国の労働政策審議会において、職場でのパワーハラスメント(以下パワハラ)対策の議論が始まったとの報道がありました。パワハラの被害は年々増加傾向にあります。仕事のストレスなどで「心の病」を患い2017年度に労災認定された506人のうち、職場のパワハラなどの「嫌がらせいじめ、暴行」が原因の人は88人で、原因別で最多とのことです。
記憶に新しいところでは、社長自らが社員の頭を丸刈りにする様子をユーチューブにアップするという、驚くべきパワハラの報道もありました。また、少し前には上司が部下に唾を吐いたり、エアガンで打ったり、「殺してやりたい」と暴言を吐いたりということも新聞に掲載されていました。
こうした、あからさまなパワハラが起きていることに驚きを隠せませんが、一方で最近新たな問題になっているのが、グレーゾーンにあたるパワハラです。
管理者研修を担当させていただくと、部下指導に関する様々な相談をいただきます。
その中で印象深いのは、部下指導の一貫で発した自身の発言に対して、部下から「それはパワハラではないですか」と真意とかけ離れたとられ方をされて、対応に困ったという事例です。
パワハラに関しては、2012年に厚生労働省が定義を公表しているのですが、その中に「業務の適正な範囲を超えて・・・」というくだりがあります。この「適正な範囲」の捉え方が人により異なることが、パワハラの認識をより難しくしているようです。
同じ会社や組織に属していても、人にはそれぞれの捉え方や価値観があります。従って、同じ状況下での発言や行為であっても、時によってパワハラと捉えられることもあれば、そうでないこともあります。ハウツーのように「Yes」と「No」の区別が簡単にはできないのです。
私に相談してきた前述の管理者は、以前から部下指導のつもりで発していた言葉(指示)に対して、新たに異動してきて部下になった人から、「そういう言い方はパワハラですね」と言われてしまい、面食らった」とおっしゃっていました。
また、「同様の指示をしても、一方の部下は指導だと受け取るし、一方の部下はパワハラだと言う。私自身パワハラは絶対に許されないものだと思っているだけに、部下からパワハラと言われてしまって、とてもびっくりしたし、正直ショックだった」ともおっしゃっていました。
このように、同じ指示をしても指示された方の受け取りかたによって、パワハラになったりならなかったりするところが、この「業務の適正な範囲」の難しさであり、いわゆるグレーゾーンの部分なのです。
実際に「業務の適正な範囲」は組織の文化や風土によって異なるところもありますし、業務の指示が行われた状況によっても異なります。
何よりも発信者と受信者個々の価値観が異なっているわけですから、感じ方は実に様々だということになるわけです。
それでは、こうしたグレーゾーンの事柄が起きてしまった場合、どうすれば良いのでしょうか。
結論から言うと、やりとりの状況、前後関係やどういう意味合いで言ったのか、両者の関係性、受信者がパワハラだと考えた理由などを一つ一つ確認しながら、その都度対応していくしかないのです。つまるところ、ケースバイケースの対応が必要と言うことになります。
あまりにも当たり前の回答にがっかりされた人もいらっしゃると思いますが、要はそれにつきるということなのです。
さらには、こうしたことが起きることのないよう、日ごろからコミュニケーションを密にしておくことも重要です。
もう一つ、明らかなパワハラは言語道断ですが、一方で「パワハラ」と言われることを恐れて部下指導をしないことは、管理者として別の問題があります。これについては、別途書きたいと思います。
どこまでが指導でどこからがパワハラか、グレーゾーンへの対応の難しさは当面続くのかもしれません。