サントリー美術館で開催中の『没後100年 宮川香山』を観た。
明治から大正時代にかけて、輸出用陶器の制作で欧米諸国で絶賛を浴びた陶芸家である。
京都の眞葛ヶ原の陶工の家に生まれ、万延元年(1860年)に横浜に。当時、文明開花の町として時代の先端の技術や情報や人が集まっていた横浜で、「高浮彫」と呼ばれる新技法を創出。日本陶器の概念を覆すようなダイナミックでしかも精緻を極めた作品は、欧米諸国で絶賛を浴び、フィラデルフィアやパリでの万国博覧会などで受賞を重ね、その作品は、日本国内よりも海外に多く残っていたという。
横浜では、野毛山に窯を築き、現在の南区庚台で本格的に陶磁器の制作を開始。作業場は千坪もの広さがあったという!(南区庚台は、京急黄金町近く。こんな近くに『眞葛焼』の初めの地があったのも知らなかったことだ)。
明治時代前期の「高浮彫」作品は、陶器の花瓶や器などの側面に、蟹や鷲、鷹、鶏、猫、鼠、などの動物や、桜、蓮、葡萄などのあらゆる植物が、今にも動き出しそうに巻きついている。
羽の一枚一枚の重なりや色、嘴の質感、猫の口の中の小さな歯や舌、鋭い眼の光や、嘴にくわえた小さな獲物、鋭いかぎ爪、蟹の甲羅の細かい柄と艶や赤い爪先。。。。怖いくらいに迫力がある。
白い鶏の羽は柔らかくふっくらとして、その感触が伝わるようだ。
宗達の『風神雷神図』をイメージする作品では、抱えている袋の口を開いて中を見せているのも面白くびっくり!袋の中には鬼がいる!
日本の陶器の『わびさび』はまったくなし!自由で痛快、大胆で、かつ繊細!好きだな~。
構図は大胆でおよそ日本の陶器のイメージからはかけ離れているが、その一方、(なんというのか分からないけど)、口や底の縁取り(?)には細かく繊細な日本の伝統的な図柄(正倉院柄みたいな)があしらわれていて、全体としては決してキッチュでなくて優美だ。
後期の作品では、一転、中国清朝の磁器にならった青磁、窯変、など、釉薬と釉下彩の作品に取り組み、陶器から磁器に切り替わる。
磁器作品は、滑らかで優美な色合いの花瓶や香炉や鉢が、瑞々しく静謐な美しさを湛えている。
同じ人が作ったとは思えないこの違い!なのだが、うっすらと盛り上がって描かれている菊や鳥を見ると、やっぱり高浮彫の底力を感じる。
この釉薬の研究のメモが展示されているが、そこには、何をどのくらい混ぜるとどうなる。。ということが細かく克明にスミで書き込まれているのだが、それを見ているだけで、求めるものをその通りに表現することの止むなき探究心、情熱が突き刺さってくる。
同時に、出展されている140点あまりの作品のほとんどが、田邊哲人さんという個人のコレクションであることにも感動。
50年にわたり世界中から宮川香山の作品を探し出し、研究を続けてきたというその情熱にも衝撃を受けたのだ。
素晴らしい才能は努力と情熱に裏付けされてこそなのだ!と(私は特別なにかができるワケじゃないけど)、力をもらった気分でありました。
”写真を撮っていいコーナー”があって、少しだけ写真撮りました。
あの迫力は、実物を見てこそ!であるよ。
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