健康診断「胃カメラ・内視鏡検査」でヒドい目に遭った人たちの証言
腸のなかが血だらけ
「大腸がん検査で、こんなヒドい目に遭うとは思ってもいませんでした。
これまでも病院の勧めるままに検査を受けてきました。その検査には腸がボロボロになりかねない危険があったんです」
飲んでも効かない「サプリ」一覧
こう憤るのは、渡辺直幸さん(仮名、68歳)だ。
彼の身に悲劇が起きたのは、半年前のこと。自治体が主催する健康診断で大腸の検査を受けたのがきっかけだった。
「大腸がん検診を受けるのは初めてではありません。毎年のように便に出血がないかを調べる便潜血検査をしてきました。
ところが、今回の検査で初めて便に血が混じっていた。そこで『陽性』の判断が下され、内視鏡検査を勧められました。
自分は大腸がんなんじゃないか。そう思うと不安に苛まれ、すぐに大腸内視鏡の精密検査を受けることに決めました。
検査が始まると肛門からスコープを入れられ、腸がグイグイ引き伸ばされる。腸をねじ回される痛みで、脂汗が出ました」
検査では腸内にポリープが見つかり、その場で切り取られた。ところが翌日、事態は急変する。
「検査の後に、医者からは消化に負担のかからないおかゆなら摂ってもいいと言われました。そこで検査の翌日はおかゆを食べていたんです。ところがその日、ベッドに入ってから強烈な腹痛に襲われました。時間が経つにつれ痛みは増していく。これ以上は我慢できないと、救急車を呼びました。
がん検査を受けた病院とは別の総合病院に運び込まれ、すぐに緊急手術が行われました。当直医が開腹して腸内を見たところ、内視鏡で腸管が傷つけられていたんです。ポリープを切除した箇所に1cmの穴が開いて便が腹腔内に漏れ、腹膜炎を起こしていました。
すぐに穴が開いていた箇所を局所切除して、縫合処置が取られました。退院できたのは、それから1ヵ月後です」
内視鏡検査を受けたことで散々な目に遭った渡辺さんだったが、切り取ったポリープを調べたところ、良性の判定。結果的には、内視鏡を入れる必要はなかったのだ。
大腸がんは女性のがん死亡原因の1位、男性の3位。それだけに内視鏡検査を受ける人も多い。だが、日本では検査自体が過剰に行われている。
アメリカの消化器学会は、家族に大腸がんの病歴を持つ人がいないなどがんのリスクが低い人は、一度大腸がんの内視鏡検査で陰性と出たならば、その後10年は内視鏡検査をくり返してはいけないと強調している。これは良性のポリープを切除するなど、過剰な医療で起きる事故を防ぐためだ。
必要以上の検査を行えば悲惨な事故が起きる可能性は高まる。だが、医師はその危険について伝えようとはしない。
「内視鏡を含めた人間ドックや健康診断は、受ける側の覚悟も必要なんです。ところが、現場では『まずは検査』という結論ありきで、流れ作業のように検診が行われている。どの検査にどんなリスクがあるのか。その検査はどの程度の頻度で受けるべきなのか。患者さんには、十分な説明はなされてないのです」(亀田ファミリークリニック館山の岡田唯男院長)
ポリープを調べるはずが、新たな病気を呼び込む。内視鏡検査のリスクを甘く見てはいけない。
これまでも病院の勧めるままに検査を受けてきました。その検査には腸がボロボロになりかねない危険があったんです」
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こう憤るのは、渡辺直幸さん(仮名、68歳)だ。
彼の身に悲劇が起きたのは、半年前のこと。自治体が主催する健康診断で大腸の検査を受けたのがきっかけだった。
「大腸がん検診を受けるのは初めてではありません。毎年のように便に出血がないかを調べる便潜血検査をしてきました。
ところが、今回の検査で初めて便に血が混じっていた。そこで『陽性』の判断が下され、内視鏡検査を勧められました。
自分は大腸がんなんじゃないか。そう思うと不安に苛まれ、すぐに大腸内視鏡の精密検査を受けることに決めました。
検査が始まると肛門からスコープを入れられ、腸がグイグイ引き伸ばされる。腸をねじ回される痛みで、脂汗が出ました」
検査では腸内にポリープが見つかり、その場で切り取られた。ところが翌日、事態は急変する。
「検査の後に、医者からは消化に負担のかからないおかゆなら摂ってもいいと言われました。そこで検査の翌日はおかゆを食べていたんです。ところがその日、ベッドに入ってから強烈な腹痛に襲われました。時間が経つにつれ痛みは増していく。これ以上は我慢できないと、救急車を呼びました。
がん検査を受けた病院とは別の総合病院に運び込まれ、すぐに緊急手術が行われました。当直医が開腹して腸内を見たところ、内視鏡で腸管が傷つけられていたんです。ポリープを切除した箇所に1cmの穴が開いて便が腹腔内に漏れ、腹膜炎を起こしていました。
すぐに穴が開いていた箇所を局所切除して、縫合処置が取られました。退院できたのは、それから1ヵ月後です」
内視鏡検査を受けたことで散々な目に遭った渡辺さんだったが、切り取ったポリープを調べたところ、良性の判定。結果的には、内視鏡を入れる必要はなかったのだ。
大腸がんは女性のがん死亡原因の1位、男性の3位。それだけに内視鏡検査を受ける人も多い。だが、日本では検査自体が過剰に行われている。
アメリカの消化器学会は、家族に大腸がんの病歴を持つ人がいないなどがんのリスクが低い人は、一度大腸がんの内視鏡検査で陰性と出たならば、その後10年は内視鏡検査をくり返してはいけないと強調している。これは良性のポリープを切除するなど、過剰な医療で起きる事故を防ぐためだ。
必要以上の検査を行えば悲惨な事故が起きる可能性は高まる。だが、医師はその危険について伝えようとはしない。
「内視鏡を含めた人間ドックや健康診断は、受ける側の覚悟も必要なんです。ところが、現場では『まずは検査』という結論ありきで、流れ作業のように検診が行われている。どの検査にどんなリスクがあるのか。その検査はどの程度の頻度で受けるべきなのか。患者さんには、十分な説明はなされてないのです」(亀田ファミリークリニック館山の岡田唯男院長)
ポリープを調べるはずが、新たな病気を呼び込む。内視鏡検査のリスクを甘く見てはいけない。
胃カメラを飲んで、調子が悪くなった
胃がん検査といえば、まず思い浮かべるのはバリウムを飲んでのX線検査。だが、最近では口や鼻から管を通して胃の状態を調べる胃カメラ検査がどんどん普及している。
広く行われているのだから、安全性は抜群。もしそう考えているのならば、残念ながらそれは幻想に過ぎない。
胃カメラを飲んだせいで調子を崩し、日常生活が送れなくなる。神田修二さん(仮名、63)も、胃カメラ検査の「被害者」のひとりだ。
「あれは1年前のことです。毎年の習慣にしている健康診断を受けた際、胃がんの一次検査であるX線で影のようなものが見つかり、ひっかかりました。もし深刻な病気だったら、すぐに治療をしなくてはと不安がよぎり、より詳しく調べるために胃カメラを飲むことにしたのです。
胃カメラは、まず飲み込むこと自体に苦痛を伴います。口から管を入れようとしても、『オェッ』とえずいてしまう。カメラを入れる前にゼリー状の麻酔を5分ほど、喉に留めておくのですが、それでも嘔吐反射が出てしまいました。何度かチャレンジした結果、ようやく食道に管を入れることができたんです。
検査中も、カメラが胃の中でグルグルと動きまわり、不快そのもの。さらには検査を終えてから、どんどん調子が悪くなりました。
異物を胃の中に入れたことで体が拒否反応を示したのか、検査を終えて帰宅してからもキリキリと胃が痛むんです。やたらと胃がムカムカして、3日間は食事も満足に摂れませんでした。
結局、検査の結果は『異常なし』でした。検査結果自体には安心したのですが、胃カメラ検査で余計なおカネがかかっただけではなく、体調まで悪くなった。これでは踏んだり蹴ったりです」
胃カメラ検査のリスクとしてなにより恐ろしいのが感染症だ。都内の総合病院に勤めるベテラン看護師の話。
「大きな声では言えませんが、ウチの病院でも胃カメラ検査のせいで感染症にかかる患者さんは多いんです。
胃カメラ検査を行う際、日本でも洗浄・消毒のガイドラインが設けられています。ところが、現場では機材の管理もなおざりで、使い回しのようなことも行われている。
医療現場では、一日に数百人の患者さんが来ます。とてもじゃないけれど、対応しきれないんです。胃カメラの消毒液は高価なので、交換を渋る病院も多い。そのせいで胃カメラを飲んでピロリ菌、B型肝炎ウイルス、緑膿菌などの感染症にかかり、体調不良を起こす患者さんがいます。
先月も、胃カメラ検診を受けた70代の女性が血便と激しい下痢、それに伴う38度以上の発熱を訴えてきました。診断結果は、感染性の胃腸炎。直前にしていた胃カメラ検査が原因でした」
たしかに胃カメラ検査はがんの発見率も高い。それだけに多くの医師が「胃カメラによって救われている患者は大勢いる。わずかなリスクを恐れて検査を受けないのはナンセンスだ」と主張している。だが、もし自分や家族がそのわずかなリスクにあたってしまったら。「運が悪かった」と素直に受け入れられるものだろうか。
新潟大学名誉教授の岡田正彦医師はこう警鐘を鳴らす。
「胃カメラ検査も、やりすぎには反対です。年齢を重ねれば重ねるほど、検査にも体力を要するようになるもの。検査をくり返せばダメージも蓄積するし、後の生活に与える影響も大きくなります。目の前の検査が本当に必要なのか、きちんと見極めることが重要です」
がん早期発見のための検査を受けたことで死期が早まるなど、皮肉どころの話ではない。
『週刊現代』2020年1月25日号より
広く行われているのだから、安全性は抜群。もしそう考えているのならば、残念ながらそれは幻想に過ぎない。
胃カメラを飲んだせいで調子を崩し、日常生活が送れなくなる。神田修二さん(仮名、63)も、胃カメラ検査の「被害者」のひとりだ。
「あれは1年前のことです。毎年の習慣にしている健康診断を受けた際、胃がんの一次検査であるX線で影のようなものが見つかり、ひっかかりました。もし深刻な病気だったら、すぐに治療をしなくてはと不安がよぎり、より詳しく調べるために胃カメラを飲むことにしたのです。
胃カメラは、まず飲み込むこと自体に苦痛を伴います。口から管を入れようとしても、『オェッ』とえずいてしまう。カメラを入れる前にゼリー状の麻酔を5分ほど、喉に留めておくのですが、それでも嘔吐反射が出てしまいました。何度かチャレンジした結果、ようやく食道に管を入れることができたんです。
検査中も、カメラが胃の中でグルグルと動きまわり、不快そのもの。さらには検査を終えてから、どんどん調子が悪くなりました。
異物を胃の中に入れたことで体が拒否反応を示したのか、検査を終えて帰宅してからもキリキリと胃が痛むんです。やたらと胃がムカムカして、3日間は食事も満足に摂れませんでした。
結局、検査の結果は『異常なし』でした。検査結果自体には安心したのですが、胃カメラ検査で余計なおカネがかかっただけではなく、体調まで悪くなった。これでは踏んだり蹴ったりです」
胃カメラ検査のリスクとしてなにより恐ろしいのが感染症だ。都内の総合病院に勤めるベテラン看護師の話。
「大きな声では言えませんが、ウチの病院でも胃カメラ検査のせいで感染症にかかる患者さんは多いんです。
胃カメラ検査を行う際、日本でも洗浄・消毒のガイドラインが設けられています。ところが、現場では機材の管理もなおざりで、使い回しのようなことも行われている。
医療現場では、一日に数百人の患者さんが来ます。とてもじゃないけれど、対応しきれないんです。胃カメラの消毒液は高価なので、交換を渋る病院も多い。そのせいで胃カメラを飲んでピロリ菌、B型肝炎ウイルス、緑膿菌などの感染症にかかり、体調不良を起こす患者さんがいます。
先月も、胃カメラ検診を受けた70代の女性が血便と激しい下痢、それに伴う38度以上の発熱を訴えてきました。診断結果は、感染性の胃腸炎。直前にしていた胃カメラ検査が原因でした」
たしかに胃カメラ検査はがんの発見率も高い。それだけに多くの医師が「胃カメラによって救われている患者は大勢いる。わずかなリスクを恐れて検査を受けないのはナンセンスだ」と主張している。だが、もし自分や家族がそのわずかなリスクにあたってしまったら。「運が悪かった」と素直に受け入れられるものだろうか。
新潟大学名誉教授の岡田正彦医師はこう警鐘を鳴らす。
「胃カメラ検査も、やりすぎには反対です。年齢を重ねれば重ねるほど、検査にも体力を要するようになるもの。検査をくり返せばダメージも蓄積するし、後の生活に与える影響も大きくなります。目の前の検査が本当に必要なのか、きちんと見極めることが重要です」
がん早期発見のための検査を受けたことで死期が早まるなど、皮肉どころの話ではない。
『週刊現代』2020年1月25日号より