これは、「東京通信工業株式会社設立趣意書」の冒頭にある「会社設立の目的」の一文です。
正しくは「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」です。
私は製造業に長く勤務していたせいか、この文章はいつ読んでも感動します。
もちろん実際の工場はどこも自由闊達で愉快とはいえません。
ただし理想があると無いでは、天と地の差があると思います。
また、この趣意書の「経営方針」の中には、「極力製品の選択に努め、技術上の困難はむしろこれを歓迎・・・(以下略)」とも記されています。
「技術上の困難」こそ付加価値の母体であり、将来の利益の源泉です。
そして、困難を乗り越えるために必要なものは人材と時間です。
まず、優秀な人材(技術者)はなくてはならない経営資源です。ただし、能力の高い技術者をただ集めただけでは上手くいきません。技術者間の役割分担と協力、情報の共有が必要です。
また、新しい技術の誕生には時間もかかります。基本的なアイデアが実験と試作で検証され、品質基準をクリアし、現実的なコストで量産できるようになるまでには、少なくとも数年から十数年を要するのが普通です。
優秀な人材と長い時間を確保する雇用システムは、必然的に終身雇用になります。日本の大手メーカが終身雇用を維持していることを見ても明らかです。
さて、ご存知の方も多いと思いますが、東京通信工業株式会とは現在のソニーです。
ソニーは、2012年度早期退職制度などを活用し国内外で約1万人削減しました。今年も5工場を持つ製造子会社で大規模な人員削減が予定されています。
現在のソニーについては色々な見方や意見があります。私は「東京通信工業株式会社設立趣意書」の中の次の一文が守られなかったことが原因だったのではと思っています。
「経営規模としては、むしろ小なるを望み、大経営企業の大経営なるがために進み得ざる分野に、技術の進路と経営活動を期する」
(人材育成社)