最近、機械翻訳の精度が上がってきています。無料で使えるGoogle翻訳でもかなり「通じる」レベルになっています。もちろん、そのまま使えるところまでには達していませんが、急速に進化していることは確かです。
コンピュータが日本語を英語に翻訳する際、大きな障害となっているのは曖昧さでしょう。日本語は主語を省いたり、曖昧な表現をしたりしても通じる言語です。むしろ、はっきりとした主語述語やストレートな表現を「美しくない」とすら思わせてしまうことがあります。
しかし、すべての日本語がそうした「美しさ」を必要としているわけではありません。私たちが日常生活や仕事で使う日本語は、言うまでもなく、美しさよりも実用的であることが求められます。
産業日本語(Technical Japanese)とは「産業・技術情報を人に理解しやすく、かつ、コンピュータ(機械)にも処理しやすく表現するための日本語」であり、まさに実用的な日本語です。産業日本語が具体的にどのようなものかは、産業日本語研究会のホームページ※を参照していただくとして、どのように使われているかを紹介します。
真っ先に挙げられるのは、マニュアルです。たとえば、機械の操作マニュアルに記載された文章は、誰が読んでもただ1つの解釈しかできないようにしなければなりません。複数の解釈ができてしまっては、深刻なトラブルが生じてしまいます。
産業日本語は簡潔で明瞭な文章ですから、外国語に翻訳をすることも容易です。品質の高い翻訳文を低コストで作成することができます。産業日本語の普及とコンピュータによる機械翻訳の進化によって、今後ますます言葉の壁が低くなっていくことでしょう。
ただし、すべての日本語が産業日本語に影響されて変わっていくわけではありません。
日本語が持つ曖昧な言葉使いや遠回しな表現は、日本の文化に深く根差しています。文化というものが、一言では表現できない曖昧さや複雑さを含んでいる概念だとすれば、日本語はまさに文化と呼ぶにふさわしい存在だと思います。
今ではすっかりメールに取って代わられましたが、若い頃友人からもらった手紙の文には、友人の個性が強く反映されていました。封筒を開け、便せんを手に取ったときに目に入ってくる文がどんなに曖昧であっても「言いたいこと」が伝わってきました。
産業日本語も、手紙に書かれた日本語も、同じ日本語です。
日本語とはなんと豊かな言葉なのでしょう!
※Technical Japanese Association(産業日本語研究会)