鶴岡地区医師会だより

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【山形】地域医療連携室が躍動するも、課題は「医師の意識改革」‐三原一郎・鶴岡地区医師会理事に聞く◆Vol.2

2019-12-16 10:46:34 | 日記
##前文
山形県鶴岡地区では、比較的スムーズに地域包括ケアシステムが構築できたという。その背景には10年前から地域の多職種で取り組んできた各種プロジェクトの積み重ねがある。地域医療連携室の取り組みやこれまでのプロジェクトを振り返るとともに、今後の課題について、一般社団法人鶴岡地区医師会理事の三原一郎氏に話を聞いた。(2019年10月7日インタビュー、計3回連載の2回目)


##本文
――鶴岡地区における地域包括ケアシステムの構築はどのくらい進んでいますか。

全国的にみればかなり進んでいる方だと思います。鶴岡地区では以前から医療情報ネットワーク「Net4U」や緩和ケア普及のための「庄内プロジェクト」、地域連携パスの運用など、さまざまな取り組みを行ってきました。その延長線上に地域包括ケアシステムがあるので、うまく構築が進んだのだと思います。

地域包括ケアシステムに関する具体的な取り組みを担っているのは、鶴岡地区医師会地域医療連携室「ほたる」です。10年程前から地域の課題に網羅的に取り組んでおり、システム的にも内容的にも先を行っていると思っています。「ほたる」の職員は3人で、1人は社会福祉士で2人は事務員です。予算の関係で余裕のある人員ではありませんが、月に数回のペースで市民や多職種向けのイベントなどを企画するなど数多くの活動を行っています。

例えば、年に2回「医療と介護の連携研修会」を実施しています。毎回200人を超える多職種が集まり、さまざまなテーマで事例報告、講義、グループワークなどを行っています。こうして10年以上かけて醸成した「顔の見える関係」が医療と介護の間にできていて、今や好き勝手にいろんなことを言える雰囲気があるので、参加してみると面白いと感じます。他にも、歯科や薬剤師、訪問看護師、ケアマネジャーなど多職種での意見交換会をやったり、難しい話は一切せずにただ酒を飲むという、飲みニケーションの場(名称:ふらっと会)を企画したりしています。

ただ、こういった場への医師の参加が少ないのが課題です。200人集まる連携研修会でも、せいぜい医師は10人くらいしか出席しません。どの地域でも同じような状況と聞きますが、医師はこのような多職種の会にはなかなか参加してくれません。ません。グループワークも嫌いな先生が多い印象ですね。

――では次に緩和ケア普及のための「庄内プロジェクト」について概要を教えてください。

庄内プロジェクトは、がんの末期患者を在宅で看取ることを主たる目的として2008年から3年間実施されました。当初、4つの柱(ワーキンググループ)を立ち上げました。(1)医療者教育(緩和ケアの技術・知識の向上)、(2)地域連携(地域緩和ケアのコーディネーション・多職種連携の促進)、(3)市民啓発(がん患者・家族・住民への情報提供)、(4)専門緩和ケア(サポートセンター緩和ケア専門家による診療・ケアの提供)――。これらの柱に応じた研究会や症例検討会を定期的に実施しました。

プロジェクト以前は、鶴岡市民のほとんどが荘内病院でがん治療を受け、最後は荘内病院で亡くなっていました。つまり「在宅で看取る」という文化は、ほとんどなかったと言ってもよいと思います。それ故に「緩和ケアが普及していない地域」として選ばれたという経緯があります。プロジェクト実施後は、在宅看取りは倍増しましたし、その質も大幅に向上したと思います。その意味で、庄内プロジェクトは大成功したと評価しています。

末期がん患者さんを在宅で看るためには、在宅主治医のみならず、訪問看護師、薬剤師、療法士、ケアマネジャーなど多職種と、さらには病院の緩和ケアチームとの連携が不可欠です。当地域では、多職種チームによる在宅医療を実践してきており、この活動の積み重ねが現在の地域包括ケアシステムの構築につながっていると思います。

当プロジェクトの基本的なコンセプトは「十分な緩和ケアのもとでの在宅看取りの普及」ですが、そのためには診療所の医師(特に内科)に末期がん患者さんを受け入れもらう必要があります。しかし、がん末期の患者を受け入れてくれている医療機関は限られており、10施設もないぐらいです。もう少し緩和ケアに参入できる医師を増やしたいのですが、在宅での看取りというのは、どうしても医師に肉体的にも身体的にも負荷がかかってしまいます。時間的にも拘束されてしまうので、あまりやりたくない気持ちは分かりますけどね。訪問看護師などの他職種やITネットワークなどでサポートをすることはもちろん、医師会としては「医師の意識改革」にも取り組んでいきたいところです。

――庄内南部地域連携パスについてもお聞かせください。

 鶴岡地区で地域連携パスを導入した最大の目的は、「地域の疾患データベース」を構築し、それを分析することでデータに基づいたより質の高い地域医療を目指すことでした。現在、大腿骨近位部骨折、脳卒中、糖尿病、心筋梗塞、5大がん、認知症のパスを運用していますが、大腿骨骨折、脳卒中、心筋梗塞については地域での発症患者を全例登録しkデータベース化しています。これは、ほとんどの患者が荘内病院に搬送されてくることで可能になりました。登録後はパス内容に沿って在宅に至るまで継続してフォローしています。このような全例登録は、他の地域ではやられていない思います。

 パスの運用でみえてくるものがたくさんあります。例えば脳卒中では、その発生率や、どのくらいの人が急性期病院で亡くなり、どのぐらいの人が回復期病院へ転院し、その後どのくらいの人が自宅や施設へ戻っているのか、発症のリスク因子や再発の頻度、…等々、地域の実状を反映したリアルなデータが把握できるのです。

脳卒中パスの究極の目標は、パスの運用によって再発を予防しや寝たきり防ぐことです。そのために血圧やADLを定期的に測定しデータを取っているのですが、残念ながらパスの運用が再発やADL低下に有用である、というデータを出すまでには至っていません。さらなるデータの蓄積で、パスの運用が再発予防に寄与できることを示すことができればと期待しています。また、ADL低下予防については地域での介護職など関りが重要になるのですが、現時点ではパスに介護職が参加していないことが課題となっています。維持期パスに介護職も参加した体制づくりが必要だと思っています。


◆三原一郎(みはら・いちろう)氏
東京慈恵会医科大学を1976年に卒業し、同大の皮膚科に入局。1979~81年にニューヨーク大学に留学し、皮膚病理学の研鑚を積む。帰国後は東京慈恵会医科大学附属病院での勤務を経て、1993年に郷里の山形県鶴岡市で三原皮膚科を開業。1996年に鶴岡地区医師会理事、同情報システム委員長に就任。その後、山形県医師会常任理事、日本医師会のIT関連の委員会委員等を経て、2012年度に鶴岡地区医師会会長に就任。現在は鶴岡地区医師会の理事を務める。

【取材・文・撮影=伝わるメディカル 田中留奈】

https://www.m3.com/news/kisokoza/712910


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