先日、厚生労働省が発表した「労働経済の分析」(労働経済白書)によると、管理職になっていない会社員の6割は管理職になりたくないと考えているとのことです。
調査は役職に就いていない社員らに絞って行われ、昇進への考えを調べたところ「管理職以上に昇進したいと思わない」が61.1%で、「管理職に以上に昇進したい」は38.9%という結果になったそうです。
昇進を望まない理由(複数回答)では、「責任が重くなる」が71.3%、「業務量が増え、長時間労働になる」が65.8%、「現在の職務内容で働き続けたい」と「部下を管理・指導できる自信がない」が57.7%と続いています。
これは調査に基づいた数値ではありますが、ふと実際のところはどうなのだろうと思いました。
確かに責任が重くなることや業務量が増えることが嫌な人は多いでしょう。また、マネジメントよりも専門性を追究する、管理職にならずに一兵卒として働くことを希望する人もいるとは思います。
しかし、一方では必ずしもそういう人ばかりでなく、結果としてその状態(管理職ではない)を受け入れている人もいるのではないでしょうか?
と言うのも、弊社が新任管理者研修を担当させていただくと、新たに担う役職に希望を持って研修に参加している人が結構多いと感じられるからなのです。
また、ある企業で担当させていただいている昇格者と昇格前の人が一緒に参加するリーダーシップ研修では、昇格者は新たな役職に対して明らかに優位性を感じているような発言をする人を目の当たりにすることも少なくありません。
逆に、「管理職試験に何度もチャレンジしていますが、落ち続けています。だから周囲には管理職には興味がないような素振りをしているのですが、内心とても焦っています。後輩にも先を越されていますから」という相談を以前に受けたこともあります。
つまり、これらの事例から考えると、管理職になった人はやりがいを感じているのと同時に、「管理職になりたくない」には、実はそれが本音ではない人もある程度含まれているのではないかということです。
確かに、同期が一律に同じ職位にいて管理職なるまでまだ間があるような若手であれば、「将来、管理職になりたくない」という発言もあるのだと思います。
しかし、これが30代後半以降となれば「管理職になりたくない」という発言は必ずしも本音とは言い切れないのかもしれないと感じるのです。
たとえば、同期だけでなく後輩や部下にも先を越されてしまった人であれば、「管理職には興味がないし、なりたくない」と言って、自分に折り合いをつけていることも考えられます。
これはイソップ物語の「狐と葡萄」に通じる話にも思えます。森の中を歩いていた狐がおいしそうに実った葡萄を見つけましたが、葡萄は高いところに生っていて手が届かず、結局ブドウを食べることができなかったのです。
そこで、狐は「どうせこんな葡萄は酸っぱくてまずいだろう。誰が食べたいものか!」と負け惜しみの言葉を言ったという話です。本当は手に入れたいのにもかかわらず、努力しても手に入れられない対象に対して、その対象を「価値の無いもの」、「自分にふさわしくないもの」と考えて、自分自身を納得させて、心の平安を得ようとするものです。
この話から考えられるのは、人間の感情は決して一面では測れないということです。調査結果の「管理職になりたくない」は、こうした人間の複雑な感情を反映している言葉なのかもしれません。
さて、もしあなたがまだ管理職でない方でしたら、「あなたは管理職になりたいと思いますか?それとも管理職になりたくないですか?」