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演題:プライマリ・ケア医の生涯教育と高齢者診療の質向上
講師:医療福祉生協連家庭医療学開発センター長
千葉大学専門職連携教育センター
藤沼 康樹 先生
日時:平成27年10月9日 19:00~18:30
場所:医師会3F講堂
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今回の医師会勉強会は、プライマリケアの分野では高名な藤沼 康樹先生をお呼びして、プライマリケア医とその生涯教育についての講演を拝聴しました。なお、家庭医とは地域基盤型プライマリ・ケア担当総合診療医を指すとのことです。
これからさらに進む超高齢社会では、家庭医が診る患者の多くは高齢者です。高齢者は複数の疾患を抱えていることが当たり前であり、その複数の疾患を総合的に診ることができれば、医療の質や安全、また、医療経済的にも貢献度は高いはずです。一方で、家庭医には、地域や技術の維持のみならず、人間としての成長、モチベーションの維持、システムの継続的な改善、変化への対応力なども求められてます。
家庭医はいかにヤブ化しやすいか(先生の話を聞く限り日本の開業医の多くはヤブ医者と思いましたが・・)、そのためには、生涯にわたる研鑚(生涯教育)が不可欠であるという、私にとっては耳の痛い講演でもありました。
因みに、生涯教育が必要と言われるなかで、医師会勉強会への出席者が少なかったのは残念なことです。
藤沼 康樹 先生のプロフィール
医療福祉生協連家庭医療学開発センター センター長
1956年東京都板橋区生まれ。1983年新潟大学医学部卒業。1993年生協浮間診療所所長。2004年より現在まで医療福祉生協連家庭医療学開発センター長。2011年公益信託武見記念生存科学研究基金「武見奨励賞」受賞。その他、東京医科歯科大学臨床教授、医学書院「JIM」編集委員、日本プライマリケア連合学会理事など。
以下、講義メモ
家庭医のタスク
・診療所における非選択的なプライマリ・ケア外来診療
・継続的なケアの提供
・予防医療・ヘルスプロモーションの提供
・各種ケアのコーディネーション
・家族の相談役
・地域の健康問題へのアプローチ
・在宅医療の提供
わが国人口の推移
2060年には、100歳以上の人口が63万 (現在は5万程度)
都市部(埼玉、千葉、神奈川)、今後急速に高齢化が進む
(山形県は最も緩徐)
若年・中年も含め独居世帯が増える(親子世帯の減少)
ここ20年間で高齢者の生活機能は確実に向上、とくに女性での増加が著しい
一人当たりの医療費は、年齢とともに高くなる
高齢者救急診療の難しさ
主訴より経過
既往歴から考える
多剤投薬 Polypharmacy
外傷の有無
高齢者医療は多次元的アプローチが必要
プライマリ・ケアの分断
糖尿病・高血圧症でA内科医院にて経口血糖降下剤処方
心房細動でB循環器内科にて抗凝固薬処方
変形性膝関節症でC整形外科にてNSAIDS処方および理学療法
皮脂欠乏性湿疹でD皮フ科医院で軟膏処方
白内障でE眼科医院で保存的治療
もの忘れがひどいことが気になり、F病院神経内科受診予定
対策としての総合診療医
頻度の高い健康問題に対応し、相談に乗り、適切な問題解決、あるいは安定化をはかることができ、必要な場合は専門家に紹介することができる
頻度の高い慢性疾患のケアができる
ヤブ化を防ぐ
ヤブ化の兆候
・これまであまり軽軽したことのない症状や問題への対応を嫌がるようになり、すぐ紹介するようになる
・経過が一般的パターンから外れるとすぐ紹介するようになる
・手慣れた問題ですら、そのスタンダードから外れているのに気づかない
・フリーアクセスなので、来なくなった患者が、なおったのか、こじれて他にいったのか、嫌われたのかが、さっぱり分からないので、自分の診療に根拠なく自信をもつようになる
・医学情報の出処はMR経由が多くなり、やたら新薬を使うようになる
・いかに患者が入院しないですむような粘り腰がなくなって、病院に夜間休日は頼り切りになってしまう⇒病院医師に実は嫌われているのを知らない
生涯教育
医療チームが提供している「医療」の質を向上させることで、患者や地域の健康に貢献すること (業績のためではない!)
生涯学習の方法論を身につけないとヤブ化する
ヤブ化を防ぐために
提言1:自分にフィットする学習スタイルをみにつけよう
提言2:自分の臨床経験を過大評価しない
提言3:いつの時代でも文献を読むことは大切
提言4:ひとりぼっちにならないようにしよう
提言5:ICTに親しもう
提言6:臨床スキルを維持するために病院の仕事を継続的にやってみよう
提言7:教えることは学ぶこと