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山コンビ大好き。

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きらり

山 短編6 オオノ先生と僕 

2016-05-31 16:22:20 | 短編






遅くなりました。
2年前に書いた話の続編です。
書いているうちにどんどん長くなってしまって。
読みにくいかな? 









夕焼けに染まった空


アンティークの時計


太陽が沈む海


お気に入りのアクセサリー


美しく紅葉した木々


青空に浮かぶ富士山


ジョブズ氏が造り上げたこだわりのもの


桜の花が舞い散る並木


真冬の夜空


都会の夜景


誰もまだ足を踏み入れていない雪面






昔から




美しい風景や綺麗なものが好きだった。






それはもう



物心がつくかつかないかくらいの



小さい時から。













幼稚園の時、みんなが好きだったのは
もも組のアヤカちゃんだった。
でも自分だけは違った。


アヤカちゃんは明るくて可愛らしい
誰からも愛されるタイプで人気だったけど
自分が好きだったのはさくら組のユリ先生だった。
みんなは、えーって言ったけど
みんなはまだユリ先生の美しさに気付いて
いないだけなんだ。


幼稚園では花を見るのが好きだった。
園庭の周りには様々な花が植えられていて
季節ごとに綺麗な花を咲かせた。


その花々を見るのが好きだった。
そして秋になると園庭の中心にある銀杏の木が
紅葉して綺麗な色に姿を変えた。
その銀杏の木を眺めるのが好きだった。
そして冬に近づくにつれ紅葉した綺麗な葉が
一枚一枚と落ちてきてそれを集めて並べていた。


砂場ではみんなで色々なものを作った。
山をつくったりだんごをつくったり。
そのうち大きい山が出来上がってそこから道を作ったり
水を流して遊んだ。


みんなきゃっきゃいいながら
水道から水を運んでは流す。
その横で自分だけはどれだけ綺麗なお団子が作れるか
一人で挑戦しているような園児だった。


出来上がったお団子はまんまるだった。
最後にはご丁寧にサラサラの砂までかけて
その団子を一つづつ綺麗に並べては
満足げにそれを眺めて喜んでいた。
そんな子供だった。


とは言っても。


気付くといつの間にかその団子は
他の園児たちの手によって


『コウちゃんの作った団子、固くてすげえまんまる』


と、小さな山の道の上からコロコロと転がされ
パカッと割れてしまうのだけど。


まんまるの綺麗なおだんご。
綺麗な花。
綺麗な葉。
綺麗なユリ先生。


美しいものが昔から好きだった。















先生の事を知ったのは


3年に進級した始業式の日だった。




何気なく廊下を歩いていたら
まだHRが終わっていないクラスがあって
何気なくその教室を見る。
そこには新しく赴任してきたという先生がいた。


そういえば3年に新しい先生が入ったと言ってたっけ。
そんな事思いながら通り過ぎた。




翌日からはすぐに通常通りの生活が始まった。
授業も始まり、そしてその新任の先生も
自分の教室に教えに来るようになった。


現国の先生。


国語の授業。


歴史とか数学は学ぶべき事がはっきりしていて
好きだったけど国語は何をどう学べばいいのか
いまいちよくわからなくて好きではなかった。


眠たくなる気持ちを堪えながら、ぼんやりと黒板を見る。
新しい先生。
新しい授業。


そういえばさっき何か言いながら
先生が黒板に向かって書いていたなと
黒板を見るとそこには綺麗な字が書かれていた。


あの先生が書いたのか。
って当たり前か。
でもその黒板に書かれた字と先生が
何だか一致しないような気がした。


ぼんやりと眺めていると
先生がまた黒板に向かって字を書きはじめた。


「……」


違う。


字だけが美しいのではない。


そのチョークを持つ手が指が綺麗なのだ。
一本一本の指が細くて長くて爪まで
綺麗な形をしている。
男の人でこんな綺麗な手見たことがなかった。


美しく指先まで綺麗な手。


そして手や指だけではない。


少し捲り上げられたシャツから見える腕もまた
程よく筋肉がついていて綺麗なのだ。


でも今まで男の人に対して綺麗という
感想を持ったことなんてない。
気のせいだろうと頭を振った。






でも。


見るとやっぱり手が、指が、腕が
美しいのだ。


その手を


その指を


その腕を


そしてその手から書かれる黒板の美しい字を見つめた。


「……」


そしてその手を


その指を


その腕を見るたびに


なぜか胸がドキドキした。











そして授業を受けながら先生の事を見つめる。
先生の髪の毛は少し長めで横の髪の毛を軽く後ろに流している。
そして前髪は自然な感じに分けられていて
目に少し前髪がかかっていた。


目は少したれ目で優しい顔立ちをしている。
鼻筋は綺麗に通っていて唇の形もよく
凄く目立つ訳ではないけど綺麗な顔立ちをしていた。


そしてワイシャツのボタンは少し開けられていて
そこからは、少しだけ肌とそして首筋が見えた。


それを見てまた胸がドキドキした。


って何でだろう?


相手は先生で男。


でもなぜか胸がドキドキしていた。


背はそんなに大きくないけど
均整の取れた綺麗な身体。
顔に似合わない美しい字を書く綺麗な男。


先生の顔を見るたびに


なぜか胸はドキドキしていた。











「せんせー彼女とかいんの?」

「え~?」

「……って、もしかして結婚してるとか?」

「してねえよ」


数週間がたち、先生に気軽に話しかけられるようになった。
先生はいつもクールで何を言っても何を聞いても
あっさりとかわされてしまう。


自分以外にも先生に興味を持つものは男女問わず
たくさんいたけどみな同様だった。


どんなに授業中じっと見つめても
先生をつかまえてガンガン話しかけても
先生はポーカーフェイスで変わらない。


何だか寂しかった。


でも。


時折見せる目を伏せた綺麗な顔
たまにだけど見せる笑った時の可愛らしい顔
生徒たちを注意する時の凛とした美しい顔
そんな先生の顔を見るたびにいつもドキドキした。


先生は、先生だし、ましてや男だし
自分自身、綺麗な彼女もいる。


でも。


やっぱり先生の授業を受けていると
自然とその美しい手に目がいく。
目がそらせない。
先生の美しい顔を見つめた。









「せんせー今度先生の家に遊びに行きたい」

「は?」

「だって先生がどんなとこ住んでるのか見てみたい。ダメ?」

「ダメに決まってるでしょ」

「何でぇ? どこに住んでいるかだけでも」

「ダメ」


先生はそう言って、ふふって笑う。
いつも笑って、はぐらかされて
ごまかされて先生の事が全く分からない。



そんな毎日。















「コウキー行くよー」

「え~俺もいかなきゃダメ?」

「今日はおじいちゃんの大事な三回忌法要の日なんだから
行くにきまってるでしょ?」

「そうだけどさぁ、俺、受験生」

「何言ってんの、どうせそのまま持ち上がりなんだから」

「どうせって」

「ほらコウキもおじいちゃんの事も
おじいちゃんのお家も大好きだったでしょ?」

「……」


確かにじいちゃんもじいちゃんの家も大好きだった。



けど。



内部進学が決まっているとはいえ受験生だし
じいちゃんの三回忌とはいえやっぱりメンドクサイ。
なんて事思ったら罰当たりかな。


そうこう言いながら出席した三回忌法要は昼過ぎには終わり
両親や集まった親戚の方々の食事会が始まろうとしていた。
この食事会という名の宴会が長いんだよね。
昔の思い出話をしたり誰々がどこに入学しただの就職しただの
自分がいなくたって全然問題はないだろう。


ちょっと出てくると言って雨が降る中、傘をさして外に出た。








じいちゃんの暮らしていたこの街。


大好きで休みのたびに遊びに来ていた。
山も海もあって一歩裏に入るとそこは別世界。
とても静かで瀟洒で美しい建物が並ぶ。


その中をゆっくりと歩いていく。


瀟洒な家の庭には丹精込められ育てられた草木があって
色とりどりに咲いた花が道行く人々を楽しませている。


とても静かで美しい街。


この街が大好きだ。


そして


じいちゃんの家に来るといつもくるこの場所。


紫陽花で有名なこの場所は
今の時期、毎年大勢の人が訪れる。


色鮮やかに様々な色の紫陽花が咲き乱れていて
そして少し高台にあるその場所からは
海とそして綺麗な街並みが見える絶好のロケーションだ。


いつもは観光客で溢れかけるその場所も
今日は雨が降っているせいかそんなに人も多くなくて
ゆっくりとこの場所を堪能することができた。


色鮮やかな紫陽花。


雨に濡れて花がますます生き生きと輝いている。
一歩一歩と歩きながらその紫陽花たちを眺める。
とても綺麗だ。


来ている人たちもみんな紫陽花に夢中だ。
写真を撮ったり
眺めたり
その前で記念撮影をしたり


友達同士だったり
カップルだったり
家族連れだったり


それぞれ雨の中でも綺麗に咲き乱れる
紫陽花を思い思いに楽しんでいる。









その中をゆっくりと歩き風景を眺め
そして紫陽花を見ていると
男の二人組とすれ違った。


男同士で雨の中、こんな場所に珍しいなと思いながら
その姿を目で何気なく追った。


一人はとても綺麗な茶色の髪の毛をしている。
人目を惹く端正な顔だちは華やかでとても目立つ
かなりのイケメンだ。


そしてもう一人は。


もう一人は少しそのイケメンの男より小柄で顔は…


って、大野先生?


先生がなぜこんなところに?


どういうこと?


二人は何?


兄弟?


親戚?


友達?




頭の中でフル回転で考える。


違う。


兄弟でも親戚でも友達でもない。


きっとそれ以上の関係だ。


茶髪で目がくりくりした端正な顔をした
美しい男が先生の顔を見つめては
凄く嬉しそうに笑っている。
そしてそれを優しい眼差しで慈しむように見つめる先生の顔。
今まで先生がこんな表情をしているのを見たことない。


自分と同じくらいのその男は
先生の事がすごく好きなんだろう。
嬉しさを隠し切れない顔をしている。


先生の顔を見つめては嬉しそうに目を細め
先生と目が合うと嬉しそうに笑う。


そして先生もまたその姿を見て優しく笑う。


それは兄弟でも友達でもない。




その二人の姿を



いつまでも



いつまでも見ていた。











「ああ~やっぱ俺、先生の事、閉じ込めておきたい」

「また言ってるし」


そう言って、先生は呆れた顔をする。


「だってこれ全部ラブレターでしょ?」

「あ、こら、勝手にみんなよ」

「だってぇ何枚もある」


だから、ヤなんだよね。高校なんて。
先生は全然自覚がないし。
ほっとくとあっちからもこっちからも手が出てきそうで心配すぎる。


「もう、先生はさ、研究室とかに入った方がいいんじゃない?」

「は?」

「あ、でもまてよ。研究室内でも先生を狙うやついるかも知れないし。
いやでも学校よりは全然ましじゃね?
絶対数が違うもん。研究室はたかだか数名だろうし
高校なんて何百人、いや下手すると千越え? 
うわぁイヤすぎる」

「何ぶつくさ言ってんだよ?」


何も知らない先生はそう言って笑う。


「だって、心配なんだもん。
こないだだって紫陽花見てる時じっと見てる人いたんだよ?
先生は全然気付いていなかったけど」

「それはお前見てたんじゃねえの? 目立つし」


やっぱり何も知らない先生は先生はそう言って笑う。


「違う。先生の事、切なそうな目で見ていた。
だから知り合いなのかと思ったけど見てるだけだったし」

「マジで? 学校関係者かな」

「大丈夫大丈夫。もう俺大学生なんだし」

「そういう問題?」

「そういう問題」

「……」

「……ね、それより先生キスして」


そう言うと先生が突然何を言い出すのだろうって顔をして見る。
でも先生は知らないでしょ?
どんなに俺が毎日心配しているか。
本当は先生の事冗談じゃなく閉じ込めておきたいんだよ?
でもそんな事できるわけないし。


だから。







「先生」

「……」


先生を見つめると先生が仕方ないなって顔をして
頬にゆっくりと手を伸ばしてくる。


そして先生の顔がゆっくりと自分の方に近づいてきた。


先生をそのままじっと見つめてると先生が手を瞼にかけ
優しく目を閉じさせる。
それに逆らうことなくゆっくり目を閉じると
先生の唇がゆっくりと自分の唇に重なった。


先生だ。


先生の唇だ。


そう思った瞬間。


その唇の気配はなくなった。


これで終わり?


何だか寂しくて物足りなくて
先生を見つめると
先生はその美しい顔でふっと笑った。


先生はいつも大人の余裕でずるい。


そう思いながら先生にギュッと抱きついた。
抱きついていると先生の腕もゆっくり伸びてきて
ぎゅっと包み込むように抱きしめてくれる。


心臓がドキドキしていた。


先生が好き。


好き好き好き。


心の中で何回も訴えながら力いっぱい抱きつくと
先生もぎゅっと力をこめ抱きしめてくれる。


そしてゆっくりと力を弱めると先生の顔を見つめた。
目と目が合う。
先生がふっと笑った。


何だろうと思いながら先生を見ていたら
先生の唇がゆっくりと自分に降りてくる。
先生からキスをしてくれた。


そのキスはいつもとは違う
舌を絡ませる激しくて深いキス。


先生が好き

先生が好き


先生は角度を変え何度もキスをしてくれる。


心配だって思いが先生に伝わったのかな?


いつもは、ねだってもなかなかしてくれない
激しくて深いキスを
今日は先生からしてくれる。


先生が好き

先生が大好き


本当は先生の事閉じ込めておきたいけど
そんなことできないから
今だけは自分の中に閉じ込めさせて。
そう思いながら何度も見つめあって
そして深いキスをした。











あの日。



たくさんの紫陽花の咲く丘に先生がいた。



紫陽花に囲まれている先生は



紫陽花にとけ込んでいてとても綺麗だった。







「先生?」

「うん?」


先生をつかまえいつものように話しかける。


「俺もね、あの日あの場所にいたんだよ?」

「……」


そういうと先生がびっくりした顔をした。


「すごく紫陽花綺麗だったね?」

「……そうだね」

「それに一緒にいた人も凄く綺麗な人だったね。
先生の恋人でしょ?」

「え?」


先生が驚いた顔をする。


「ふふっ大丈夫。
俺、誰にも言わないから」





あの日。


雨の中紫陽花に囲まれている二人が凄く綺麗だったから
男の人が先生を見る眼差しも
先生が愛おしそうにに見るまなざしも凄く綺麗だったから
先生の事ちょっと好きになりかけていたけど
内緒にしていてあげる。




だって


昔から


幼稚園の時から


綺麗なものが好きだった。



男のくせにって言われながらも
園庭に咲く花が好きだったし
園庭の中央にあった銀杏の木も
そしてその葉も大好きだった。





雨に濡れた紫陽花がキラキラしていて凄く綺麗だった。
でもそれ以上に紫陽花に囲まれた先生たち二人が
傘を差しながら歩いている姿が
絵みたいに凄く綺麗だったから
宝物みたいにしまっておいてあげる。


先生の事が好きだったけど
先生の事が凄く好きだったけど
幼稚園の時、川で拾った綺麗な石を宝箱の中に入れた時みたいに
心の宝箱の中にしまっておいてあげる。





そう心の中で思いながら



二人だけの秘密ね



とそう言って



先生に向かってウィンクした。