2013年に書いていた話の続きです。
今? とも、
今さら? とも、自分でも思います。
でも、続きが読みたいと言って下さった事、
そして私自身の中で完結しないままになっていたことが
ずっとずっと気になっていたのです。
4年越しの完結編です。すみません。。
リーマン翔くんとアイドル智くんのお話です。
相葉さんは約束した場所にすぐに来てくれた。
そこは智と初めて話をして
そして、初めて食事をした場所。
あの時。
あの時は、毎日智に逢いたくて必死だった。
何度も智を見かけた場所に通って、街の中でも智の姿を探していた。
でも全然会えなくて。
で、やっと会えたと思ったら、それは雑誌の中だった。
そこで初めて智が芸能人だという事を知って、愕然とした。
それでもやっぱり逢いたくて、その姿を見たくて
智の出ている出演番組を毎日のようにチェックして、
そして雑誌を買った。
智の出演しているドラマのDVDを買いそろえ
コンサートBDを買い、動画を探す毎日。
コンサートBDなんて何度見たかわからないくらい見て
そしてネットや本で智の情報を集めまくった。
だからあの雨の日。
あの場所で再び智に会う事が出来た時。
逢えるなんて夢にも思わなかったから
凄く嬉しくて思わず涙が出そうだった。
雨の中の智は儚くて綺麗だった。
儚い中にも凛とした美しさがあってそこだけ空気が違って見える。
そしてやっぱり芸能人なんだなと、そう感じてしまうほど
簡単には話しかけられないようなオーラを放っていた。
でも、このチャンスを逃す手はなかった。
ここで声をかけなければもう一生会えないかもしれないと思い
勇気を振り絞って智に近づいた。
雨で濡れている智は、よりいっそう儚く綺麗に見えた。
そしてハンカチを渡すとありがとうと言って
その綺麗な手で受け取ってくれた。
ハンカチを受け取ってくれたこと、
そして笑顔を向けたくれたことが嬉しかった。
綺麗で可愛らしい智にますます惹かれていった。
そしてその後、信じられないことに
ハンカチのお礼だと言って智から食事に誘ってくれた。
あのいつもテレビで見ていた智と
雑誌やCMで見ていた智と、
DVDが擦り切れて壊れるんじゃないかと思うくらい見ていた智と
一緒にいられるという現実に、自分自身どうにかなってしまいそうだった。
そして一緒に話をして
傘に一緒に入りながら歩いて
タクシーに乗った。
まるで夢の中にいるような気分だった。
店につくと一緒に食事をして、お互い名前を言い合って、話をした。
そしてその時に初めて相葉さんとも出会った。
もっともその時はただただ圧倒されてしまって
相葉さんとはろくに話もしなかったけど。
そしてその相葉さんがぶちゅっと智の頬にキスをした。
一瞬何が起こったのかわからず驚いていたら
その帰り際。
智からちゅっと唇にキスをされた。
信じられなかった。
でもそれは、ほんの一瞬の出来事だった。
その後、驚いている自分とは反対に智は何でもないような顔をしていたから
現実じゃないような、夢のような、そんな不思議な気分だった。
でもその時の触れた唇の余韻はいつまでもいつまでも残っていた。
そしてしばらくたってから智から連絡が来て、
また信じられない事に会えることになった。
そして一緒にお墓参りをした。
そして。
その後、なぜか自分の家に智が来るという話になった。
あの智が自分の家にくる。
トップアイドルで、テレビにも雑誌にもバンバン出ていて
あんな大きなステージでコンサートまでしている
あの智が、なぜか俺の家に来るという。
とても信じられなかったけど嬉しかった。
でも、それも一瞬だった。
あの日。
あの時。
智は何か言いたそうな顔を何度もしていた。
でも、何も言わなかった。
俺もそれに気づいていた。
でも何も言わなかった。
いや、言えなかった。
すいよせられるような眼差しに、その唇に、
もし何か言われたらと思うと
自分の抑えが効かなくなるんじゃないかと怖かった。
そして結局。
何も言えないまま智は帰ってしまった。
そしてあの時の智は何だか怒っているような感じだった。
だから自分からは連絡ができなかった。
本当はもっと逢いたかったし、話もしたかった。
でも、と。
テレビやCMなどにバンバン出ているトップアイドルである智に
自分のようなものが連絡していいのか。
ましてや、あの日の智の怒ったような視線。
それを思うとどうしても自分からは連絡できなかった。
そして智からも全く連絡はこなかった。
もう二度と逢えないかもしれない。
そう思うだけで胸が苦しかった。
仕事でも小さなミスを振り返す。
こんな事は初めてだった。
毎日。
智の事を考えて、
智の事を画面から見ていた。
そんな時にかかってきた、一本の相葉さんからの電話。
そして。
その内容。
だから、どうしても。
どうしても相葉さんと会って話がしたかった。
「忙しいのに無理言ってすみません」
「気にしないで下さい」
急なお願いにも相葉さんは嫌な顔もせずそう言ってくれた。
相葉さんだって智と負けず劣らずトップを走るアイドルだ。
それなのに。
やっぱりいいやつだなと思った。
「で、会って話っていうのは…」
相葉さんが遠慮がちに聞いてくる。
「あの…」
「……?」
「あの、智く、大野さんの事を聞かせて欲しいのです」
「え?」
そう言うと相葉さんは不思議そうな表情を浮かべた。
それもそうだろう。今の時代、ネットを使えば何でも調べられる。
ましてや芸能人である智の事だ。
誕生日からデビュー年月日、家族構成から出演番組まで
いくらでも調べようと思えば調べられた。
でも聞きたいことはそんな事ではなかった。
「智くんが色々あったって言っていましたよね?」
「……」
「……それって二宮さんの事ですか?」
「……」
その言葉に相葉さんが大きく目を見開いた。
「俺、大野さんから聞いたんです。大野さんと二宮さんの事…」
「……」
相葉さんの表情が一瞬変わったような気がした。
「二人は恋人になるはずだったと言っていました」
「……」
同じ事務所で仲が良かったという二人。
「……」
「……」
相葉さんが黙ったまま見つめる。
「俺ら…俺ら、3人は同じ事務所でした」
そして意を決したように口を開いた。
「ニノは初めて事務所に入った時から大ちゃんの事が大好きで凄く慕っていました」
そう言えばいつも尊敬する先輩のところに
智の名前をいつも書いていたというのを
どこかで読んだ気がする。
「だから俺はずっとあこがれの先輩と後輩の関係だと思っていたんですけど…
でも違ったみたいです」
「……」
「ニノは大ちゃんの事が大好きで大好きで、
毎日のように自分の思いを伝えていたらしいです。
で、ようやく気持ちが通じてっていう時に…」
「……」
そういう事か。
智が恋人になるはずだった人と言ったのは
そういう事だったのかと思う。
「大ちゃんは凄く自分の事を責めていました」
「でもそれは…」
「ニノは、仕事を終えて、大ちゃんの家に向かう途中だったんです」
「……」
その言葉に。
何も言えない。
何とも言えない気持ちになる。
「だから大ちゃんは何でこんな日に約束したんだって。
何で自分がニノの家に先に行って待っていなかったんだって、
凄く自分を責めました」
「でもそれは…」
「そう、結果論です」
「……」
「でも大ちゃんは自分が許せなくて、自分の事を責めて責めて…
食事も摂れなくなってガリガリに痩せていきました」
「……」
やっぱり何も言えない。
何とも言えない気持ちになる。
「でも仕事は待ってはくれないし、ファンの子達もいる。
だから毎日、まるで忘れるように色んな人に声かけては
酔いつぶれるまで飲んでいました」
その言葉に、
相葉さんに初めて会った時の言動を思い出した。