大企業にお勤めの方は、この4月、めでたく昇給されたことと思います(50歳以下という前提ですが)。私もサラリーマン時代、4月に給料が上がるのが楽しみでした。その一方、巷では「昇給があるのは大企業だけで、それも企業の儲けからすればほんの微々たるもの」という声も聞こえてきます。
たしかに、「企業がため込んだ儲け」というイメージのある内部留保は、トヨタが16兆円、三菱UFJフィナンシャル・グループが10兆円、NTTが8兆円、ホンダが7兆円と驚くほどの金額になっています。
今年の1月、麻生副総理は、生命保険業界の集まりで「まだお金をためたいなんて、単なる守銭奴に過ぎない。内部留保は昨年9月までの1年で304兆円から328兆円に増えた。その金を使って、何をするかを考えるのが当たり前だ。」と発言したことがありました。
この「守銭奴」発言に拍手喝采をした人も多くいましたが、内部留保について誤解をしている、あるいは誤解を与える発言だと非難する声もありました。
企業の内部留保とは、当期純利益から配当や役員賞与など社外に流出する分を除いた額を表します。 貸借対照表の純資産の部にある利益剰余金や資本準備金などです。
この剰余金や準備金という名前(勘定科目)がいかにも「お金=キャッシュ」のように聞こえるので、あたかも会社の金庫に札束や金塊がためこまれている印象を与えます。
会計や簿記を少しでも習ったことのある人は、すぐにそれが間違いであることが分かるはずです。利益=キャッシュではないからです。
内部留保は、企業が持つ様々な資産に形を変えて企業に存在しています。資産の中でも建物や機械設備などは、これから利益というタマゴを生むためのニワトリみたいなものです。ニワトリをさばいて現金化すれば、給料を上げたり雇用を増やしたりすることは可能です。しかし、来期以降の利益が無くなってしまう恐れがあります。企業のトップや経済評論家などはこの点を指摘して麻生発言を非難していました。
では、すべての内部留保が生産設備などになっているかというと、そうではありません。現金(キャッシュ)のままで存在している部分もあります。それは貸借対照表の「現金及び預金」または、キャッシュフロー計算書の「現金および同等物の期末残高」に記載されています(キャッシュフロー計算書では、預入期間が3ヶ月を超える定期預金は除外するので、両者は一致しません。)
このキャッシュを(運転資金を確保した後)、昇給や雇用に使えば個人消費にプラスの影響を与え景気回復につながるかもしれません。麻生副総理はそのつもりで先の発言をしたのでしょう。内部留保という言葉を使わなければ良かったのだと思います。
しかし、賃金には不可逆性という性質があります。一度上げたら下げにくいのです。また、保有しているキャッシュは新たな次の一手に使うべきという考え方もあります。余裕のあるときこそ企業買収や思い切った投資など大胆な手を打つ機会だからです。
こうして企業の経営者は、キャッシュという持ち札を使ってどのような手を打つのか、非常に悩ましい決断を迫られるわけです。
そんなときに「守銭奴」と言われてさぞ戸惑ったことでしょう。
あなたが大企業の経営者だったらどうしますか?
(人材育成社)