8,9日、日本医師会で開催された日本医師会医療情報システム協議会(日医協)
に参加してきました。東京はまるで鶴岡のような天候で、交通がマヒし大変だっ
たようですが、幸い、行き帰りとも、あまり遅れることもなく、順調に移動でき
たのはラッキーでした。
日医協は、毎年2月に日本医師会の主催で行われている医師会を中心とした医療
の情報(IT)化を議論・検討する場です。
ところで、日本医師会が進めている情報化の2本柱は、日レセ(ORCA)と日医認
証局です。ORCAは、ご存知のように、日本医師会が開発したオープンソースのレ
セプトソフトで、全国シェアは約15%、今や第3のブランドに成長し、現在も導
入、拡大が進んでいます。
ORCA PROJECT
http://www.orca.med.or.jp/
一方、日医認証局は、ネットワーク上で医療情報を安全にやりとりするた
めには必須のセキュリティー基盤です。具体的には、日本医師会電子認証センター
を設置するとともに、医師会員に医師資格証(ICカード)を発行し、「電子署名」
と「認証」をネットワーク上で実現します。すでにこのシステムは運用されてい
ます。具体的な利用は今後、徐々に進んでいくと思われます。
医師資格証、電子認証センターについては以下を参照下さい。
http://www.jmaca.med.or.jp/guide/qualification.html
さて、今回の日医協は、兵庫県医師会が担当で、メインテーマを「ビッグデータ?
誰のため、何のため・・ ~日医認証局利用による確かに医療情報交信を基本に~」
でした。
1日目(土曜日)は、会長から医療IT委員会への諮問である「ITを活用した地域
医療連携の実践について」をテーマに、第一部では、日医医療IT委員会からの会
長諮問に対する答申報告などがあり、
第二部は、「地域医療連携ICT化の全国的動向とその課題」というタイトルで、
全国の状況概括と6地域からの事例報告がありました。
<地域医療連携セッション>
①「地域医療再生計画」システム他全国状況概括
②事例報告
・医療と介護を繋ぐヘルスケアソーシャルネットワーク「Net4U」
鶴岡地区医師会 三原一郎氏
・「いばらき安心ネット」について
茨城県医師会副会長 松崎信夫
・絆ネット(北播磨医療連携システム)の経緯と現状
北はりま絆ネット
小野市・加東市医師会理事 坂本泰三氏
・島根県「まめネット」
広島県「HMネット」との連携も含めた紹介
松江市医師会理事 小竹原良雄氏
・医療ネットワーク岡山(「晴れやかネット」)現状と課題
川崎医療福祉大学准教授 秋山祐治氏
・高齢化社会に向けた地域医療IT化の試み
粕屋北部在宅医療・高齢者支援システム
福岡県医師会常任理事 上野道雄氏
私は、医療と介護繋ぐヘルスケア・ソーシャルネットワーク「Net4U」として、
当地区のNet4U活用の現状について講演してきました。他の5演題は、医療再生基
金を使って、県全域あるいは2次医療圏に情報ネットワーク構築しました、とい
う内容がほとんどで、運用しての成果はこれからという状況のようです。12年以
上運用され、実績を残しているるNet4Uは、他地域からみると、奇跡のシステム
なのかも知れません。
2日目(日曜日)は、ORCAセッション、事務局セッションのあと、今回のメイン
テーマである、「ビッグデータ誰のため、何のため・・」に沿った、インターナ
ショナルセッションとメインシンポジウム「クラウド・ビッグデータ時代の医療
IT化の進路」が行われました。
インターナショナルセッションでは、アイルランド、韓国、アメリカから、医療
データベースの活用状況や課題の報告がありました。
<インターナショナルセッション>
・Health Database in Iceland, past, present and future
Dr. Jon Snaedel (元アイスランド医師会会長)
・ICT and Helathcare in Korea : Present and Prospect
Dr.Dong Chun Shin(延世大学医学部予防医学教授)
・3)Big Data/Analytics and the US Healthcare systemp:
Big Opportunity, Big Responsibility
Rober Wah (アメリカ医師会次期会長)
アイルランドでは、過去の個人情報、保険医療情報、遺伝子情報を一民間企業に
集約・管理する法案が医師会はじめ多くの反対があったにも関わらず通過したそ
うです。
各国とも、日本に比べ、医療情報をデータベース化し、研究、ヘルスケア業界の
効率化・高度化、あらたなビジネスチャンスの提供などに、積極的に活用してい
るようですが、同時に個人情報漏洩、プライバシー保護などの問題も抱えている
との話でした。
最後のメインシンポジウム「クラウド・ビッグデータ時代の医療IT化の進路」で
は、行政(厚労省、経産省)、日本医療情報学会、日本医師会などから、ビッグ
データ時代に医療情報はどうあるべきかというテーマで、6名のシンポジストか
らの発言があり、ディスカッションが行われました。
<メインシンポジウム>
クラウド・ビックデータ時代の医療IT化の進路
・「医療情報化にまつわる責任論」
厚労省政策統括官付情報政策担当参事官室長補佐 中安一幸氏
・「あらたなIT戦略 「世界最先端IT国家創造宣言」について」
内閣官房情報通信技術 総合戦略室企画官 永山純弘氏
・「医療IT化における日医認証局の役割」
日医総研主任研究員 矢野一博氏
・クラウド・ビッグデータ時代の医療情報の取り扱いについて
日本医師会常任理事 石川広己氏
・データ指向時代のプライバシー、価値の再分配、差別の禁止
東京大学大学院 山本隆一氏
「ビッグデータ」という言葉は聞いたことがあるかと思いますが、明確な定義が
あるわけではなく、ネット上にあるデジタルデータすべてを指すようです。この
ようなデータは従来ゴミ(再利用不能)とみなされていたのですが、近年、この
ビッグデータを高速かつ簡単に分析できる技術が登場し、ビッグデータを活用す
れば、これまで予想できなかった新たなパターンやルールを発見できることが明
らかとなったのです。いわば、ビッグデータは「宝の山」ということです。
このような時代に、デジタル化された医療情報、健康情報をどう活用し、どう保
護していけば良いのか、そは責任は誰がとるべきか、費用負担はどうあるべきか、
個人情報保護法の改定も含め、今後、検討しなければならない課題が山積してい
るようです。シンポジスト間でビッグデータ時代に対する捉え方には温度差があり、
行政や医療情報系の人たちは、どちらかと言えば前向きに捉えていますが、
日本医師会は情報保護に力点をおいた発言をしていたように思います。
クラウド・ビッグデータ時代において、医療情報、健康情報をどう守り、どう活用
するのかが、大きな課題になっているということを学んだ会でした。
以上の講演資料は、以下の日本医師会会員向けホームページ閲覧可能です。
http://www.med.or.jp/japanese/members/info/sys/2013/web.html