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きらり

Another World 完【後】

2017-04-18 17:15:00 | Another World






予定がだいぶ変わってしまってすみませんでした💦
これで本当におしまいです。







その場所にたどり着くとあの日と同じように
デッキチェアを海岸の街に向け、くつろぎながら
タバコを吸っている姿が見えた。


そして時折灰皿に手を持っていくその綺麗な手。
そしてそこから見える小さな海岸の街並みと
果てしなく広がる海。


やっとここに辿り着いた。


そう思った。






でも。


また拒否されるだろうか。
来ないでと言ったのにと怒るだろうか。
泣きそうな顔で帰ってと訴えるだろうか。


あの日の事を思い出しながら、その姿をじっと見つめた。
そしてあの日言われた言葉を思い出していた。


ずっと後悔していた。
そしてもう二度と会えないと思っていた。
会ってはいけないと思っていた。


あれほどまでに苦しい思いをさせてしまって、
また会う資格なんてないと思っていた。


許してもらえるなんて思ってない。
到底許される事じゃないこともわかっている。
でももう後悔したくはなかった。


あの時とは状況が違う。
何年もかけ地道に準備してきた。
彼女とも何度も何度も話し合いをし、そして全てを手放した。











智くんがあの日と同じように振り返った。


「来たよ」

「何 で?」


驚いた顔をしているけど、あの時とは違う。


「会いたかったから」

「違う」


違うと首を振って不安げな視線で見つめてくる。


「……?」

「ずっとやりたかった事がやっとできたのに、何 で…」


今までの地位を確立するまでどれほど大変だったのか
わかっているからだろう。
智くんが必死に訴えるようにそう言った。


「知ってたんだ?」

「……」


智くんが小さく頷く。


「そう、だからもう何にもなくなっちゃった」

「何 で?」


そして心配そうに何で、何でと繰り返す。


こういうところが智くんらしいなとも思う。
心配性でいつも自分の事よりメンバーの心配ばかりしていた。
今の自分の状況を知っているのならなおさらだろう。


「そうしないと智くんには会えないと思ったから。
会ってはいけないと思ったから」

「何 言ってんの?」


智くんが言う。


「ふふっそうだね。今まで築きあげてきたもの全てなくなちゃった」

「……」


そう言うと途端に不安そうな顔を浮かべる。


「でもそれ以上に智くんが必要だって気付いたから」

「……バカじゃないの」


でも気にせずそのまま話し続けた。


「ふふっそうだね。でも仕事よりもお金よりも家よりも家族よりも
俺にとっては智くんの方が大事みたいなんだよね」

「……」

「……」

「大丈夫なの?」


その言葉に、じっと黙って見つめたかと思ったら
また不安そうな顔になって瞳がゆらゆらと揺れる。


でも。


確かにこの世界を知っている智くんからすれば
心配になるのも不安にもなるのも仕方ないとも思った。


「でも、不思議と何だか晴れ晴れとした気分」

「……」


これは、本当だった。


全てを失ってしまったけど何だか気持ちはスッキリしていた。
でもそれを智くんが心配そうに見つめた。










「……」

「……」

「あのさ、俺全てを渡してしまって何にも残っていないし
こんな事言えるような分際でもないけど、智くんと一緒にいてもいいかな?」

「……」


智くんが何も言わずじっと真っ直ぐな視線で見つめる。


「……ダメ かな?」

「……」


そんな勝手な事、やっぱり許されないだろうか。
不安を覚えながら智くんを見ると
智くんの瞳がまたゆらゆらと揺れた。


「……」

「ダメ じゃないけど…」


そして智くんが躊躇いながら小さく答える。
多分自分の事や、ニノの事
そして俺の状況や、相手の事を考えてしまっているのだろう。


「いいの?」

「……」


確認するように聞くとまた黙ったまま見つめる。


本当は自信なんてない。
自分たちだけの事じゃない。
周りの事を考えたら躊躇うのはわかりきっていた。


それにあんな辛い思いをさせて許されるとも思ってはいない。
全てを手放したと言ってもそれはただの自己満足だ。


それでも。









「今まで本当にたくさんの人を傷つけてきて、
そんな資格なんてないってわかってる。
でもそれでも智くんとここで一緒にいたいんだ」

「……ここでって言っても都会育ちの翔くんにはきっとつまらないよ」


智くんが少し考えるような顔をして言った。


「でも俺には智くんがいる。
都会にいても智くんがいなければ意味がない。
俺にできることをここで見つけていく」

「翔くんにできる事…」


そう言うと、また少し考えるような顔をして小さくつぶやいた。


「それにここから東京まで2時間ちょいなんだよね。
また一から始めてもいいかなとも思ってる」

「俺は別にここでなくったって東京に住んでもいいんだけど…」

「……!」


そう智くんがつぶやく。


でも、それって。


それって、俺と暮らしてもいいって言う意味だろうか?
そう捉えてもいいのだろうか。










「いやここがいい。智くんがいて智くんの大好きな海があって。
最初に来た時にもここに住みたいって思ってた」

「翔くんが?」


智くんが意外って顔をする。
確かに東京で生まれ育ってきた。


でも。


「うん、ここで智くんと一緒に生きていきたいって思ってた。
でもあの時はそれは許されないと思っていた」


あの時の帰ってと泣きそうになりながら訴えていた顔を思い出す。
そしてボロボロになりながらも生きてきた智くんのこれまでの思いを
思うと胸が苦しくなる。


「……」

「……」


智くんが黙ったまま俯く。


「……」

「それに」

「……」

「多分、智くんは家族の事とかを心配していると思うけど
俺の家族は、ずっと俺が智くんの事好きだったの知っていたから
智くんのところに行くって言った時、仕方ないなって顔してた」

「……!」


智くんがその言葉に俯いていた顔を上げる。


「うちの家族ってなぜかみんな智くんのファンなんだよね」

「ファンて。もう芸能人じゃないけど…」


そして戸惑った表情を浮かべる。


「なんかね一緒にずっとやってたっていうのもあるけど、智くんの事は特別みたいで…
だからって全てを認めてくれたって訳じゃないけどね」

「……」

「でも、どんなに批判されても自分たちだけは息子を信じてるって。
だから俺のやりたいように、生きたいように生きなさいって言われた」

「そう、なんだ」


多分家族を大事にしている智くんだから、それが一番気がかりだったのだろう。
初めて少し安心したような表情を見た気がした。


「だから回り道をたくさんしてしまったけど、俺は智くんと一緒にいたい」


辛い思いをたくさんさせてしまった。
眠れない程辛い思いもたくさんさせてしまった。
そしてたくさん泣かせてしまった。
食事ができないほどの辛い思いもさせてしまった。


それでも。


智くんと一緒にいたい。


一緒に生きていきたい。


そう思いながら智くんを見つめると


智くんが小さくうんと、うなずいた。












「ここって波の音が聞こえるんだね」


二人でベッドに入って天井を眺めていると波の音がした。


「そう、昼間は聞こえないんだけどね、夜になるとかすかに聞こえるの」


智くんが言う。


「星も見える」


開け離れた窓からは満天の星が見えた。





「ね、キスしていい?」

「そう言えばしてなかったね」


智くんがそう言ってくすっと笑った。


「うん」

「昔はあんなにしていたのにね」


そう言ってくすくすと笑っている可愛らしい唇に
身体を起こしチュッと触れるだけのキスをした。
久々にするキスは凄くドキドキした。
そしてまた二人で天井を見上げた。


「……翔くんは回り道をしてしまったって言ってたけど、
俺は回り道してよかったと思ってる」


そして智くんが天井を見つめながらそう小さくつぶやいた。


「だって子供が孫がって後悔されたくないじゃん。 だから…」


その言葉にやっぱりずっと気にしていたんだなと思う。


「俺は智くんと離れて後悔しまくりだったよ」

「そうなの?」

「最初は確かに舞い上がって周りが見えなくなってたかも知れないけど
落ち着いたらいつも智くんの事思いだしていた」

「……」


智くんが身体をこちら側に向け見つめる。


「毎日何を見ても何を聞いても智くんに重ねてた」

「……」

「智くんの手はこういう手だったなとか
智くんはこういう風に笑ってたなとか
智くんだったらこう言う場面でこう言っただろうなとか
いつもいつも重ねて思い出していた」

「へんなの」


そう言うと少し照れくさそうに変なのと言ってまたくすくすと笑った。
でも本当だった。


「一日たりとも忘れたことはなかった」

「……」

「愛してる。何もなくてもこうして一緒にいられるだけで幸せ。
これ以上のものはもういらない」

「だったら  もう離さないで」

「うん、もう絶対に離さない」


そう言ってお互い身体を寄せ合うとぎゅっと抱きしめあった。









あの時はもうその肌に触れられないと思っていた。
もうその姿を見る事さえ許されないと思っていた。


でも今こうして一緒にいられるだけで
こうして抱き合っているだけで
こうしてキスをするだけで


何とも言えない幸福感に包まれる。


「愛している」


身体を起こし上からそうつぶやくと智くんが見上げる。


視線が合う。


ああ、大好きだった人の顔だと思う。


その眼差しも、唇も、頬も、額も
大好きだった。
そして今も大好きな人。

そう思いながら前髪を上にかき上げ額に、頬にと唇を落とす。
そして唇にもチュッとキスを落とした。


智くんの唇だと思った。
大好きだったその唇。
そしてそのまま首に、鎖骨にとまたキスを落としていく。


「好きすぎて苦しい」

「んふふっ」


そして顔を上げ視線が合いそう言うと、智くんがふふっと笑った。


「大袈裟っていうんでしょ」

「うん」


智くんが可愛らしくくすくすと笑い続けている。


「でも本当なんだもん。触れるだけで電流が走って、好きだって思う」


ずっとその肌にふれたいと思っていた
あの拒否された時、どんなに辛かったか。
でもそれ以上に智くんは辛い思いをしてきたんだよね
そう思いながら痩せてしまったそのわき腹を指でなぞる。


「こんなに痩せさせてしまって  ごめん」

「んー俺もびっくり。こんなにも翔くんが好きだったんだなって」

「……」


そう言って細くなってしまった自分の腕を眺めている。
その姿を見つめながら辛くて眠れないとニノに電話をしていた事を思い出し
また胸が苦しくなる。


「そんな顔しないで」


それを察したのか、智くんがそう言いながら優しく手を伸ばし頬を包み込む。


でも。


「俺は大丈夫だから。それにいい経験をしたと思ってる。
こんなにも人って好きになれるんものなんだなって」

「……」


その言葉に嬉しさと苦しさと申し訳なさが
まじりあって何も言えなくなる。


「でももう離さないで」

「二度と離さない」


そしてまたそう言いあってぎゅっと抱きしめあった。


そしてキスをして


また見つめあって


角度を変えてまたキスをして。


唇を何度か重ねると智くんの口が小さく開いていく。


それを合図に深いキスをした。


そして背中に智くんの腕が回ってきて


甘い吐息が聞こえてきて


その手にぎゅっと力がこめられる。


そしてまた見つめあうと


切なさと嬉しさと苦しさがまざりあった


何とも言えない気持ちになった。


それを押し殺すようにまた額に、頬に、唇に、首に 鎖骨に、わき腹にと


キスを落とした。











「あ、すみません」


たくさんの資料をもって歩いていたら
前がよく見えず誰かとぶつかってしまい謝った。


「それって下っ端の仕事じゃねえの?」


当たってしまったのはどうやらニノだったらしく
ニノが自分の状況を見て不思議そうに聞いた。


普通こんな場面で偶然でも出会うだろうか?


「だって下っ端だもん」


そう思いながらも答える。


「マジで?」

「そうだよ」

「翔さんが?」


信じられないって顔。


「ま、気長にやるさ」


でも本当の事だからそう言って笑いかけた。



たくさん人を傷つけてきた。
智くんも、彼女も、彼女の家族も、自分の家族も
そしてニノも。


「俺にのには一生頭が上がらないわ」

「そうですか? でもそんな事言って、また一気にスターダムにのし上がるんでしょ?」


ニノが笑いながら言う。


「そんな簡単なもんじゃねえよ」

「ふふっそうですか」


そう言ってニノはいたずらっ子みたいな顔をして笑った。





受け止める。


現在の自分の立場も仕事も地位も。


全てを受け止める。


そしてどんな非難も、中傷も全て。


その覚悟はとうにできている。


この業界に戻ってきた時からそう決意していた。









「俺もまた戻ろっかな」


ベッドで二人並んで横になっていると隣で智くんがぽつりとそうつぶやいた。


「へ?」

「芸能界」


意味が分からず聞き返す。


「嘘でしょ?」

「何か歌をやりたくなっちゃった。ダンスも」

「マジで?」


信じられなかった。
あんなに未練も何もなさそうだったのに。


「嬉しいけど、信じられない」

「芝居もね、あんなに面倒くさくて嫌だったのに
不思議と今はやってみたいって思うんだよね」

「いいじゃん、きっとファンの子は喜ぶよ」


突然のその言葉にびっくりしたけど
また智くんの歌やダンスや芝居が見られると思うだけで
やりたいと思ってもらえるだけで嬉しかった。


「ま、ファンもまだいてくれてんのかもよくわかんねえし、
ブランクもあるし、そんな甘い世界じゃないってこともわかってるけどね。
でも、やってみたいんだ」


智くんがしっかりとした口調でそう言った。


「応援する」

「んふふっ翔くん人の事応援している場合?」

「そうでした、俺も頑張んなきゃ」

「そうだよ、一緒に頑張ろ?」


そう二人で言い合って、見つめあって、そして笑いあった。
智くんと二人だったらどんなことも乗り越えていける。


「愛している」

「俺も愛してる」


ずっと好きだった。


ずっと見つめ続けてきた。


もう二度とこの手を離さない。


離したくはない。





「これから先もずっと一緒に生きていこう」


「うん、一緒にずっと生きていく」



そしてまた


そう二人で言いあって


見つめあって


笑いあって



そして



満天の星空の下。



ベッドの中で、二人だけの誓いのキスをした。







おわり