「相談があるんですが、実は私、ブラックに入社してしまったみたいなんです。約束していたとおりに休憩が取れないんです。この会社ブラックですよね。辞めた方がいいですよね?」
これは昨日・一昨日と担当させていただいた公開型の新入社員研修の初日が終了した後に、ある受講者から相談された内容です。
この新入社員(女性)は、研修中は明るい表情で非常に熱心に受講していましたし、周囲に対してはリーダーシップを発揮してくれていたのです。ところが、研修終了後に一転、心配そうな表情でやってきたので、研修中とのギャップに私も一瞬びっくりしました。
聞けば、4月2日に入社して1週間、配属先では新入社員は彼女1人だけだそうで、まず周囲に相談できる人が誰もいないとのことです。そして、労働条件が書かれた紙には、確かに「休憩時間は〇時から〇時までの45分間。ただし、業務の都合により変更される可能性はあり」と書いてあります。
ところが、実際に入社した後はそれとは違う状況のため、「ブラックに違いない。すぐに辞めた方がいいですよね」と繰り返し訴えてきたのです。
ブラック企業に関しては報道も盛んにされていますし、大学でも就職に際して「ブラック企業には注意するように」と数年ほど前から伝えています。
そのせいもあるのか、彼女には「ブラック」という言葉が強烈にインプットされてしまっているようでした。
では実際のところ、ブラック企業とはどのような企業のことを言うのでしょうか。国(厚生労働省)は「ブラック企業」の定義はしていないようですが、一般的には極端な長時間労働や厳しすぎるノルマを課す、賃金の不払い、ハラスメントが常態化しているなどの企業のことを言うようです。
もちろん、このような企業は非常に問題があるわけですから、入社した会社が同じような状態だったらとても困ってしまいます。実際にそのような企業は厚労省から摘発もされています。
しかし、入社してまだ1週間しかたっていないのに「休憩時間が予定どおりに取れない」からと言って、すぐにブラック企業と決めてしまうのは、さすがにちょっと早すぎます。
ブラック企業という言葉が一般化されてきたために、学生や若手の社員が振り回されている一つの例かもしれません。
冒頭の相談をしてきた新入社員に、「休憩時間について上司に確認してみましたか?」と聞いてみたところ、まだとの返答でしたので、まだ1週間しか経っていないのだから辞めることを考えるのには時期尚早であることをお伝えしました。
新入社員にとって、入社してみたら就業条件と異なっていたというのは非常に心配なのはよくわかります。また、新人が休憩時間について上司に質問することが高いハードルに思えることも十分に想像がつきます。
しかし、入社後わずか1週間で、しかもきちんとした確認もせずに辞めようかと考えてしまうのは、いくらなんでもまずいです。このように考えてしまう背景には、やはり売り手市場ということもあるのかもしれません。
彼女としては、私に「それはブラック企業だから、すぐ辞めた方が良い」と後押しをして欲しいのだろうということは話を聞いていてわかったのですが、結局40分くらい話を聞き、前述のアドバイスをしてその日は終了しました。
そして翌日、2日目の研修で昼休みに入ったところで、再び彼女が私のところにやってきました。「昨日、研修が終わってから母と一緒に職場に行って上司に確認をしたところ、「休憩はちゃんと45分取れるので、心配はいらない」と言われました。だから辞めずに続けることにしました」と安心した表情で報告してくれました。
休憩時間の確約が取れたこと、当面は辞めずに続けることを決断したのは安心しました。一方で社会人になったはずなのに母親が一緒に確認に行ったと聞いて、今度はそちらが心配になってしまいました。
冒頭のような話は今後もいろいろな場面で起こりえることですが、社会人になったのですから、まずは何をすべきか自ら考え、動いてみる姿勢が求められます。同時にそのためには労働者の権利や法律に関する知識を身に着けることがまず必要なのではないかと、今回のやりとりを経て改めて感じました。