続・トコモカリス無法地帯

うんざりするほど長文です。

映画感想「哭悲」2022年の大量流血映画

2023-05-27 03:31:56 | 映画の感想

GW中に近場の映画館で面白そうなプログラムで上映していました。去年に内容の惨劇具合で評判になった「哭悲」と、今年の過激な流血バイオレンス映画No.1候補にエントリーしている「オオカミ狩り」どちらも、アジア発の徹底したゴア描写が売りの映画です。それが同日に観れるプログラムでした。上映時間を調べると「哭悲」の上映終了直後に「オオカミ狩り」が始まるタイミングです。いいじゃない。はしごして4時間どっぷり大流血映画を楽しむことにしました。世間だと「ダンジョンズアンドドラゴンズ」や「スーパーマリオブラザーズ」が評判よくて、友人家族と映画をはしごするGWの過ごし方もあるでしょうが、私には愉快で楽しいファミリー向けホームドラマを一緒に楽しむ仲間が居ませんし、自分以外に血塗れ映画を4時間も喜んで観る人間に心当たりがなかったので、自分一人で観ました。

まず1本目「哭悲」
宣伝文句が「史上最も狂暴で邪悪」「内蔵を抉られる衝撃」「二度と見たくない傑作」と、なかなかに仰々しいです。でも内容に対してそれほど大きく喧伝してるわけじゃないんですね。史上最もかどうか知らないが登場人物はどいつもこいつも狂暴な殺人鬼ばかりですし、内蔵を抉る殺傷場面もありますし。それで二度と見たくない件についても同意します。観るのは1回でいいと思いました。ちなみに台湾の映画で、日本とも香港とも違う素朴さの残る街並みの中、惨劇が起こりまくる画面の雰囲気は独特な湿度の高い陰惨さがありました。
そんな映画の感想を3つのポイントから書いていきます。

 

1.ゾンビ+サイコスリラー=変態殺人鬼の集団発生

この映画はいわゆるゾンビパニック映画の亜種です。バイオハザード以降のウィルス感染した患者が凶暴化して人間を襲うタイプのゾンビ映画と同じフォーマットですが、哭悲のウィルスは人間をゾンビ化ではなく単純に凶暴化させます。食欲で襲っているわけではなく、攻撃衝動を抑えきれなくなる症状なので、知能が落ちることもなく、感染者達はそこらへんにある刃物を手にし、見事なチームワーク連携を組みながら非感染者を襲います。このウィルスは空気感染力するうえに、感染者達が凶器を振り回して見境なく他の人間を襲うので、血液感染しまくる機会にも事欠きません。
このウィルスの厄介なところは、感染から発症までが異常に早く、先程まで被害者だったのが傷口に血が入ると、わずか数秒で狂暴な殺人鬼に変貌してしまうところで、まったく時間の猶予がありません。さらに発症後には攻撃衝動や性欲が異常に促進され、理性が効かなくなるのに知性は下がらないため、感染前からやべー奴はタガが外れて手が付けられない凶暴性を発揮します。
ここまでがゾンビ的な危険度。

この映画のメイン悪役のおっさんは、パンデミックが起きる前から女主人公に粘着質な絡み方を続け、拒絶されるとブルブル震えながらブツブツ独り言で怒る、人格的に困ったおっさんです。それがウィルス感染すると、殺人レイプにいっさい躊躇しない狂暴変態おじさんにクラスチェンジしてしまいました。そして女主人公をレイプしようと執拗に追いかけてきます。
これが変態ストーカーによるサイコスリラー成分。

ゾンビよりも数段賢く、チームプレイの上手い感染者から、数秒で発症するウィルスがどんどん広まっていき、対策がまったく取れないまま状況は悪化の一途を辿ります。市街地に流れる緊急放送ではイキリ立った感染者が暴言を吐きまくり、臨時ニュースの国営放送内で大統領が護衛の兵士に惨殺されます。もはや街には正気な奴など誰もいません。

 

2.危機に立ち向かえない登場人物たち

この映画には主人公が2人います。OL勤めの女主人公「カイティン」と、その彼氏の男主人公「ジュンジョー」の2人。物語を要約すると、暴徒パニックが起きた街で狂人から逃げ回る彼女と、それを助けに向かう彼氏の話です。けれど主人公達にはあまり共感できませんでした。


女主人公は今どき珍しい、泣いて逃げ回り助けを求めるばかりの弱い女性。80年代からホラーアクション映画の女性は皆戦うヒロイン化が進み、自ら積極的に危機に立ち向かう姿を見慣れてるせいか、今作のカイティンさんは泣いてばかりで自助努力が足りない気がします。最後に1回だけ戦うけど、他はずっと泣いてばかりです。


一方で男主人公は助けに行くとは言うものの、行動がモタついてなかなか話に絡んできません。寄り道しているのか、通りすがりの狂人達にちょっかい出して、逆に殺されそうになり逃げ出したりと、本筋に影響しないような動きがちらほら見えます。彼女を助けに集団殺人鬼がウロウロしてる市街地を突破しなきゃいけないのに、武器は拾った草刈りカマ、防具は何もなしの軽装、乗り物はスクーターと、甚だ心もとない軽装備で行っちゃうんだ。それで到着した頃にはとっくに感染発症していたという、まったく頼りにならない彼氏でした。

この映画はゾンビパニックと殺人鬼スラッシャー系映画の定番演出がそこかしこに見えるのだが、特に顕著なのがうっかりミスは必ず死亡フラグに直結する点。後ろがガラ空きならば後ろから殴られて殺されるし、つま先が出過ぎていればそこを攻撃されるし、落ちた斧を放置しとくと敵が拾って後から襲ってくるんだよ。そういった小さなミスが命取りになって、味方の人員や対抗手段がみるみる減っていきます。総じて登場人物全員が迂闊な行動を取るので共感して一緒に怖がるよりも、状況判断の甘さにイラッと感じる場面のほうが多いくらいでした。ドジな人達が勝手に自滅していった側面もあります。

基本的に「立ち向かう」意志を持った登場人物がいないため、ただ怯えて泣いているだけの人達がそのまま惨殺されていくのは自己責任ではないかと思えてなりません。殺人暴徒から運良く隠れた男がいるんだけど、そいつは隠れながらただ耳を塞いで怯えるだけなんだよ。それで後から別の暴徒に見つかり引きずり出されて惨殺されるんだけど、時間的な猶予はけっこうあった筈なのです。なだれ込んで来た暴徒達が殺戮しまくったあとに乱交モードに入ったあたりから、斧なり鉄パイプなりの武器で1人づつ背後から仕留めて行くやり方もあっただろうに。ゾンビゲームの攻略はそうするもんですが、その男はしないので相応の惨たらしい死に方をしました。

ちなみに最も気持ち悪い宿敵だったレイプ殺人鬼化したサラリーマンおじさんは、女主人公から頭が無くなるまで消化器殴打をくらって死にました。ここでメインウエポンの斧を落としたので、主人公が拾っておけば後に起こる悲劇も防げたハズなのに。

 

3.最後まで救いのない物語

終盤に女主人公はウォン博士という閉鎖区域に立てこもった研究者に助けられます。ウォン博士は現状のパニック発生前からウィルスの研究を続けており、危険性を社会に発信していたのに誰も真剣に聞くことなく、悪い予測は的中してしまいました。やっと現状に立ち向かう意志を持ったキャラクターの登場です。

彼がウィルスの性質やパニックへの対策など全部まとめて説明してくれました。女主人公が発症しないのは抗体をもってるおかげらしく、それを元にワクチンを作れるかもしれません。外部に救助連絡は伝えた、もうすぐ屋上にヘリコプターが迎えにくるから脱出だ、博士と女主人公が閉鎖した研究室から出たところで早速襲撃を受けます。ストーカーおじさんをブチ殺した時に落とした斧を拾った奴がいます。またこのパターンだ。迂闊なドジが死亡フラグ。曲がり角からわずかに踏み出していたつま先を斧で叩き切られて博士がダウンします。全身防毒服で覆っていても、刃物で切られたら意味ないんだ。博士ウィルス感染。そこにすっかり感染しきった男主人公も到着し、役に立つ味方はどこにもいません。いや、博士は死ぬ直前まで必死に正気を保っていた。もう逃げるヒロインしか残っていませんが、彼女がヘリの待つ屋上へのドアを通って姿を消した直後に機関銃の銃声が鳴ったので、彼女も死んだようです。

 

それではエンディング。スタッフロールを眺めながら内容を思い出すと、この「哭悲」ではゾンビ映画からもう一歩悪趣味度合いを進めて、暴徒が一般人を殺すだけではなく、残虐にいたぶり拷問強姦の果てに殺すという、胸糞悪い要素を増やしているので、事前情報を仕入れた時点では若干気後れもあり、鑑賞には覚悟を決めて観ました。しかし実際の場面は画面外での動きや音での演出が主であり、宣伝で煽るほどの直接的な残虐シーンは多くありません。流血量は半端なく多いし、一部はもろにグッサリ刺さる場面もあるけど、それらが意外と抵抗なく見れたのは、被害者達に対してぜんぜん共感できなかったのが大きい理由です。ひどい目に遭ってるけど可哀想とか助かって欲しいとかちっとも思えず、話の通じない狂人集団相手なんだから、隙あらば自分から殺しに行く積極性がないと敵の数ばかりが増えてジリ貧です。今まで観てきたゾンビ映画では、こんなに立ち向かわない人達は居なかったので、哭悲では誰にも共感できず応援する気にもならず、半分過ぎたころにはすっかり感覚が麻痺して、流血殺傷シーンに慣れてしまいました。だから宣伝文句の「二度と見たくない傑作」は半分該当します。二度見る楽しみを見い出せませんでした。誰視点で見ればいいの?カイティン?私はああいう泣いてばかりの女性は嫌いです。

2022年の最大流血量映画だったらしい「哭悲」を観終わりました。それで約10分後から2023年の最大流血量映画候補の「オオカミ狩り」が始まります。次の映画ではドジな死亡フラグは控えめでお願いしたいところです。登場人物の皆さんは危険と真剣に向き合ってください。真面目に抵抗してください。



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