さないようにしてた」
そう言えば
確かに智が家から出るのは釣りくらいだった。
しかも夜中に出発し、まだ人もまばらな時に帰ってきて
そのまま潤は魚を売りに行くが智は家に帰るように言われてたので
ほとんど誰とも顔を合わすことはなかった。
「でもそんな風に縛り付けていてもダメなものはダメなんだよね」
そう言って潤は笑う。
「帰りな」
「……」
「どんな事情があって何を心配してんのかしらねえけど
帰ろうって言ってくれてるんだから、きっと大丈夫だよ」
「……」
その言葉に智が潤を見つめる。
「ずっと帰りたかったんでしょ?」
潤も智を見つめながら優しくそう言った。
おまけ2 VS嵐
コイデサンとのツーショットがツボだったので。
かなりフィルターのかかった目で見た妄想です。
それでもOKな方のみ↓
その人のことを前から知ってた。
異色だと言われ続けていた
同じ学校の2つ上の先輩がいるグループのメンバーの一人だったし
歌番組やバラエティ番組そしてコンサートDVD
そして
役者としての演技も見たことがあった。
よく役者の中には憑依タイプの役者がいると聞く。
そしてその人もそう言うタイプだと言われているのを
聞いたことがあった。
確かに
その人が演じている時は声の出し方からして違う。
歩き方も違う
姿勢も違う。
表情も違う。
何もかもがその人ではなく完璧に演じている人
そのものになっていてその人がどこにもいない。
そんな、憑依タイプの役者。
でも今、隣にいるその人は思ってた以上に
華奢で、3歳年上とはとても思えない
可愛らしい顔をした人。
いけそうな感じがあるのかと問われ
『スペアに繋げるやり方がいいですか?』
そう言ってその人は腕を組みながら
なぜか半分キレ気味に答える。
その声の出し方言い方が絶妙で場内の笑いを一気に誘う。
かと思えば
倒し方について両方は無理でしょと松潤に突っ込まれ
『信じらんないよ』
可愛らしく口を尖らせこちらにまっすぐ視線を向け
そう言ってくる。
その顔が3歳も年上だとはとても思えないくらい可愛らしくて
思わず笑みが浮かんだ。
「翔くんって、前から思ってたけど上下関係厳しいよね~」
「へ?」
「あぁ~俺、翔くんの一つでも上でよかったぁ」
「は?」
「んふふっ。だってもし翔くんが上だったらビシバシ
毎日怒られてたんだろうなって」
「……?」
そう言って、んふふっと可愛らしい顔で笑った。
相変わらず唐突にそう言ったかと思うと
一人自己完結し満足している。
まぁ、そこがまた可愛いらしいところでもあるんだけどね。
そう言えば今日の収録でネタで学生時代の2つの学年差は
大きいというような話をしたんだっけ。
まあ確かにジュニア時代、きちんとしていない奴が許せなくて
指導したこともある。
でも学生時代の年の差とメンバーとかとは違うんだけど、ね。
そんな事を思いながら、もし智くんが年下だったら
どうだっただろうと考える。
あのブレのないキレキレで圧倒的なダンス力。
そしてあの透き通るような歌声で人を魅了する歌唱力。
その多彩すぎるほどの才能は年上年下関係なく
とてもかなうものではないだろうから
一目置き今と変わらず尊敬していただろう。
「そんな事ないよ」
「え~絶対、だらしない、片付けなさい、綺麗にしなさい
ちゃんと喋りなさい、しっかりしなさい、姿勢正しなさい
ってきっと今も怒られてたよ~」
そんな事を思いながらそんな事ないよと言うと
出てくるわ出てくるわ。
「お母さんかよっ」
思わず突っ込んだ。
どんだけでてくんの?
っていうか、智くん俺の事どういう目で見てんの?
「あ~よかった~お母さんじゃなくて」
「いや、ホントお母さんじゃねえから」
そう思いながら、んふふと可愛らしく笑っている智くんに
お母さんじゃねえからっと言ってその可愛らしい唇に
ちゅっとキスをした。